2023年7月8日
老後
【FP解説】実家の売却で後悔しないために必要なことは?空き家となるリスクも含め解説

相続した実家の売却で後悔したくないと思う人は、不動産売却の方法やタイミング、売却しない場合の選択肢などを知った上で、納得できる方法を選ぶのが大事です。空き家になって長期間が経つと、税金ばかりかさんで不動産会社の査定額はどんどん低下し、売りたくても売れないなど処分が難しくなります。ぜひ早めに対策しましょう。実家を売却、あるいは残す場合の方法について、必要なことを解説します。

実家に関する空き家のリスク

親が亡くなり、誰も住まなくなった家をそのままにしておくと、空き家のリスクがどんどん増大することをご存じでしょうか。住み手のいない家は、痛むのが早くなります。定期的に窓を開ける人がいないので、通気性が悪くなってカビが発生したり、害虫や害獣のすみかとなり家が荒らされたりするためです。

空き家のリスクは、家が傷むことだけではありません。管理が悪く庭の草木が茂ってしまうと、近隣に迷惑がかかります。伸び放題の草が景観を悪くしたり、大量の虫を発生させたり、道路の視界をさえぎり交通事故の原因になったりするためです。木の枝葉が電線に触れると、通電障害が起こることもあります。

また、台風など激しい風雨によって家の窓ガラスが割れたり、庭においてある用具が飛ばされたりすると、やはり近隣に迷惑がかかる可能性があります。あまりに老朽化すると、倒壊の恐れも。不法投棄や排水溝のつまりからくる悪臭、放火や漏電、自然発火による火事も心配です。

日本では空き家がどんどん増えてきています。総務省の調査によると、平成30年の空き家率は全国平均でおよそ13.6%。戸数は30年で2倍以上に膨れ上がりました。結果、空き家に関わるさまざまな困りごとは、近年、社会問題化するまでになっています。

政府はこの状況を重く見て、2015年に空き家対策特別措置法を施行しました。放置され、さまざまな危険のある空き家を「特定空き家等」として認定し、所有者に対して行政側が修繕や撤去の指導を行うことができる法律です。このように、実家が空き家となってしまうと、さまざまな人に迷惑をかけるどころか、法律によって指導を受ける対象になってしまうかもしれません。

参考:平成30年住宅・土地統計調査 結果の概要(総務省統計局)

実家の売却で後悔すること

空き家のリスクは大きいですが、実家の売却もまた、リスクを伴います。実家を残し、活用することを決めたとしても、やはり落とし穴が。実家の売却で後悔しがちなのが、以下の5点です。

譲渡取得税など高い税金をとられた

実家を相続し、かつ売却するとかかる税金には、以下の種類があります。

【相続時】

  • 相続税

実家を含めた遺産の合計額が「3000万円+(600万円×法定相続人数)」を超えると、相続税が発生します。

  • 登録免許税

不動産を相続し、故人から相続人へ名義を変更することを、相続登記と言います。相続登記を行うときには、不動産の固定資産評価額の0.4%が、登録免許税として課されます。

【売却時】

  • 贈与取得税および住民税

不動産を売却し、売却益が発生したら、贈与税および住民税が課されます。

  • 印紙税

不動産売買契約書を作成するとき、契約金額に応じて印紙税がかかります。

以上のような税金を計算すると、かなりの金額を手放すことになる人もいます。

焦って売却し、二束三文で手放してしまった

「古い家だから」「駅近物件ではないから」良い買い手がつかないかもしれないと考え、早急に手放そうとすると、相場よりもかなり低額で家を売ることになるかもしれません。

相続人間でトラブルになった

自分が相続した家だからと、ほかの兄弟の了承を得ずに売却してしまうと「どうして思い出の家を売ったのか」「売却金を分けて欲しい」など、トラブルのもととなったり、思わぬ要求を突きつけられたりするかもしれません。一度売却した家を取り戻すのは難しいため、兄弟仲が長期間こじれてしまうケースもあります。

安い費用で賃貸に出して赤字続きとなった

実家を売却するのではなく賃貸に出せば、毎月の収入になるうえ、住み手が日々の手入れをしてくれます。とはいえ、「固定資産税だけをまかなえればよいから」と安い費用で賃貸に出すと、修繕費がかさんで赤字になってしまう恐れがあります。

なかなか住み手が見つからず、管理費がかさんだ

売却するにしろ、賃貸に出すにしろ、住み手が見つからない間は、相続人が管理しなければなりません。実家から遠い所に住んでいるのであれば、仲介を頼んでいる不動産会社に管理を依頼する人が多いです。

管理料金の相場は、1カ月につき約1万円で、雪国であれば雪かきや雪下ろしの費用が追加になる場合もあります。また、固定資産税も支払い続けなければなりません。売値を下げる、家賃を下げるといった対策を高じなければ、こうした費用がどんどんかさんでいきます。

実家の売却で後悔しないために必要なこと

実家の売却で後悔するケースから導き出される対策は、以下の5つです。

実家を売却したときの税金を把握しておく

実家の売却金額を決める前に、かかる税金の金額を把握しておきましょう。譲渡取得税の金額は、売却価格や譲渡のためにかかる費用によって変わってきます。譲渡のためにかかる費用とは、売却時に負担するリフォーム費用などです。不動産会社に実家売却の相談をしたときなどに、シミュレーションしてもらいましょう。

複数の不動産会社から相見積もりをとる

不動産の査定額は、不動産会社によって違います。必ず複数の不動産会社から相見積もりをとり、条件を比較検討しましょう。

実家売却前に、兄弟に了承を得ておく

自分が相続した実家とはいえ、ほかの兄弟にとっても、たくさんの思い出が詰まった家であることに違いはありません。実家を売却したいと考えたら、まずはほかの兄弟に了解を求めましょう。

