リバースモーゲージは、自宅を担保としながらもずっと住み慣れた家で過ごすことができる、シニア層に適した資金調達方法です。自宅を売却するなどしての元本返済は相続人が行うため、誰も住み継がない家の空家対策になります。このリバースモーゲージによって相続税対策をすることも可能ですが、注意点もあります。リバースモーゲージの仕組みやメリット、デメリットを解説した上で、相続税対策としての活用法をご案内します。
リバースモーゲージとは、自宅を担保にして金融機関から融資を受ける、シニア層向けの資金調達法です。まずはリバースモーゲージの仕組みや種類、よく似た仕組みである住宅ローンや「リースバック」との違いを解説します。
リバースモーゲージでは、自宅を担保に設定し、評価額に基づいた融資極度額(借り入れの限度額)の範囲で融資を受けます。借り入れた元金は、契約者がお亡くなりになった後、相続人が担保物件を売却するか、自己資金で返済します。契約者は、存命中は利息だけを返済することになります。
リバースモーゲージの借り入れ方式は3つあります。年金のように毎月決まった金額を借り入れる「年金方式」、まとまった金額を一度に借り入れる「一括方式」、資金が必要になったときにその都度借りられる「都度方式」の3つです。
生活費を補填したいなら「年金方式」、リフォーム代などまとまった金額がほしければ「一括方式」、入院や介護など資金が必要になったときのために備えておきたいなら「都度方式」など、目的に合わせて借り入れ方式を選べます。
リバースモーゲージには、大きく分けて「公的なリバースモーゲージ」と「民間のリバースモーゲージ」の2つがあります。
公的なリバースモーゲージとは、「不動産担保型生活資金」と呼ばれる福祉サービスの一環です。各都道府県の社会福祉協議会が取り扱っていて、契約者の年齢は65歳以上で、市町村税非課税世帯または等割課税世帯程度の低所得世帯でないと使えません。また、対象物件は一戸建てであり、マンションなど集合住宅は対象外です。
民間のリバースモーゲージとは、銀行などの金融機関や不動産会社が展開するものです。条件は各金融機関によって違いますが、契約者の年齢はおおむね50歳以上、所得の上限に制限はなく、一戸建てだけでなくマンションなども担保の対象になります。
ここまでお読みになった方のなかには、「家を担保にするなら、住宅ローンとどう違うの?」「リースバックという仕組みもあると聞いたけれど、どう違うの?」と疑問に思う方がいるかもしれません。両者との違いについて、それぞれ解説します。
住宅ローンとリバースモーゲージの違いは、資金調達の目的にあります。住宅ローンでは、マイホームを取得するためにお金を借り入れます。リバースモーゲージでは、すでにある自宅を手放し、生活資金などを得るためにお金を借り入れます。また、住宅ローンで得た資金はその性質上、住宅関連目的でしか使えませんが、リバースモーゲージは資金用途が原則として自由です。
リースバックとは、自宅を売却し、買主と賃貸契約を結ぶことで家に住み続ける方法です。自宅をもとに資金調達しながらも、ずっと家に住み続けられるところが、リバースモーゲージと似ています。ただ、売却のタイミングが違います。リバースモーゲージでは契約者が亡くなった後に家を売却しますが、リースバックでは生前に家を売却します。また、リバースモーゲージは融資の仕組みですが、リースバックは融資契約ではなく、売買契約と賃貸借契約を組み合わせたものです。
リバースモーゲージのメリットは、以下の3つです。
一般的なローンは、元金と利息を組み合わせて返済します。しかし、リバースモーゲージで毎月支払うのは、利息の部分のみです。つまり、月々の返済負担が、一般的なローンに比べて軽いといえます。年金暮らしのシニア層が助かる仕組みです。
一般的な売買契約では、自宅を売却してしまったら他の人の手に渡り、二度と住むことができません。リバースモーゲージでは、契約者の存命中はずっと自宅に住み続けられるため、安心して老後を迎えられます。
リバースモーゲージは資金用途が原則自由のため、不安な老後の生活費を補填するために使えます。また、詳しくは後述しますが、これからの暮らしをよくするために使うことが可能です。
リバースモーゲージのデメリットは、以下の3つです。
リバースモーゲージが利用できるのは、おおむね50歳以上です。若年層は利用できません。50歳未満の場合は、リースバックなど違う資金調達法を探すことになります。
3つのリスクとは、「長生きリスク」「金利上昇リスク」「評価額下落リスク」のことです。
長生きリスクとは、年金としてリバースモーゲージを活用している方が想定以上に長生きした場合、借入総額が融資極度額に達してしまうことです。融資極度額に達してしまったら、それ以降は借り入れができません。
金利上昇リスクとは、金利が上昇し毎月の返済額となる利息部分がアップする恐れがあること、評価額下落リスクとは、担保物件の評価額見直し時に価値が下落し、融資極度額が低くなる恐れがあることです。
どのリスクも、必要最低限の借り入れを心がけることで、ある程度防ぐことができます。
リバースモーゲージで借り入れた元金を完済するのは、ほとんどの場合、契約者がお亡くなりになった後です。つまり、契約者自身は自分で完済することができず、相続人に最後の手続きを任せることになります。
「子どもたちに金銭面で迷惑をかけたくなくてリバースモーゲージを選んだのに、最後には面倒をかけてしまう」と思い悩む人もいるでしょう。相続人が複数いる場合は、面倒な手続を誰がするかで揉めてしまうことも考えられます。
