上場株式や投資信託の取引を行うときには、一般に特定口座を開設します。特定口座を開設すると、年間の売買損益などの計算を金融機関が行ってくれるため、金融商品に関する税金の確定申告や納税を簡易的に行うことができます。自分で納税額を計算する必要がなくなり便利です。特定口座の種類や一般口座との違い、メリット、デメリットについて解説します。
金融機関で投資信託などの取引を始めようとするときには、特定口座の開設を薦められます。特定口座は必ず開設しなければならないわけではありませんが、あれば便利です。まずは、特定口座と一般口座の違いを解説します。
特定口座とは、上場株式や投資信託など投資商品を取引するとき、その口座内で取引をすることで税金の申告が楽になる仕組みです。
投資を行うことで、対象となる企業から分配される配当金や、株式売買の際に発生する譲渡益が得られますこれらの儲けに関しては、所得税15%と住民税5%、合計20%の税金が発生します※。この税金は確定申告をすることで納付しますが、特定口座がないと、自分で配当金や譲渡益の計算を行わなければなりません。
特定口座を利用すれば、その口座内で出た利益などを金融機関が計算してくれるため、確定申告をしなくて済んだり、申告が楽になったりします。
※2037年12月末まではこれに復興特別所得税が加わり合計20.315%となる
投資は一般口座で行うことも可能です。投資をするときには、特定口座が必要というわけではありません。自分が日頃使っている口座を投資に利用しても良いのです。
しかし、一般口座で投資を行うと、利益の計算に手間がかかります。また、一定の会社員のように、確定申告が不要な人であっても、確定申告をしなければならなくなります。
特定口座のポイントは、なんといっても損益計算を金融機関が行ってくれることに尽きます。個人投資家の納税負担を軽減するために設けられているため、ある証券会社で初めて投資をする際にはきっと開設を薦められることでしょう。
特定口座は、証券会社ごとに開設することが可能です。複数の証券会社を利用したいと考えたときも便利です。
ただし、特定口座は個人投資家のための口座なので、法人は利用できません。
特定口座を使うとどのように確定申告が楽になるのか、そのしくみを解説します。
特定口座を開設すると、証券会社はその口座内における年間の譲渡損益を計算してくれます。計算結果は「特定口座年間取引報告書」として、契約者と所轄の税務署へ交付されます。
特定口座には「源泉徴収あり」と「源泉徴収なし」の2種類があり、いずれかを選択できます。それぞれの違いについては後述します。
確定申告とは、1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得金額と、それに対する所得税等の金額を計算し、所轄の税務署へ納める手続きのことです。会社員にはあまり馴染みのない手続きかもしれません。給与の収入額が2,000万円以下で、かつ給与を1ヶ所から受けている人は、一定の場合には確定申告をしなくてよいためです。
個人事業主や、会社員ではあるけれど副収入が20万円以上ある人、マンションのオーナーで家賃収入が発生する人などは、確定申告が必要です。
なお、年金生活者の場合は、以下のいずれにも該当する場合、確定申告の必要はありません。
※公的年金等の受給者の扶養親族等申告書の提出先であって、その年中の年金の額が一定の金額に満たないため源泉徴収を要しないこととされているものは、ここにいう「源泉徴収の対象」に含まれる
特定口座には、源泉徴収を行う「源泉徴収口座」と、源泉徴収なしの「簡易申告口座」があります。
源泉徴収口座は、金融機関が源泉徴収を行ってくれる特定口座です。特定口座内で生じた配当金や譲渡益に対し、あらかじめ税金を天引きした金額が振り込まれます。よって、その口座内で生じた取引については確定申告を行う必要がありません。
簡易申告口座は、金融機関側がその口座内での売買損益を計算した年間取引報告書を作成してくれる特定口座です。源泉徴収はされないため、確定申告を自ら行う必要があります。ただし年間取引報告書を参考にすれば、簡易に申告が可能です。
2種類の特定口座には、それぞれメリットとデメリットがあります。順に解説します。
源泉徴収口座のメリットは、一定の会社員であれば確定申告をする必要がないことです。とくに、それまで確定申告をしなくてもよかった人は、投資をしても確定申告が必要ないため、投資へのハードルがぐっと低くなります。
なお、源泉徴収口座で取引をすると、配偶者控除や扶養者控除の適用有無を判定する際の、配偶者等の合計所得金額に合算する必要がありません。
源泉徴収口座のデメリットは、利益や配当が出たとき一律で税金が引かれてしまうことです。給与や年金以外の所得が年間20万円以下であれば、そのぶんの確定申告は不要で所得税もかかりません。しかし、源泉徴収口座では、合計して年間20万円以下の利益や配当であっても所得税が自動的に納められてしまいます。
また、損失が発生した場合には確定申告をしないと他の口座の利益と相殺できません。結局、確定申告が必要になります。
簡易申告口座のメリットは、20万円以下の少額利益の場合には税金がかからず、確定申告を行う必要もないことです。よって少額投資を行いたいという場合、あえて簡易申告口座を選ぶ人がいます。
また、源泉徴収口座であっても損失が発生した場合には確定申告が必要になるため、もともと確定申告が必要で、申告がそれほど負担とは思わない人にとっては、簡易申告口座の方が適しているといえるでしょう。
簡易申告口座のデメリットは、やはり確定申告が必要になることです。とくに、もともと確定申告の必要がない人にとっては負担となります。
特定口座は、ご自身の状況に合わせて選ぶのがおすすめです。2つの特定口座のうち、どちらがどんな人にピッタリなのかを解説します。
ご自身が今、会社員などで確定申告の必要がなく、また利益が20万円を超えそうな大きい投資をしたいと考えている場合には、源泉徴収口座の開設がおすすめです。
投資などの副収入による利益が20万円以下の場合、その収入についての確定申告は必要ありません。源泉徴収講座を選択すると、収益が20万円以下であっても自動的に納税されてしまいます。大きく投資をしたい人は、源泉徴収口座を選びましょう。
少額から投資を始めたいと考えている方には、簡易申告口座がおすすめです。利益が20万円以下の場合、納税する必要がないためです。なお、特定口座の種類は変更できます。大きく投資をしたいと考えたタイミングで、源泉徴収口座に変更するのがいいでしょう。
また、もともと確定申告が必要であり、申告が苦にならない人にも簡易申告口座がおすすめです。年間取引報告書をもとに簡単な入力で申告が可能な上、損失が出た場合に、他の口座の利益と相殺が可能になります。
特定口座は、株や投資信託の取引をするときに開設すると便利な口座です。もともと確定申告が必要ない人には源泉徴収口座を、確定申告が苦にならない人には簡易申告口座をおすすめします。また、少額投資をしたい人にも簡易申告口座がおすすめです。
いずれにせよ、どちらの口座を選ぶかは、開設時のご自身の状況や投資の規模に応じて決めましょう。途中で変更することも可能なため、「まずは1年間、簡易申告口座で投資をしてみる」と決めるのもいいでしょう。