高齢者が資金を得るために利用可能だと、近年注目されているのがリバースモーゲージです。自宅を担保に金融機関からお金を借りる融資の仕組みで、生前は返済額が利息のみと負担が少ないため「家はあるけど老後資金に不安がある」と感じているシニア層に適しています。リバースモーゲージのメリットやデメリット、家を売却する仕組みとして似た性格を持つリースバックとの違いについて解説します。
リバースモーゲージは、自宅を担保とするシニア層向けの融資システムです。「自宅を担保にしたら、差し押さえられたとき大変なのでは?」と考える人もいるでしょう。しかし、基本的には住み慣れた自宅で一生を終えることが可能です。まずは、リバースモーゲージの基本的な仕組みや種類について解説します。
リバースモーゲージは、自宅を保有している高齢者向けの融資システムです。自宅を担保に金融機関からお金を借り入れ、契約者の存命中は利息だけを支払い続けます。契約者が亡くなったら、相続人が自宅を売却するなどして元金部分を返済します。
例外的に契約期間が定められているリバースモーゲージもありますが、基本的には、担保となっている自宅にずっと住み続けられます。存命中は返済額が安く抑えられているため、年金暮らしの家計に過度な負担がかかりません。
融資の限度額は、担保となる自宅の評価によって決まります。借り入れ方法は、一括してまとまった融資を受ける方法と、年金のように月々決まった額を受け取る方法と、お金が必要になったらその都度引き出せる方法の3パターンから選べます。
リバースモーゲージは、それほど新しい仕組みではありません。日本で最初のリバースモーゲージは、1981年に東京都武蔵野市が始めた福祉資金貸付事業であるといわれています。それから40年ほどが経っていますが、普及しているとは言いがたい現状です。なぜなのでしょうか。
リバースモーゲージがすぐに普及しなかった背景には、バブルの崩壊があるといわれています。1980年代から90年代初頭にかけては自治体や金融機関が取扱いをするようになりましたが、バブル崩壊とともに地価が下落し、担保割れを懸念した金融機関が新規の取扱いを軒並みやめました。
ここへ来てリバースモーゲージが注目されているのは、超高齢社会となりシニア層が公的年金以外の老後資金を用意しなければならないケースが増えたこと、持ち家文化が広まって自宅はあるけれどふんだんな資金のないシニア層が増えてきていることなどが挙げられます。
今後の普及に向けては、「融資=お金を借りる」ことをためらいやすい日本人の意識をどう変えていくか、基本的に一戸建てを対象としているリバースモーゲージをマンションでも利用できるように変えていけるかが 課題とされており、マンションの取扱可能な金融機関も増えています。
また「三大リスク」とよばれる「不動産価格下落リスク」「金利上昇リスク」「長生きリスク」にどう対応していくかも課題と言われています。三大リスクの詳細については、デメリットの項で詳しく解説します。
リバースモーゲージの種類は、自治体が提供している福祉目的のサービスと、金融機関が取り扱うサービスに分けられます。
福祉目的のリバースモーゲージは「不動産担保型生活資金」という名称です。自治体の社会福祉協議会が窓口となり、持ち家があって生活に困窮している65歳以上の高齢者を対象としています。高齢者の自立支援を目的としているため、子どもが同居している場合は利用できません。貸付金は月額30万円以内で、市町村税の非課税世帯または均等割課税世帯程度であることが利用条件となります。
金融機関が取り扱うリバースモーゲージは、金融機関が対象としているエリア内に自宅を持っている人が利用できます。福祉目的とは違い、世帯所得に上限はありません。また、自宅の評価額を元に計算された融資限度額内であれば一度の借入額に制限はありません。
福祉目的のリバースモーゲージは条件が厳しいため、多くの人は金融機関のリバースモーゲージを検討することになります。この記事では、主に金融機関のリバースモーゲージにおける利用条件やメリット、デメリットを解説します。
