2025年1月23日
老後
【FP解説】公務員の退職金はいくら?早期退職や定年延長した場合や老後資金の活用方法

公務員の退職手当は、勤続年や退職理由により支払われる金額が違い、定年まで勤めた際には2,000万円程度が支給されます。「公務員を早期退職した場合や、定年を延長した場合はどのくらい退職金が支払われるのか」と気にしている方もいるでしょう。この記事では、国家公務員や地方公務員の退職金制度について解説します。最後には、退職金を元にした老後資金の活用法についてもご案内するため、ぜひ参考にしてください。

公務員の退職金制度

公務員の退職金制度は、国家公務員であっても地方公務員であっても、あまり違いがありません。国家公務員の退職手当の基準は国家公務員退職手当法に基づいて定められ、地方公務員の退職手当については地方公務員法に基づき、国家公務員の制度等に準じて各自治体で条例を設けることになっているためです。

ここでは人事院が公表している国家公務員の退職手当制度と、その大元となる国家公務員退職手当法を参考に、公務員が退職金を受け取るために必要な勤続年数や受け取れる時期、退職金の課税額について解説します。

退職金を受け取るために必要な勤続年数

公務員の退職金は、勤続年数1年から支給されます。勤続年数1年で、自己都合で退職した場合、退職時の俸給月額に0.5022を掛けた金額が受け取れます。

退職金を受け取れる時期

公務員が退職したら、退職の翌月には退職金を受け取れます。12月に定年退職した場合は、1月中に振込があります。

退職金の課税額

退職金には税金がかかります。ただし、退職手当は給与所得ではなく「退職所得」として扱われ、給与所得として同じ金額をもらうよりも税金が少なくなるよう優遇されています。また、退職時に「退職所得の受給に関する申告書」を職場へ提出している場合、自分で税金を計算して確定申告する必要はありません。

参考までに、退職所得の課税額の計算方法を挙げておきます。

まず、次の計算式で退職所得の控除額を算出します。

【退職所得の控除額】

勤続年数 退職所得控除額
20年以下

勤続年数×40万円

80万円に満たない場合は80万円)

20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

※出典元:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)

退職所得の控除額が、退職金(源泉徴収される前の金額)よりも多い場合は、退職金に税金はかかりません。

控除額よりも退職金が多い場合でも、税金がかかるのは、以下の計算式で算出された金額に対してのみです。

(収入金額-退職所得控除額)×1/2

参考:退職手当の支給 第3章 定年後の収入と支出(人事院)

 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)

公務員の平均退職金

国家公務員の退職金の算定式は決まっています。退職金の計算方法や、公務員の平均退職金について解説します。

退職金の計算方法

国家公務員の退職手当は、次の算定式で計算されます。地方公務員も、概ねこれに準じた形です。

退職手当=基本額(退職日の俸給月額×退職理由別・勤続期間別支給割合)+調整額(1円未満切り捨て)

退職理由は、自己都合、定年・応募認定(早期退職募集)、死亡、傷病、整理などに区分されます。勤続期間は、職員として続けて勤務した在職期間により、月単位で計算されます。「退職理由別・勤続期間別支給割合」は、国家公務員退職手当法で定められた退職理由別・勤続期間別支給率に調整率を掛けたものです。

退職理由別・勤続期間別支給割合については、以下のページに一覧表が掲載されています。参考にしてください。

参考:退職手当の計算例(人事院)

調整額は、在職期間中の貢献度に応じた加算額で、職員の区分に応じて定める調整月額のうち、その額が多いものから60ヶ月分の調整月額を合計した額です。

以下の区分表を参考にすると、例えば「行(一)10級」が自分にとっては最上位の職位であって、「行(一)10級」での在職期間が60ヶ月以上あったときは、70,400円×60ヶ月分が調整額となります。

【退職手当の調整額区分表(給与法適用職員の例)】

  • 区分1 – 指定職(6号俸以上)、これに相当する職員 95,400円
  • 区分2 – 指定職(5号俸以下)、これに相当する職員 78,750円
  • 区分3 – 行(一)10級、これに相当する職員 70,400円
  • 区分4 – 行(一) 9級、これに相当する職員 65,000円
  • 区分5 – 行(一) 8級、これに相当する職員 59,550円
  • 区分6 – 行(一) 7級、これに相当する職員 54,150円
  • 区分7 – 行(一) 6級、これに相当する職員 43,350円
  • 区分8 – 行(一) 5級、これに相当する職員 32,500円
  • 区分9 – 行(一) 4級、これに相当する職員 27,100円
  • 区分10 – 行(一) 3級、これに相当する職員 21,700円
  • 区分11 – その他の職員(非常勤職員を含む。) 0円

(注)勤続9年以下の自己都合退職者等は調整額が支給されない。また、勤続4年以下の退職者(自己都合退職者以外)及び勤続10年以上24年以下の自己都合退職者は調整額が半額になる。

※出典:退職手当の計算例(人事院)

国家公務員の平均退職金

内閣官房「退職手当の支給状況」(令和4年版)によると、国家公務員の退職手当の平均支給額は1,104万3,000円です。うち、定年退職に絞ると平均支給額は2,112万2,000円です。

【退職理由別退職手当受給者数及び退職手当平均支給額】

退職理由 常勤職員
受給者数(人) 平均支給額(千円)
35,511 11,043
定年 14,283 21,122
応募認定 1,699 25,247
自己都合 9,854 2,745
その他 9,675 2,121

注)「その他」には任期制自衛官等の任期終了(常勤職員)や死亡等による退職を含む

※出典:内閣官房「退職手当の支給状況」(令和4年版)

