2023年6月26日
体験談
【FP解説】突然ゴネ始めた次女の旦那さん!「争続」がウチでもあるなんて

相続が発生したとき相続人の間で揉め事が起こってしまうことを、最近では「争続」などと呼びます。「ウチはきょうだいみんな仲が良いから」「財産なんてそんなにないから」と心配していない人ほど、争続に巻き込まれがちです。今回は、東京都在住のDさん(76歳女性)の体験談をご紹介します。

三 姉妹が立ち会った夫の遺言書作成

私の子どもは53歳の長女を筆頭に、51歳の次女、48歳の三女の三姉妹。独身の三女がそのまま家に住んでいるほかは、結婚して独立しています。三女はかなりの引っ込み思案で何度か働きに出てはみたものの長続きせず、私と夫の年金で3人の生活を支えていました。

夫とは8歳離れた年の差婚。80歳を超えた頃からガタガタと体調を崩し、「頭がしっかりしているうちに遺言書を作成しておきたい」と本人から申し入れがありました。夫がそう切り出したのは、三女の存在があったからです。

夫亡き後、目減りしてしまう年金で2人の生活を支えていくためには、長女と次女に夫の遺産を公平に分け与える余裕はありません。「長女と次女には私が亡くなったときに残った遺産を渡せば良い。いったんは全ての遺産を私に渡すのがベストな形だろう」と、公証役場で公正証書遺言を作成しました。

幸い、三姉妹は仲がとても良いですし、長女も次女も常に三女のことをいたわってくれています。事情を知っている子どもたちはとくに何も言わないだろうと、あえて相談はしませんでした。

こんな人だったの?次女の旦那さんが「不公平極まりない」

遺言書を作成した2年後に夫は亡くなり、私と三姉妹は遺言通りに遺産を分けました。分けたといっても、長女と次女に渡ったのは夫の形見となるネクタイピンや少々の骨董品程度。私と三女が住む家と、保険金を含めた現金が私の元に残りました。長女も次女も、「これから二人が大変になるのは目に見えているから、いいよ」と、いったんは納得してくれたように見えました。

今後は細々と暮らしていかなければと覚悟を決めていたある日、次女の旦那さんから電話がありました。「おたくの遺産相続は、ずいぶんいい加減だね。妻には最低限の権利がある。きちんと遺産を分けてもらうからな」。怒鳴るような声に震えが走りました。すぐに次女へ電話すると、「夫は遺産相続についてとにかく怒っている。私も夫の話を聴いて少し疑問が湧いてしまった。今度、話しに行かせてほしい」と言われてしまいました。

次女の旦那さんといえばとても礼儀正しく朗らかな人という印象でしたから、本当にビックリしました。

調べてみると不利なことだらけ

後日、次女が旦那さんを連れて訪れました。旦那さんの話によると、遺言書があったとしても夫の子にあたる次女には最低限の取り分となる遺留分が認められ、夫の遺産からすると遺留分だけでも相当な金額になるとのこと。

「該当する金額を支払うか、土地を分けるかして公平な相続をしていただきたい。お母様に遺産が入るとはいえ、結局は末っ子さんのために家やお金を使うのでしょう?正直、妹さんの今の状態は甘えとしか思えません。働くなり婚活するなりして独立する努力をしない方に、どうしてうちの妻が自分の権利をすっかり明け渡さなければならないのでしょうか」

昔から気の弱いところのある次女は、旦那さんの話を黙って聞きながら、上目遣いに私を見つめるだけでした。後で無料の法律相談に事情を伝えたところ次女の旦那さんの話は正しく、「遺言書があるとはいえ遺留分を求められたら応じざるを得ないのでは」という回答でした。

結局、長女とも決別して……不安な2人ぼっちの暮らし

あくまで相続人は次女なので「旦那さんは関係ないでしょう」と突っぱねようと思いましたが、それでは次女の夫婦仲が悪くなってしまいます。結局、なけなしの保険金のなかから求めに応じた金額を譲り渡しました。それでも次女の旦那さんからは「自宅の価額を考えると、遺留分にはほど遠い金額ですよ」と捨て台詞を吐かれました。

しかし、話はそれで終わらなかったのです。「ひどい目に遭った」と言うつもりで長女に電話をすると、「どうしてお金を渡してしまったの、ひと言相談してくれなかったの」とすごい剣幕で怒られたのです。長女いわく、三女の事情があるから遺産の件は納得したのに、それでは話が違うと。「次女とは平等にしてもらわないと困る」というのです。

それなら長女にも次女と同額を渡すとなだめたところ、「2人の生活が苦しいのが分かっていて、そんなことしてもらえるわけないじゃない!」と怒鳴られ、電話は切られました。それきり、電話に出てもらえない日々が続いています。

仲のよかった三姉妹はバラバラになってしまいました。いっそのこと、遺言書なんてなければよかったのでしょうか。これでは、私は安心して死ねません。

【まとめ】当事者じゃないけど関係者……相続において配偶者は微妙な存在

遺産相続に口を出してくる配偶者は少なからずいるようです。夫婦間で不満を解消できればよいのですが、ときには今回の例のように他の相続人を巻き込んだ「争続」になることもあります。

子どもたちにどこまでも優しいDさんは、次女かわいさに、本来相続人ではない次女の旦那さんの言うなりになってしまいました。もし遺言書を作成する時点で三姉妹と会議をしていたら、トラブルがあった時点で長女に相談していたら、そして無料の法律相談に表面的な話をするだけでなく、正式な依頼として弁護士に詳しく相談する機会を設けていたら……何か違った結果になったかもしれないと、悔やまれるケースです。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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