リバースモーゲージの最後の手続きを誰に任せるかは、前もってきちんと決め、本人だけでなく相続人全員に知らせておき、できれば遺言に残しましょう。手続きを任せる分、その相続人には遺産分割を多めに行うなどのケアをすると、トラブルのもとにはなりにくいためおすすめです。
相続の話が出てきたため、「リバースモーゲージは相続税の対策になるのだろうか?」と疑問に思う人もいるかと思われます。リバースモーゲージは相続税対策になりますが、注意点もあります。詳しく解説します。
リバースモーゲージの資金用途は原則自由です。つまり、子世代の住宅取得費用や、孫世代の教育費用などとして贈与することもできます。年間110万円までの贈与には贈与税がかかりませんし、特例を使って非課税にすることも可能です。非課税の範囲となる贈与で全体の財産を減らしておくと、相続税の対象になる遺産総額も減ります。
参考:No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税(国税庁)
No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税(国税庁)
ただし、年間110万円までの贈与を活用しようとする人は、注意が必要です。2023年度の税制改正により、2024年1月1日以降は、相続開始前の7年以内に被相続人から贈与により取得した財産がある場合は、相続財産に加算されることになりました。改正前は「3年以内」だったので、大きな改正です。気をつけましょう。
参考:令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし(国税庁)
リバースモーゲージを利用したら「家の相続自体がなくなるから、相続税対策になる」と考える人もいるかもしれません。しかし、家の相続手続そのものはなくなりません。相続人が担保物件を売却して元金を返済するためには、いったん契約者の家を相続しなければなりません。このとき、相続税がかかる可能性があります。
相続開始時点では、担保物件の時価(プラスの財産)と、借入金の累計額(マイナスの財産)が遺産として相続されることになります。家の評価額が高く、借入金が小さい場合ほど、遺産総額が大きくなるため、相続税の課税対象となる可能性が高まります。
また、自宅の評価額を80%減額できる「小規模宅地等の特例」は、配偶者か、あるいは故人と同居していなければ使えません。「相続人が同居していると速やかな売却に繋がらない」と、契約者夫婦あるいは契約者の1人暮らしの場合のみリバースモーゲージを受け付ける金融機関もあるため、注意が必要です。
税金対策以外でも、リバースモーゲージには相続が楽になるメリットがあります。詳しくは、以下の2点です。
相続人たちが住み継がない家は、空家になってしまいます。定期的な換気や草むしりなど、空家の管理は大変ですし、固定資産税やライフライン維持などの費用がかかります。
リバースモーゲージは、「住み手が亡くなったら家を売却する」と先に約束しておく契約ともいえます。空家対策になるため、相続人も安心できます。
相続人が複数いる場合、自宅である不動産を遺産として分割するのは困難です。遺産として主なものが自宅であり、現金はわずかしかない場合、遺産を公平に分けるのが難しいため相続人間に争いごとが生まれるきっかけになってしまいます。
リバースモーゲージは、生前に自宅を現金化しておく仕組みともいえます。自宅はいったん誰かが相続するものの、最終的には全てお金にかわるため、譲渡益が出た場合も公平に分割することが可能です。
リバースモーゲージで得たお金は、以下のように使えます。ぜひ参考にしてください。
年金暮らしで「毎月、少しずつ足りない」と感じる方もいるでしょう。毎月数万円を貯金から切り崩す生活は、心細いものです。毎月いくら足りなくなるのかをシミュレーションし、その金額だけを借りれば、長く借り続けられます。
足腰が弱くなる前に家の中の段差を解消しておきたい、しかし資金がないと悩む人には、リバースモーゲージでのリフォームがおすすめです。住宅資金関連に特化したリバースモーゲージである「リ・バース60」を使える可能性もあります。気になる方は、調べてみましょう。
サービス付き高齢者向け住宅など高齢者向けの住宅に住み替えたいけれど、住み替え先の部屋が狭くて持っていく家財を厳選できないという人は、リバースモーゲージを活用して「とりあえず」自宅を確保しておくのはいかがでしょう。住み替えても私物を置いておけるため便利です。すっかり自宅が片付いた後は、早めに売却すれば元金を返済できるため、毎月の返済から逃れられます。
長く楽しく生きるためには、趣味が不可欠です。「定年したら高額なオーディオを一式揃えてみたかった」「ヨットを購入して海を楽しみたい」といった願いを、リバースモーゲージで叶えてみませんか。余暇がたっぷりあるからこそできることを、十分に楽しみましょう。
円安が進行し、年々海外旅行が難しくなっています。しかし「海外旅行は高いから」と遠出を控えていると、歳を重ねて足腰が弱り、旅行自体ができなくなってしまうかもしれません。元気ではつらつと動けるうちに、行きたいところへ行っておくのがおすすめです。
リバースモーゲージの仕組みやメリット、デメリットがお分かりいただけたかと思います。リバースモーゲージは、相続税対策にも有効な面があります。注意点に気をつければ、仕組みを有意義に使うことができるでしょう。気になる方は、まずお近くの金融機関でリバースモーゲージを取り扱っているか調べてみましょう。