地方公務員の平均退職金

総務省によると、令和5年における地方公務員(都道府県)の退職手当の支給状況は以下の通りです。

職種 全退職者平均支給額 60歳定年退職者平均支給額
前職種 約13,259,000円 約21,993,000円
一般職 約11,652,000円 約21,513,000円
一般職のうち一般行政職 約14,360,000円 約21,795,000円
教育公務員 約14,355,000円 約22,252,000円
警察職 約16,258,000円 約21,182,000円

総務省 「退職手当の支給状況」にある47都道府県の平均支給額データを参考に、全国平均支給額を算出

一般企業の平均退職金

厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」によると、常用労働者30人以上の民営企業で、6,421社を抽出し、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者について調査を行ったところ、定年退職者の退職給付額は「大学・大学院卒(管理・事務・技術職)」で1,896万円、「高校卒(管理・事務・技術職)」が1,682万円、「高校卒(現業職)」が1,183万円でした。国家公務員、地方公務員の退職金の水準の高さが見て取れます。

【退職者1人平均退職給付額(勤続20年以上かつ45歳以上の退職者)】

退職事由

一人平均退職給付額(万円)

大学・大学院卒

(管理・事務・技術職)

高校卒

(管理・事務・技術職)

高校卒

(現業職※)

定年 1,896 1,682 1,183
会社都合 1,738 1,385 737
自己都合 1,441 1,280 921
早期優遇 2,266 2,432 2,146

※現業職:管理職、事務職、技術職以外の非権利的業務

※出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」

公務員を早期退職・定年延長した場合

各省庁が応募条件を定めて定年前に退職する意思を持つ職員の募集を行うことがあります。いわゆる早期退職募集制度で、一般企業の場合は定年退職よりも退職金が優遇される傾向にありますが、公務員ではどうなのでしょうか。また、定年を延長した場合、退職金の金額は増減するのでしょうか。順番に解説します。

早期退職したときの退職金

早期退職募集制度を利用して早期退職したとき、公務員の退職金は、定年まで勤務した場合よりも多くなります。具体的には、退職金の計算式における基本額の部分を手厚くする形で増額になります。

国家公務員であり、かつ勤続期間が20年以上、年齢が定年から15を減じた年齢以上(定年が60歳の場合は、45歳以上)であれば、基本額の算定の基礎となる金額は次のように計算されます。

退職日の俸給月額×{1+(3%(注)×定年年齢までの残年数)}

つまり定年が60歳で、早期退職時の年齢が45歳の場合、3%×15=45%の割り増しとなります。

定年延長したときの退職金

2023年より段階的に公務員の定年を65歳へと延長する取り組みが始まっています。定年が延長しても、もらえる退職金が減額されることはありません。60歳以降、俸給減額が減額される場合でも、退職手当の基本となる俸給は減額前のものが使われます。これを「ピーク時特例」といいます。

また「定年が65歳まで延長になったのに、60歳で辞めたとしたら自己都合退職になってしまう?」と考える方もいるでしょう。しかし当分の間、退職事由は定年扱いとなり、退職金の金額に影響することはありません。

ただ、退職金は退職したときもらえるものなので、定年が延長すれば退職金がもらえる時期もそのぶん遠くなります。

退職金の老後資金への活用

定年時の退職金は老後の生活のためのお金です。しかし一時金としてまとめて支払われることが多いため、きちんと計画して使わないと、本当に必要になったときになくなっているという事態が起きかねません。貯蓄となるべくリスクの少ない運用で、長い老後を乗り切りましょう。

必要資金の貯蓄

まずは今後の家計をシミュレーションし、「毎月必要になるお金」を把握します。公的年金では賄えない部分があれば、働けるうちは働くか、退職金から補填するしかありません。毎月数万円ずつの補填を、「人生100年」と言われている時代ですから、40年続けるとして計算してみましょう。

必要額が分かったら、ひとまず数年分の補填費用が普通預金に確保されているか確認しましょう。もし確保されていなければ、退職金から貯蓄に回します。

定期預金

数年は手をつけないと分かっている資金の一部は、定期預金に回しましょう。普通預金に比べて金利が高く、また投資ではないため元本割れせずに必要な金額を確保できます。

例えば、「70歳になったらバリアフリーにリフォームしよう」などと決め、60歳から10年定期で工事に必要な金額を確保しておくなどの対策がおすすめです。

国債

数年は手をつけないと分かっている資金のうち、定期預金へ回さない分を、投資に回します。投資の中でも元本割れせず始めやすいのが個人向け国債です。年率0.05%の最低金利が保証され、1万円単位で購入できます。固定金利の3年、5年、変動金利の10年と、満期が3タイプあります。

NISA

NISAは少額からの投資を行う人のためにスタートした制度で、国債と違い元本割れのリスクはありますが、運用益が非課税になります。通常、2割ほどが税金として引かれてしまう運用益をまるごと再投資に使えるのは大きなメリットです。投資初心者の方が、最初にチャレンジする制度としておすすめです。

株式投資

NISAの投資対象商品は、金融庁の定める基準を満たした公募株式投資信託と上場株式投資信託(ETF)に限定されています。もし「自分が応援している企業の株を買いたい」「自分で業績を確認して、将来性があると思える企業を応援したい」といった意思があるなら、株式投資の勉強を始めるのがおすすめです。

ただし、定年を過ぎてから多くの資産を株式投資に回してしまうと、失敗したときが心配です。自分で働き、お金を取り戻すすべがないためです。少額から始めてコツをつかむ、なるべく分散投資をしてリスクを軽減するなどして、堅実に運用しましょう。

まとめ

公務員の退職金は法律に準じて定められているため、ご自身の退職金はいくらになるか予測を立てやすいといえます。若いうちから退職金や年金について知り、老後の資金についてシミュレーションしておけば、安心して暮らせるでしょう。余裕のあるときに、ぜひご夫婦で話し合ってみてください。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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