高年齢雇用継続給付金とは、60歳以降、働いているにもかかわらず賃金が激減してしまった人に給付されるお金です。給付金には、「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」の2タイプがあり、それぞれ支給の要件などが違います。低下率によっても、支給される金額が違ってきますから、申請に当たってはよく注意しなければなりません。高年齢雇用継続給付の制度を解説します。
高年齢雇用継続給付とは、60歳時点と比較して賃金が減ってしまった人のための給付金制度です。給付金には「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」の2タイプがあります。
「高年齢雇用継続基本給付金」は、主に60歳を超えてもそのまま働き続けている人が対象です。例えば、60歳で定年になったものの、アルバイトやパートとして再契約、再雇用されてそのまま同じ会社で働いたり、グループ会社に出向となったりするなど、無職の期間がない、あるいは少なく、失業給付を受けていない人が対象になります。
一方、「高年齢再就職給付金」は、60歳を経て一旦無職になり失業給付を受け、再就職を果たした人が対象になります。
どちらも、60歳以上、65歳未満であること、雇用保険に入っていること、日雇いや季節労働ではないことなどが要件としてあります。以下、詳しく説明します。
高年齢雇用継続基本給付金の支給要件は、以下の通りです。
「一般被保険者」とは、雇用保険に加入していて、週40時間労働しているか、あるいは20時間から40時間未満で、1年以上の雇用が見込まれる労働者を指します。
会社の雇用保険に加入していた期間が5年以上あることを指します。この5年は、継続していなくてもかまいません。転職を繰り返していても、雇用保険に入っていた期間が合算して5年以上であれば要件を満たします。60歳時点で雇用保険に入っていなくても、その前に保険期間が5年以上あり、かつ離職から再就職までの期間が1年以内であれば対象となります。
定年前は賃金が40万円だった場合、現在の賃金が30万円以下だったら申請できます。
雇用保険による失業給付や再就職手当を受けていないことが条件です。受給している場合は、「高年齢再就職給付金」の対象となります。
今の仕事を辞めるとき、退職する日が月末ではなく月中だった場合、その月については支給対象になりません。
高年齢再就職給付金の支給要件は、以下の通りです。
再就職までの間、失業給付を受けた人のうち、支給残日数が100日以上ある人が対象となります。
「一般被保険者」とは、雇用保険に加入していて、週40時間労働しているか、あるいは20時間から40時間未満で、1年以上の雇用が見込まれる労働者を指します。
雇用保険に加入していた期間が5年以上あることを指します。この5年は、継続していなくてもかまいません。転職を繰り返していても、雇用保険に入っていた期間が合算して5年以上であれば要件を満たします。60歳時点で雇用保険に入っていなくても、その前に保険期間が5年以上あれば対象となります。
60歳のとき、あるいは基本手当を受ける前の賃金が40万円だった場合、再就職先の賃金が30万円以下だったら申請できます。
再就職手当と同時に申請することはできません。いずれかを申請することになります。
原則として65歳になる月までが支給対象ですが、65歳に達しなくても、支給が打ち切りになることがあります。支給されるのは、基本手当の支給残日数が200日以上のときは2年まで、100日以上200日未満のときは1年までです。また、再就職先の仕事を始めるときや辞めるとき、出勤開始日や退職する日が月末ではなく月中だった場合、その月については支給対象になりません。
給付金額は、60歳時点ではなく、現在の賃金をベースに計算されます。原則として現在の賃金の15%が支給されますが、賃金の低下率によっては、支給率が変動します。
賃金の低下率 |
支給率 |
賃金の低下率 |
支給率 |
75%以上 |
0% |
67.5% |
7.26% |
74.5% |
0.44% |
67% |
7.8% |
74% |
0.88% |
66.5% |
8.35% |
73.5% |
1.33% |
66% |
8.91% |
73% |
1.79% |
65.5% |
9.48% |
72.5% |
2.25% |
65% |
10.05% |
72% |
2.72% |
64.5% |
10.64% |
71.5% |
3.2% |
64% |
11.23% |
71% |
3.68% |
63.5% |
11.84% |
70.5% |
4.17% |
63% |
12.45% |
70% |
4.67% |
62.5% |
13.07% |
69.5% |
5.17% |
