65歳以上の雇用保険の制度が変わったことは、意外と知られていません。65歳以上の高齢者を対象に、失業保険に代わる新しい制度ができたため、退職日によって給付金が多くなったり少なくなったりするケースがでてきました。せっかく長年納めてきた雇用保険で損をしないように、65歳前後で退職する場合の注意点について説明します。
日本の急速な少子高齢化で、シニアの労働環境も大きく変化しています。2013年から施行されている「高年齢者雇用安定法」では、企業は希望者全員を65歳まで雇用することが義務付けられました。これは年金支給開始年齢の65歳まで段階的引き上げているため、定年後から年金受給までの「収入空白期間」が生じないようにするための措置です。
法改正のもうひとつの背景は、労働人口の減少が進んでいること。働くことができるシニアはできるだけ長く働き、社会を支えてもらう必要がでてきたため、政府は高齢者が継続して働けるように、雇用保険に加入できる法改正を打ち出したのです。
それまで、65歳を過ぎてから雇用された人は雇用保険に入ることができませんでした。雇用保険に入ることができないということは、すなわち失業しても失業保険を申請できないということになります。しかし2017年1月1日の法改正で、新たに「高年齢求職者給付金」という制度ができました。これは65歳以上で離職した人に対して、いわゆる失業手当の代わりに給付されるお金になります。この法改正により、2017年1月1日から原則として、
・週20時間以上勤務
・31日以上継続勤務が見込まれて雇用されている
・65歳以上の人
は、「高年齢被保険者」として雇用保険に加入することになりました。
混乱を避けるため、雇用保険料の徴収については、暫定的な措置がとられました。というのも、それまでも65歳以前から雇用されていた人は、65歳を過ぎても継続的に雇用保険に加入できていましたが、65歳以降は雇用保険料の徴収が免除されるという規定がありました。この規定が、当面は継続して適用されることになったのです。
この時期に給与明細を見た方は、雇用保険料が徴収されていないので、「自分は雇用保険に入っているのだろうか?」と不安になったことがあるかもしれません。この規定も2020年4月1日からは廃止され、65歳以上の被保険者も雇用保険料を納めなければならなくなりました。
雇用保険に加入していた人が65歳になる前に退職すると、これまでと同じように(条件が合えば)基本手当(以下、失業保険)の給付を受けられます。一方、65歳以上を対象に、失業保険に相当する「高年齢求職者給付金」制度ができたため、65歳以降に退職する人は高年齢求職者給付金を受け取ることになります。
65歳前後で雇用保険を受け取る人は、以下に注意しましょう。
ご存じのように失業保険は、再就職することを支援し、失業中の生活保障のために支給される給付金です。雇用保険をかけていた期間が10年未満なら支給は90日分、被保険者期間1年以上20年未満なら120日分、被保険者期間20年以上なら150日分、支給されます。
それに対して高年齢求職者給付金は、被保険者期間1年未満なら30日分の一時金、被保険者期間1年以上なら50日分の一時金が支給されることになります。つまり基本手当と高年齢求職者給付金では、支給額に大きな差があるのです。65歳前後で退職を視野に入れているのでしたら、65歳になる前に退職して基本手当を受給したほうがお得になります。
特別支給の老齢厚生年金(65歳前に支給される厚生年金)を受給している人は要注意。特別支給の老齢厚生年金と失業保険の両方を受け取ることはできません。したがって失業保険を受け取ると、求職の申し込みをした月の翌月から特別支給の老齢厚生年金の支給が停止されます。ただし、特別支給の老齢厚生年金と失業保険のいずれか高いほうを選択することは可能です。
失業保険と老齢厚生年金の両方を受け取れる方法もあります。それは65歳より前(65歳の誕生日の前々日)までに退職して65歳に達する日以降に求職の申し込みをすること。ただし、失業保険の受給が可能な期間は、退職日の翌日から原則1年間。あまり早い時期に退職してしまい65歳まで待っていると、受給できない日数が生じる恐れがありますので注意してください。
退職時期を決める条件は、雇用保険の支給額だけではありません。給与面から見ると、1ヶ月早く退職すれば、1ヶ月分の給料がもらえないことになります。また65歳の期間満了まで働くことで、退職金や賞与に影響があるかもしれません。くれぐれもよく調べて、後悔のないように退職日を選ぶようにしましょう。