2025年11月5日
老後
【FP解説】103万の壁に交通費は含まれる?税負担を抑える働き方と収入調整のコツ

103万円の壁は税負担や扶養控除の適用に関わる重要な基準であり、収入の調整に影響を与えてきました。2025年から103万円の壁は取り払われ、新しく123万円の壁と160万円の壁が現れます。通勤手当の扱いや社会保険の加入要件を理解し、年収を適切に管理することが、税負担を軽減しながら働くために重要です。さらに130万円の壁や106万円の壁といったものも影響します。課税条件などを解説し、扶養控除を維持しながら働くコツを紹介します。

103万の壁とは?

「103万円の壁」は、これまで給与所得者が所得税を負担しないための基準額とされてきました。給与所得控除と基礎控除を合計して、年収103万円以下であれば所得税が発生しなかったためです。また、扶養控除の適用基準としても知られてきました。

しかし、2025年度の税改正により基礎控除額が改正され、年収160万円までであれば所得税が発生しない仕組みとなりました。またそれに連動して、扶養控除の適用基準も金額がアップし、年収103万円から123万円までとなりました。詳しく解説します。

年収103万円で発生していた税負担の仕組み

給与所得がある人の所得税は、控除額を超えると発生します。これまでは、どんな人でも控除の対象となる「基礎控除」が48万円で、給与所得のある人が対象となる「給与所得控除」が最高55万円でした。つまり、給与所得がある人は、48万円+55万円=103万円を超える部分に対して課税が行われていました。

このたびの改正により、令和7年分以後は「基礎控除」が95万円(合計所得金額が132万円以下の場合)、「給与所得控除」が65万円に引き上がります。つまりこれまで「扶養の範囲内で」と考えて働いてきた人は、今後は95万円+65万円=160万円を超える部分に課税されることになります。

なお、基礎控除額の改正は、以下の部分のみに適用されます。

【基礎控除額(改正された範囲)】

合計所得金額

(収入が給与だけの場合の収入金額(注3))

基礎控除額

改正後(注1

令和78年分

令和9年分以後

改正前

132万円以下

2003,999円以下)

95万円(注2)

48万円

132万円超336万円以下

2003,999円超4751,999円以下)

88万円(注2)

58万円

336万円超489万円以下

4751,999円超6655,556円以下)

68万円(注2

489万円超655万円以下

665万円5,556円超850万円以下)

63万円(注2

655万円超2,350万円以下

850万円超2,545万円以下)

58万円

(注)1改正後の所得税法第86条の規定による基礎控除額58万円に、改正後の租税特別措置法第41条の16の2の規定による加算額を加算した額となります。

258万円にそれぞれ37万円、30万円、10万円、5万円を加算した金額となります。なお、この加算は、居住者についてのみ適用があります。

3特定支出控除や所得金額調整控除の適用がある場合には、表の金額とは異なります。

4合計所得金額2,350万円超の場合の基礎控除額に改正はありません。

出典:令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(国税庁)

また、このたびの改正にあたり、扶養控除の適用基準となる所得基準が103万円から123万円にアップしました。つまり、これまで年収103万円以下の範囲内で働いていた人は、あと20万円分よけいに働いても、扶養控除が適用になります。

なお、配偶者の場合には、年収が123万円を超えても、160万円までは控除額が変わらず、そこから段階的に控除額が減額されていきます。そして、201万5,999円以下であれば配偶者特別控除の対象となります。

130万円の壁と106万円の壁との違い

130万円の壁は、社会保険の扶養から外れる基準です。社会保険の扶養になっている人は、年収が130万円を超えると扶養から抜け、自分が働いている会社の社会保険などに加入する必要があります。

106万円の壁は、一定の条件を満たすと社会保険への加入義務が発生するラインです。「従業員数51人以上の勤め先」「週の所定労働時間が20時間以上」「所定内賃金が月額8.8万円以上(106万円÷12カ月)」「2カ月を超える雇用の見込みがある」「学生ではない」が、社会保険が適用になる条件です。

ただし、106万円の壁は早晩なくなる予定です。「所定内賃金が月額8.8万円以上(106万円÷12カ月)」という基準がなくなり、「週の所定労働時間が20時間以上」「2カ月を超える雇用の見込みがある」「学生ではない」が、社会保険が適用になる条件となる見込みだからです。

交通費と課税対象

通勤手当として支給される交通費は、一定額までは非課税として扱われます。しかし、一定額の範囲を超える場合は課税対象となります。

交通費は課税対象になるのか?