62% |
13.7% |
69% |
5.68% |
61.5% |
14.35% |
68.5% |
6.2% |
61%以下 |
15% |
68% |
6.73% |
また、被保険者本人の欠勤や遅刻、事務所の休業などが原因で減額となった場合、支給額に影響することがあります。
高年齢雇用継続給付の申請は、主として事業主が行いますが、受給する本人が手続きすることも可能です。現在働いている会社を管轄しているハローワークで手続きをすることになります。初回の申請に必要書類は、以下の通りです。
2回目以降は、ハローワークから交付される高年齢雇用継続給付支給申請書と、賃金額を確認できる書類が必要になります。
高年齢雇用継続給付を受給してからは、原則として2ヶ月に1度、支給申請書の提出が必要になるため、注意しましょう。事業所、もしくは本人が、事業所の所在地を管轄するハローワークに提出します。電子申請も可能です。
また、支給を受けたい月から4ヶ月以内に、初回の申請を済ませることが必要です。退職と再雇用の煩雑さに紛れ、申請が遅くなってしまわないよう、気をつけましょう。
実は、高年齢雇用継続給付制度は2025年度を境に大きくその姿を変えることになります。給付率が半減し、段階的に廃止の方向へ動いていきます。
もともと、高年齢雇用継続給付制度は、高齢化社会に向けて「60歳での定年退職をやめて、65歳まで継続雇用を」と企業に促すために生まれた制度でした。しかし今では、65歳までの高年齢雇用確保措置を実施する企業が増えています。厚生労働省の調べによれば、「希望者全員が65歳以上まで働ける企業」は120,596社で76.8%となっています(平成30年)。
このことから、高年齢雇用継続給付制度はその役割を終えつつあるという判断がなされ、2025年度に60歳になる人から給付率を原則15%から、10%へと縮小する流れになったのです。
ただし、少子高齢化の中、元気なシニアに働いてもらいたいという国の意向は変わりません。今後は、定年廃止や70歳までの定年延長など、シニアの就業機会確保を「65歳」から「70歳」へとステージを変えて法整備していくことが目指されています。
参考:職業安定分科会雇用保険部会(第134回)資料1(令和元年11月15日)
年金の給付は原則として65歳からとなります。よって60歳から65歳未満を対象とする高年齢雇用継続給付とは、給付期間が重なりません。しかし特別支給の老齢厚生年として65歳以前から年金を受給している場合、給付期間が重なることがあります。その場合、在職による年金の支給停止のほか、さらに年金の一部が支給停止されます。つまり二段階で年金額が減ってしまうので、注意が必要です。
特別支給の老齢厚生年金とは、昭和36年4月1日(女性は昭和41年4月1日)以降に生まれ、厚生年金や共済組合の加入期間が1年以上ある人が老齢基礎年金の受給要件を満たしているとき、60歳から65歳になるまでに受け取れる年金です。
年齢にかかわらず、年金をもらいながら働いている人は、総報酬月額相当額(賞与を含めた年収を12で割ったもの)と年金の基本月額の合計額が47万円を超えると年金支給が一部、あるいは全部停止されます。これを在職老齢年金といいます。
在職老齢年金による調整後の年金支給月額は、基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)÷2です。
【年金額が月額10万円、総報酬月額相当額が40万円の場合】
10万円-(10万円+40万円-47万円)÷2=8万5000円
1万5000円が差し引かれ、8万5000円が支給されます。
在職の人が高年齢雇用継続給付を利用すると、在職老齢年金による年金減額のほかに、最高で総報酬月額相当額の6%にあたる年金額が支給停止されます。パーセンテージは、賃金の低下率によって変動します。
賃金の低下率が61%未満であった場合、総報酬月額相当額の6%にあたる金額が、年金額から減額されます。徐々にパーセンテージが減少していき、賃金の低下率が75%以上の場合は、減額なしとされます。
【年金額が月額10万円、総報酬月額相当額が40万円、賃金低下率が50%の場合】
40万円×6%=2万4000円が、年金額から差し引かれます。
先ほど、在職老齢年金によって既に1万5000円が差し引かれているため、減額の合計は4万1000円になります。
高年齢家雇用継続給付によってもらえる金額が、年金の減額を超えない場合もありますから、注意が必要です。
以上のように、高年齢雇用継続給付の制度は複雑です。申請前に要件をよく確認して、自分はいくらもらえるのかをシミュレーションし、金額を把握するのが大事です。
人生100年時代、60歳で給料が激減してしまっては、生活資金に不安が生じます。制度を賢く利用して、シニアライフを明るいものにしていきましょう。