金融機関が取り扱うリバースモーゲージの利用条件は、おおむね以下の通りです。なお、金融機関によって若干の違いがあります。
各金融機関が指定するエリア内にある不動産が対象となります。首都圏や関西の都市部など、不動産の資産価値がとくに高いエリアが指定されます。
また、リバースモーゲージの融資限度額は建物ではなく土地の評価額によって決まるため、基本的には一戸建てを条件としている金融機関がほとんどです。ただし、駅近で便利な立地にあるマンションなど、資産価値の高いマンションであれば利用可能とする金融機関もあります。
リバースモーゲージを利用できるのは60歳から、あるいは55歳からとしている金融機関が多めですが、50歳から利用できる金融機関もあります。申込時の上限年齢は、おおむね80歳までです。
収入条件は、年金など一定の収入がある人とされています。シニア向けの商品なので、仕事をしていることは条件には入りません。無職でも利用できます。
また、リバースモーゲージでは最終的に家を売却するため、相続人の承諾が必要になります。
リバースモーゲージのメリットは、以下の5つです。
リバースモーゲージを利用したら、契約者の存命中、毎月返済するのは利息のみです。毎月少しの負担で、生活費のうち足りない分を充当できることになります。返済額が少ないのは、年金しか収入がない高齢者にとって大きなメリットです。
担保となった自宅に契約者がお亡くなりになるまでずっと住み続けられるため、わが家を手放さずに済みます。リバースモーゲージで融資を受けたお金で、バリアフリー住宅にすることも可能です。最後まで、親しんだ地域、友人と離れることなく人生を送れます。
現代のシニア層はとても元気。リタイアしたら海外を回りたい、趣味を極めたいなど、定年後の夢は人それぞれでしょう。しかし、「年金暮らしになるのだから出費を控えないと」と考えている人もいるはずです。
リバースモーゲージを利用すれば、第二の人生を十分に謳歌できます。「お金がないから」と諦めていた趣味などもスタートさせることができます。一度きりの人生ですから、思う存分楽しみたいと考えている人におすすめです。
シニア層の財産はやがて子世代へ相続されます。しかし、両親がお亡くなりになった後に子世代が家を売却してまとまったお金を得ても、すでに家計が苦しい子育て期は終わっているかもしれません。
「子どもが結婚し、家を建てたいと言っている」「孫を希望している私立中学に入れさせてあげたい」など、むしろお金が必要なのは今だと感じている人は多いのではないでしょうか。
リバースモーゲージなら、いわば自宅を売って得るお金を前借りするわけですから、子育てに必要な費用をすぐ子世代に渡すことができます。
リバースモーゲージは、家の売却先を生前から決めておく契約ともいえます。つまり、住み慣れた家が空き家になった後、買い手がつかずに相続人が困る事態を防ぐことが可能です。
家はひとたび空き家になると管理が大変です。時々は相続人が通って風を通さないと家が傷みやすくなりますし、雑草が生えて隣家に迷惑をかけたり、放火のリスクがつきまとったりと、相続人は頭を悩ませることになります。
もし子世代が家を継がないことが明らかであれば、リバースモーゲージによって家の売り先を予め決めておくのは賢い選択といえます。
リバースモーゲージには、注意点もあります。次の5つに気をつけて検討しましょう。
リバースモーゲージでは、定期的に不動産の価値を鑑定し直します。もしも不動産の価格が大きく下がると、融資限度額に影響したり、元本割れしたりするリスクが高まります。
毎月一定額の融資を受けている場合は、融資限度額に達する時期が予想していたよりも早くなるかもしれません。足りない生活費を補填するためにリバースモーゲージを利用している場合はとくに、家計に大きく響きます。
一括してまとまった金額を受け取っていた場合は、契約者がお亡くなりになった後に相続人が自宅を売却しても、売却益だけでは元金を返済できないかもしれません。持ち出しになると、相続人に負担がかかります。
もし元本割れが心配であれば、元本割れしても相続人に不足額が請求されない「ノンリコース型」を選びましょう。不足額が請求される「リコース型」よりも金利が高く設定されますが、子世代になるべく迷惑をかけたくない人にはおすすめです。