公共交通機関を利用する場合、月額15万円までが非課税対象となります。

マイカーや自転車通勤の場合、片道の通勤距離に応じて、限度額が次のように定められています。

片道の通勤距離

1か月当たりの限度額

2キロメートル未満

(全額課税)

2キロメートル以上10キロメートル未満

4,200円

10キロメートル以上15キロメートル未満

7,100円

15キロメートル以上25キロメートル未満

12,900円

25キロメートル以上35キロメートル未満

18,700円

35キロメートル以上45キロメートル未満

24,400円

45キロメートル以上55キロメートル未満

28,000円

55キロメートル以上

31,600円

出典:No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当(国税庁)

収入計算における交通費の注意点

収入計算における交通費の注意点は、「交通費は非課税範囲であれば所得税の対象とならないが、社会保険料の対象にはなる」ということです。つまり、103万円の壁(新しくは123万円の壁)を気にするときは交通費を除外して年収を計算しますが、130万円の壁を意識する場合、130万円の壁は社会保険の壁ですから、交通費を入れて年収計算しなければなりません。

つまり今後、「123万円の壁は超えなかったけれど、130万円の壁は超えてしまった」という落とし穴があるかもしれません。123万円と130万円の差は、たったの7万円ですから、12ヶ月分の交通費が7万円を超えることは大いにあり得ます。

扶養控除を維持しながら働く方法

もし扶養控除を維持しながら働きたいと考えているなら、複数の壁を意識して働き方を調整しなければなりません。年収調整のコツと、税負担を抑えつつ家計を見直す方法をお伝えします。

年収調整のコツ

年収の壁を超えないようにするには、仕事の応募段階から年間収入をしっかり計算するのが大事です。例えば社会保険料の壁である130万円を12か月で割ると、月々の収入目安は約10万8,000円になります。交通費を含めてこの範囲内に収めるよう、毎月の勤務時間を計算し、シフトを調整するのが賢明です。

ただし、「繁忙期はなるべく出てほしいというお店の求めに応じたい」と考える人もいるでしょう。とくに多くのサービス業で繁忙期となる年末は、扶養の範囲内で働きたいと願う人たちが働き控えるために、人材が不足するというニュースがたびたび流れます。あらかじめ繁忙期が分かっている場合には、その月に多めにシフトには入れるようにするなどあらかじめ計画しましょう。

家計の見直しで節約する工夫

税負担を抑えつつ生活の質を保つには、固定費削減がポイントです。まずは携帯電話プランやインターネット契約を、利用頻度やデータ使用量に合ったものに変更しましょう。格安SIMの活用がおすすめです。

また、現在契約している保険を一度見直して、重複している保障や不要な特約がないかチェックするのも大事です。必要な場合は、保険の乗り換えを検討しましょう。

買い物に関しては、ポイントカードやクレジットカードのポイント還元を効果的に活用しましょう。ゲーム感覚で貯めることができるため、継続しやすい節約術です。なお、食肉などは安いときにまとめ買いをして冷凍しておくと経済的です。

将来の働き方

税制は今後も改正される可能性があり、昨今の法改正の方向性は確実に「働く人たちをなるべく社会保険に加入させる」ことへと向かっています。「壁」を回避するだけでない、将来の収入計画を見据えた働き方が、今後の家計を支えていきます。

長期的な収入計画の重要性

例えば子どもが小さいうちなどは、時短勤務にしたり、急なアクシデントに備えて仕事を抜けやすいパートやアルバイトとして働いたりしたほうが、家庭がうまく回るかもしれません。しかし、そのうち子どもには手がかからなくなります。そのとき初めて「扶養を超えて働くぞ」と決意しても、キャリアを積んでいなければいい仕事に出会えないかもしれません。

短期的に「壁」を意識するだけではなく、「我が家にどのくらいの収入が必要なのか、貯蓄が必要になるのか」を長期的に考え、収入計画を立ててみませんか。そのうえで、配偶者の給与がかなり高いなどの理由で「今のままでよい」と考えるなら現状維持でも構いません。しかし、「今のままでは将来の資金が足りない」と感じたら、自らのキャリアアップを見込んだ働き方を考えてみましょう。

制度の最新情報を活用する

厚生労働省では、社会保険適用拡大に伴い「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」を提供しています。これは、短時間労働者が「年収の壁」を気にせず働けるようにするための支援策です。

具体的には、事業主が社会保険の適用を行った場合、労働者1人あたり最大50万円の助成金を受け取ることができるというものです。ご自身が働く会社がこの助成金を検討しているか、確認してみましょう。

また、厚生労働省は、転職、再就職、スキルアップを目指す人向けに「求職者支援制度」を提供しています。職業訓練は無料で、ビジネスパソコン、IT、営業販売、医療事務、介護福祉、デザイン等から訓練コースを選ぶことができ、訓練期間は2~6ヶ月です。興味のある方は、お近くのハローワークに問い合わせてみましょう。

参考:キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)(厚生労働省)

   求職者支援制度のご案内(厚生労働省)

まとめ

年収の壁を理解し、交通費の課税対象を正しく把握することで、税負担を抑えながら働くことができます。ただ、将来的なことを考えて「キャリアアップを」と考えるなら、「壁」の存在はひとまず横に置き、自らのキャリアプランを検討するのが重要です。肝心なのは、長期的な家族のマネープランを作ること。ぜひ夫婦で取り組んでみてください。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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