60歳になり定年を迎えた後、同じ企業に再雇用される人や65歳まで定年延長となる人が増えてきました。しかし、再雇用後、一般的には賃金の支給額が下がる傾向にあり、その低下率は大きく、5割減というケースも珍しくありません。自身がどれほどの年収を保てるのか理解するための知識として、定年後の給与減をサポートする高年齢雇用継続給付金と、老齢厚生年金の支給額を解説します。
まずは、高年齢雇用継続給付と老齢厚生年金について、概要を解説します。
高年齢雇用継続給付とは、60歳のときの給与に比べて各月の給与が75%未満に低下した場合、低下率に応じて支給される給付金です。賞与は含まれませんので、賞与が減額されたとしても、この給付金によるサポートはありません。
高年齢雇用継続給付の対象となるのは、60歳以上65歳未満の人です。65歳を過ぎて再雇用されても、この制度は使えません。また、年齢が対象内であっても、各月の給料が36万584円以上ある場合は支給されません(令和3年8月からの支給限度額。支給限度額は毎年8月1日に変更される場合があります)。支給される金額の上限は、60歳以降の給料の15%です。
老齢厚生年金とは、厚生年金の加入者が65歳になったときに、老齢基礎年金に上乗せで支給される年金をいいます。ただし、以下の全ての資格を満たしていれば、65歳になるまで「特別支給の老齢厚生年金」を受け取ることができます。
よって条件をクリアすれば、65歳未満であっても「特別支給の老齢厚生年金」を希望することで年金受給できますが、高年齢雇用継続給付を受給している人は、給付額に応じて一部の額が支給停止となります。
つまり、定年後給与が減った場合、高年齢雇用継続給付も、特別支給の老齢厚生年金も、どちらも満額で受けられるということにはなりません。高年齢雇用継続給付の手続きをした方がよいのか、特別支給の老齢厚生年金を選ぶべきかは、個々人の給与や事情に応じて考えることになります。
高年齢雇用継続給付の計算方法は、以下の通りです。給与の減額率に応じて、支給率が変わります。
現在の給料の60歳時の給料に対する割合 |
高年齢雇用継続給付の60歳以降(現在)の賃金に対する支給率 |
75%以上 |
0% |
74% |
0.88% |
73% |
1.79% |
72% |
2.72% |
71% |
3.68% |
70% |
4.67% |
69% |
5.68% |
68% |
6.73% |
67% |
7.80% |
66% |
8.91% |
65% |
10.05% |
64% |
11.23% |
63% |
12.45% |
62% |
13.70% |
61%以下 |
15.00% |
【実際の給与の計算例】
Aさんは、60歳になる前までは月給40万円、ボーナスはおよそ半期で80万円をもらっていました。60歳以降、再雇用契約が結ばれて契約社員になり、月給は24万8,000円、ボーナスなしとなりました。そこで高年齢雇用継続給付を利用することにしました。
【60歳までの年収】
40万円×12ヶ月+80万円×2回=640万円
【再雇用後の年収】
再雇用後の月給は、60歳になるまでの月給の62%です。表を確認すると、62%の場合は、現在の月給の13.70%が給付されます。つまり、Aさんの60歳以降の年収は、以下のようになります。
(24万8,000円+(24万8,000円×13.70%))×12ヶ月=338万3,712円
このように、公的な支給があっても、年収は半分に近い額まで減ってしまうことになります。
60歳から65歳までの人が利用できる特別支給の老齢厚生年金の金額は、生年月日などに応じて、報酬比例部分と定額部分、加給年金額を合計した金額が受給できます。しかし、高年齢雇用継続給付を受ける場合、支給率に応じて老齢厚生年金の額が一部支給停止になりますから、注意が必要です。
【特別支給の老齢厚生年金の支給停止割合】
現在の給料の60歳時の給料に対する割合 |
特別支給の老齢厚生年金の支給停止割合(賃金(標準報酬月額)に対して) |
75%以上 |
0% |
74% |
0.35% |
73% |
0.72% |
72% |
1.09% |
71% |
1.47% |
70% |
1.87% |
69% |
2.27% |
68% |
2.69% |
67% |
3.12% |
66% |
3.56% |
65% |
4.02% |
64% |
4.49% |
63% |
4.98% |
62% |
5.48% |
61%以下 |
6.00% |
つまり、先ほどのAさんの場合、再雇用後の月給は60歳になるまでの月給の62%ですから、年金を受けてもそのうち現在の給与の5.48%に当たる金額は減額されてしまうことになります。金額にして、1万3,590円です。
さらに70歳未満の人が働きながら年金を受け取るときには「在職老齢年金」の計算方法が適用され、元々の年金額から減額されてしまいますので、これについても気をつけなければいけません。
【在職老齢年金の概要】
在職老齢年金の具体的な計算式については、以下のページに詳しく記載されています。
60歳台前半(60歳から65歳未満)の在職老齢年金の計算方法(日本年金機構)
ここで、先にご紹介したAさんの給与をもとに、給与と公的サポートの合計額についてトータル・シミュレーションしておきましょう。
Aさん
60歳になるまで:月給40万円 ボーナス年額160万円
再雇用後はボーナスがなくなり、特別支給の老齢厚生年金の月額を10万円(年間120万円)とすると、再雇用後の給与額によって、各受給金額は以下のように変わります。
再雇用後の給与額 |
高年齢雇用継続給付の支給額 |
在職老齢年金額 |
特別支給の老齢厚生年金の |
月々の収入 (給与+高年齢雇用継続給付金+在職老齢年金- |
40万円 |
0円 |
0円 |
0円 |
40万円 |
35万円 |
0円 |
1万5,000円 |
0円 |
36万5,000円 |
30万円 |
0円 |
4万円 |
0円 |
34万円 |
24万8,000円 |
3万3,976円 |
6万6,000円 |
1万3,590円 |
33万4,386円 |
20万円 |
3万円 |
9万円 |
1万2,000円 |
30万8,000円 |
以上のように、例え月給が半額になったとしても、給付金と年金をフル活用すれば、かなり年収が底上げされることがわかります。ただし、ボーナスの支給がありませんから、やはり収入は激減することに変わりはありません。定年前から再雇用後の収入についてシミュレーションし、生活水準をなるべく下げる努力をすることが大事です。
再雇用後の生活を考えるなら、給与額について今のうちに計算し、受けられるサポートについてなるべく広範囲に詳しく調べておきましょう。あまりに年収が下がり、生活できないと感じたら、早めに転職や独立に向けて動いておくのが重要です。また、自分の資産を総ざらいし、活用できる不動産等がないかを検討するのもおすすめです。