2025年4月28日
リバースモーゲージ
【FP解説】リバースモーゲージの歴史と制度に関してわかりやすく説明

自宅などの不動産を担保に金融機関などからお金を借り入れるリバースモーゲージは、高齢者向けの融資方法です。日本では最近注目されている資金調達法ですが、世界的に見ると長い歴史があり、アメリカでは政府が関与することにより使いやすいサービスとして定着しています。リバースモーゲージの展望についてよく知りたい人のために、歴史や制度、リスク、今後の課題などを徹底解説します。

リバースモーゲージの歴史

リバースモーゲージの起源は、ローマ時代からあったフランスの「ビアジェ」と呼ばれる仕組みであるとされています。ビアジェにおいては、高齢者が買主に自宅を売却し、買主はその対価として高齢者へ毎月年金のような形で金銭を支払っていました。そして売主の高齢者は、住み慣れた自宅でずっと過ごすことができました。

現代のリバースモーゲージも主な対象は高齢者であり、自宅を担保としながらも自宅に生涯住み続けられる仕組みを持っています。つまり、リバースモーゲージの基本的な仕組み自体はローマ時代からすでにあったということです。

この章では現代日本にフォーカスし、日本にリバースモーゲージが上陸した1980年代初頭からこれまでの歴史を振り返ります。その後、リバースモーゲージの特徴やメリットについて解説します。

日本のリバースモーゲージの歴史

日本のリバースモーゲージの起源は、東京都武蔵野市で1981年に始まった「福祉資金貸付事業」にあります(現在は終了)。武蔵野市の高齢者を対象として、持ち家を担保とすることで生活費や介護利用料を貸与してもらえる制度でした。返済は、契約者となる高齢者がお亡くなりになったら一括して行われていました。

つまり日本のリバースモーゲージは、自治体が行う福祉事業の一環として取り入れられたということになります。武蔵野市を皮切りに、他の自治体でも同様の貸付事業が行われるようになりました。

民間においてもリバースモーゲージをサービスに取り入れようとする気運はありましたが、ほどなくしてバブルが崩壊。不動産市況が不安定になったことから、リバースモーゲージの仕組みは、市民権を得るほどには成長しませんでした。

しかし2000年代に入り、高齢化社会のなかで「年金だけでは老後の暮らしが心配」という人が増えると、リバースモーゲージの重要性を説く声が増えてきました。日本の高齢者は資金がなくても資産価値の高い不動産を保有している人がたくさんいて、自宅を資金調達に活用すれば暮らしが安定する可能性が高まるためです。

需要を見いだしたさまざまな金融機関が、リバースモーゲージをサービス化し始めました。2007年には、住宅金融支援機構が資金の使い道を住宅関連に絞った「リ・バース60」を提供開始します。

そしてさらなる高齢化社会を迎えた2020年代、リバースモーゲージを扱っている金融機関は至る所に見られます。亡くなる前に自宅の買い手を確保できるため、空家対策の一環としても注目されるようになりました。

リバースモーゲージの特徴と仕組み

リバースモーゲージの特徴は、基本的に50代以降のシニア層向けであること、自宅を担保にできること、年金のように少しずつお金を借りられること、存命中の返済が利息のみであること、担保となった自宅に生涯住み続けられることです。

リバースモーゲージでは、最初に担保とする自宅の評価額を査定してもらいます。そして評価額を元に、融資極度額が決定されます。契約者は融資極度額に達するまで、毎月一定の金額を借り入れできる仕組みです。一括してまとまった金額を借りることもできます。

返済については、契約者の存命中は毎月利息のみを支払います。そして契約者がお亡くなりになった後、相続人が担保対象を売却するなどの手段で元金を一括返済します。元金の返済は、相続人が自己資金で行うことも可能です。

リバースモーゲージのメリット

リバースモーゲージのメリットは、住み慣れた自宅で最後まで過ごせること、毎月の返済負担が軽いこと、空家対策になることです。

高齢者にとって、晩年を自宅で過ごせるのは何よりの安心です。引っ越しを行うと土地に慣れるまでが大変なうえ、知り合いがおらず引きこもりがちになってしまうことから、健康状態の悪化や認知症の進行が心配されます。資金を得ながら今の居住環境をキープできることは、リバースモーゲージの一番のメリットといえるでしょう。

また、毎月の返済は利息のみなので、家計に多大な負担がかかりません。通常のローンであれば元金と利息を組み合わせて返済するため、年金中心の家計には大打撃です。少しの負担で大きな金額を借りられるのが、リバースモーゲージの嬉しいところです。

なお、近年は空家問題が注目を集めています。とくに高齢者が亡くなってから住み継ぐ人のいない空家は、維持管理が大変です。定期的に通うことができないと、家が傷み、庭は荒れてしまい、近隣の迷惑になりかねません。リバースモーゲージを活用すれば、亡くなる前に売り先を決めておくことができるため、空家対策になります。

リバースモーゲージのリスク

リバースモーゲージには3つのリスクがあるため、リスクをしっかり念頭に置いて検討する必要があります。「金利上昇」「評価額下落」「長生き」の3大リスクを、順に詳しくご紹介します。

金利上昇リスク

リバースモーゲージのほとんどは変動金利制です。金利が上昇すれば利息に影響するため、毎月の返済額が高くなってしまうかもしれません。いつ、どのくらい金利が上昇するかは誰にも分からないため、ある程度金利が上昇しても利息額を支払える範囲で、借り入れを行う必要があります。