賃貸に出すなら想定される修繕費も賃料に反映させる

実家を賃貸物件にしたいと考えたら、固定資産税だけでなく、今後発生する修繕費やリフォームの費用を、不動産会社と一緒に想定して算出しましょう。そして毎月の賃料に反映させるのが大事です。賃貸開始になったら、賃料のうち一定額を修繕のための費用として積み立てるなど、いざというとき困らないよう工夫します。

期限を決め段階的に売値や賃料を下げる覚悟をする

実家を売却するにしろ賃貸にするにしろ、住み手を募集するときには、住み手が見つからない間の管理費と固定資産税について算出しておきます。そのうえで、「いつまでなら、この管理費と固定資産税を支払えるか」と考え、売値や賃料を下げる期限を決めましょう。不動産会社と相談し、どんな段階で、いくらずつ価格を下げていくかあらかじめ推定しておくと安心です。

実家を売却する方法と残す方法

実家を売却する方法と残す方法には、いくつかの選択肢があります。それぞれご紹介します。

実家を売却する方法

実家を売却する方法は、いくつかあります。段階を追ってご紹介します。

  • 隣の家に声をかけてみる

まずは、実家の隣の家に声をかけてみましょう。隣接する土地の購入を、メリット大と考える人がいるためです。

隣の土地を買っておけば、「二世帯住宅を建てたい」など、より大きな家を欲したときに土地探しをする手間が省け、土地勘のある地域にずっと住み続けられます。また、将来、土地を売却したいと考えたとき、まとまった面積の土地の方が、価値が上がる可能性があります。

運良く隣の家がイエスと言えば、不動産会社の仲介料や広告費など土地売却のためにかかる費用はぐっと安くなり、最速で買い手が見つかるため管理費の負担も軽減します。

  • 不動産会社に仲介してもらい買い手を探す

一般的には、不動産会社に仲介してもらい、買い手を探すことになります。この際、先述したように相見積もりをとり、またきちんと実家の売却を任せられると感じるところに依頼しましょう。

不動産会社に不動産売却の仲介を依頼するときには、媒介契約を結びます。媒介契約には、一社だけに仲介を任せ、自分で買い手を探すこともできる「専任媒介契約」、一社だけに仲介を任せた上で自己発見取引ができない「専属専任媒介契約」、複数の不動産会社に並行して仲介を依頼する「一般媒介契約」があります。

「一般媒介契約」が主流で、幅広く買い手を募集できますが、「専任媒介契約」や「専属専任媒介契約」の方が、より営業努力をしてくれるというメリットがあります。

  • 空き家バンクに登録する

空き家バンクとは、空き家の物件情報を自治体が提供する仕組みです。営利目的ではないため仲介料がない、移住促進のため補助金制度が敷かれている自治体もあり移住希望者の目にとまりやすいというメリットがあります。不動産会社と仲介契約を結んでも、「専属専任媒介契約」でなければ利用可能です。

  • 更地にして土地を売り出す

実家があまりに古く住み手が見つからない場合は、更地にして土地だけを売るという方法があります。解体や整地のため、100万円を超える費用がかかる可能性があり、宅地がある状態に比べると固定資産税が高くなるのがデメリットです。しかし家がないぶん管理費はぐっと安くなり、活用法が多用途になるため、より早めの売却が可能になります。

  • 不動産会社に買い取ってもらう

不動産会社に仲介してもらって買い手を探すのではなく、不動産会社に直接買い取ってもらえば、スピーディーに売却できます。ただ、売却金額は、買い手を見つけて買い取ってもらうよりも一般的には低くなります。買い手が見つかるという自信を持てない人、とにかく早く売却したい人におすすめです。

実家を残す方法

実家を残す方法として、主に以下の4つが考えられます。

  • 住み継ぐ

管理費や税金の面で、最もコストパフォーマンスが良いのは、相続人が住み継ぐことです。誰かに管理してもらわずに、自分が住んで手入れできれば管理費は必要ありませんし、固定資産税や修繕費の発生は、住んでいる家であれば当たり前のこと。

ただ、そもそも実家を売却したいと考えている人は、さまざまな事情により「住み継ぐことは不可能」と判断していることが多いです。

  • 兄弟共有の別荘とする

お正月やお盆などに親族が集まる、あるいは兄弟それぞれが故郷に帰ってのんびり過ごしたいときなどに利用する別荘として、実家を残すという方法があります。管理費や固定資産税、電気代や水道代の負担はありますが、ほかの兄弟にも相談の上でいくらか支払ってもらうことにすれば、負担が分散されます。

  • そのまま賃貸に出す

宅地付きの土地として賃貸に出すことができます。築年数が新しいほど賃料は高くなり、また、借り手も見つけやすいです。家が老朽化し、そのままでは賃貸に出せない場合は、リフォームを行う必要があります。

  • 更地にして土地を賃貸する

家があまりに老朽化している場合は、更地にした方が借り手を見つけやすいかもしれません。更地にすると固定資産税が高くなりますが、宅地の修繕費や管理費はかかりません。また、借り手が建てる建築物については、管理や修繕の義務を負いません。駐車場経営や太陽光発電、トランクルームといった、さまざまな企業が借り手候補となります。

実家の売却で後悔しないために、早めの対策をしたい

実家を売却するか活用するか、悩んでいるなら早めに不動産のプロに相談し、さまざまな選択肢の中から最適な方法を選び出しましょう。決断が遅れるほど、空き家管理のためのコストがかかります。無駄な出費を生まないためにも、対策についてはなるべく早く動き出すのが大事です。

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奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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