長生きは本来喜ばしいことですが、リバースモーゲージの利用においてはリスクになります。基本的に、清算は契約者の死亡時といわれるリバースモーゲージですが、長期の返済リスクを抑えるために期限付きの契約でリバースモーゲージを提供している金融機関もあるためです。
たとえば、60歳から25年間の契約でリバースモーゲージを利用したとします。25年後の85歳時には、契約者が存命でも一括返済する必要があるため、場合によっては、生きている間に家を失うこともあります。
リバースモーゲージのほとんどは変動金利型です。世の中の金利の動向に沿って金利が上下します。リバースモーゲージの場合、金利イコール毎月の返済額なので、金利が上昇すれば返済額がアップするリスクが高まります。
リバースモーゲージでは、契約者が亡くなるまで自宅に住み続けられます。契約をする際に、契約者が配偶者よりも先にお亡くなりになったときのことを相談しておかないと、配偶者がそのまま住み続けられないかもしれません。
不安であれば、契約者がお亡くなりになった後、配偶者がそのまま住み続けられるプランを用意している金融機関を選びましょう。
リバースモーゲージの資金用途は、生活費や旅行代、家のリフォーム、子世代などへの支援といった生活のため一般的な使い道に限られています。事業目的や投資目的は認められていません。
よって、融資を受けて新しい事業を始めようと考えている人や、投資に利用しようと思っている人にはおすすめできません。
以上のような注意点を読んで、「自分はリバースモーゲージに向いていないかも」と思った人もいることでしょう。続いて紹介するリースバックは、リバースモーゲージと同様、自宅を利用した資金調達の方法です。しかし少し内容が違うため、もしかしたらリースバックの方が向いている人もいるかもしれません。
リースバックとは、自宅を売却した上で買主と賃貸契約を結び、自宅を借りながら住み続ける売却法です。特徴や注意点、リースバックをおすすめする人について解説します。
リースバックの特徴は、自宅を売却してもそのまま住み続けられることです。リバースモーゲージも、担保となった家に住み続けられますが、リースバックでは自宅を担保化せず、予め売却します。このように、リバースモーゲージとは自宅を売却するタイミングが違います。
自宅を売却したら、改めて買主と賃貸契約を交わします。以後は家賃を支払うことで、自宅に住み続けることになります。リバースモーゲージとは違い、最初に家の権利を手放してしまうため、固定資産税や修繕費を負担する必要はありません。
なお、売却した家は特約をつけることで買い戻しが可能です。資金用途も自由なため、家を売却したお金で事業を興し、またお金ができた時点で買い戻すこともできます。
リースバックの注意点は、買い取り価格が相場よりも安いこと、周辺相場よりも家賃が高い可能性があることです。
リースバックの買い取り価格は市場相場の5割から7割程度です。もし高く売却できたとしても、家賃は売却価格によって決まるため、家賃が高くなってしまうリスクがあります。
せっかく売却益を得ても、高い家賃を支払い続けていれば、家賃の総額が売却益を超えてしまう可能性もあります。リースバックを利用するときは売却金と家賃を試算してもらい、十分に検討するのが大事です。
以上の特徴や注意点を踏まえた上でリースバックの利用をおすすめするのは、家を売却しつつ住み替え先を探したい人や、そのうち買い戻す予定のある人です。
老人ホームなどに住み替えを行う際、自分の部屋に持って行ける荷物はどうしても限られてしまいます。「住み替えたいとは考えているけれど、ゆっくり荷物を片づけたい」などと考えているなら、リースバックは適しているといえます。
リバースモーゲージは都市部に持ち家がある高齢者に適した融資の仕組みです。老後の生活資金に不安を抱えている人、家を相続する人がおらず空き家になる懸念のある人は、検討してみてはいかがでしょうか。リースバックの特徴も踏まえ、どちらが自分に合っているか比べてみましょう。