評価額下落リスク

リバースモーゲージを契約すると、担保対象となる不動産は定期的に評価額を見直されます。土地の利便性が低くなったなどの自由で評価額が下落すると、融資を受けられる極度額が下がってしまうことがあります。

長生きリスク

年金のように毎月一定額を借りていると、想定よりも長生きした場合にリスクがあります。借入金の合計額が融資極度額に達すると、後の借り入れはできなくなってしまうためです。

以上のようなリスクを回避するためには、必要最低額を借り入れることが重要です。リバースモーゲージを検討する前に、老後の家計プランを想定し、毎月いくら足りないのかシミュレーションを行いましょう。

公共部門におけるリバースモーゲージ

現在、リバースモーゲージには、公共の福祉関連制度と民間サービスがあります。公共のリバースモーゲージには、以下の2つがあります。

都道府県社会福祉協議会「不動産担保型生活資金」

生活資金に困窮し、持ち家のある65歳以上の高齢者を対象に、リバースモーゲージの形式を利用して貸し付けを行う制度です。土地の評価額の7割を限度額とし、1ヶ月30万円以内を限度として生活資金を貸し付けます。

市町村民税非課税程度の低所得世帯であることが条件になるため、「困窮してはいないがリバースモーゲージを利用したい」と考える人は、民間のリバースモーゲージを検討した方がいいでしょう。

参考:不動産担保型生活資金 – 東京都福祉局(PDF)

住宅金融支援機構「リフォーム融資【高齢者向け返済特例】」

満60歳以上の方が自宅のバリアフリー工事などのリフォームを行う際に、リバースモーゲージの仕組みを利用して融資を受けられるリフォームローンです。1,500万円、あるいは住宅金融機構による担保評価額のいずれか低い額を限度として、住宅部分の工事費を借り受けられます。

毎月の支払いは利息のみで、元金は契約者がお亡くなりになった後、相続人がリフォームした住宅を売却するなどの方法で返済します。

参考:リフォーム融資【高齢者向け返済特例】(部分的バリアフリー工事・ヒートショック対策工事・耐震改修工事)

民間部門におけるリバースモーゲージ

民間によるリバースモーゲージは、さまざまな企業がサービス展開しています。企業の種類としては、主に以下の2つに分けられます。

金融機関

大手銀行、地方銀行のほか、信用金庫、信託会社などの金融機関がリバースモーゲージをサービス展開しています。取扱エリアを定めているケースがほとんどのため、自宅があるエリアをリバースモーゲージのサービス範囲としている金融機関を探しましょう。

ハウスメーカー

大手ハウスメーカーが金融機関と組んでリバースモーゲージを商品化していることがあります。生活資金としてリバースモーゲージを利用したいのではなく、リフォームや新築など家を整えるために資金調達したいと考える方にはおすすめです。

リバースモーゲージの今後の課題

リバースモーゲージは注目こそされていますが、まだまだ一般的な選択肢とはいえません。ご紹介したようなリスクがあること、利便性のある都市部の物件以外は審査に通りづらいことなどが、高いハードルになっています。今後、どのような施策をすれば課題が解決し、使いやすいサービスとなるのかを解説します。

公的保障

リスクをカバーするような公的保障があれば、安心してリバースモーゲージを利用する人がもっと増えると思われます。

例えば、発展を遂げているアメリカのリバースモーゲージ「HECM」では、連邦住宅局が担保割れをカバーする保険を付与し、リスク軽減に貢献しています。またこの保険には、事業主が支払い不能に陥っても契約者への支払いが継続される保障もついています。

さらにHECMでは、ローン債権が証券化され、さらに投資家が証券を購入しやすくなるように連邦抵当金庫が証券の元利払いを保証しています。リバースモーゲージの債権が証券化され、証券を購入する投資家が集まれば、金融機関は資金調達がしやすくなります。

リバースモーゲージは、日本が抱える高齢者の年金問題や空家問題を解決する可能性を秘めています。公的保障を充実させれば利用者が増え、社会課題の解決に繋がることが期待できます。

建物部分の評価の充実

日本のリバースモーゲージは、原則として土地の評価額を元に融資極度額が決まります。これは、伝統的な日本の建物が長期的な資産価値を有しないことにも理由があります。つまり木造の一軒家は何十年も保たないため、担保物件引き渡しのときにはかなり劣化している可能性のある建物部分は、評価の計算に入れないのです。

しかし、最近では一般的な民家であっても、長期的な使用を想定した技術で建てられるケースが増えています。建物部分の評価を充実させれば全体的な評価額がアップし、「借りたい金額に手が届く」と契約を検討する高齢者も増えていくと期待されます。

この章の参考文献:リバースモーゲージの現状と課題(国立国会図書館、2015)

まとめ

リバースモーゲージは、日本人にとってはあまり馴染みのないサービスですが、とくにアメリカでは資産を元にした資金調達法として多くの人に知られています。「持ち家があって資金が足りない」と危機感を持つ高齢者には、一考の価値がある融資の仕組みです。

老後の生活に不安を感じているなら、まずは定年後の家計をシミュレーションしてみましょう。老後の生活は、毎月の生活費に加えて家の修繕費、子や孫への援助費用、医療介護費などが必要です。こういった出費についても、想定額を入れて計算しなければなりません。

そして「ねんきん定期便」などを参考に、想定される年金額を算出し、足りない金額を把握します。貯蓄だけでは賄えないと思い、今の自宅を誰も継がないと分かっているなら、リバースモーゲージを選択肢に入れてはいかがでしょうか。まずは、自宅をリバースモーゲージのエリア内としている金融機関があるかどうかを調べてみましょう。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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