最近、全国的に空き家が増えて問題化しています。住み手のいない住宅を相続した後、空き家対策をしないまま放置すれば、「特定空家」に指定されて固定資産税の優遇措置が受けられなくなってしまうかもしれません。空き家を適切に管理しないと、どうなってしまうのでしょうか。空き家問題の原因や空き家のリスク、売却や賃貸を活用するといった解決策について解説します。
人が住んでいない空き家は、適切な管理が行わなければどんどん傷んでしまうどころか、周りの住民に迷惑をかけてしまいかねません。空き家は、近年著しく増加傾向にあるといわれています。空き家問題の現状や、問題の原因となっている事柄について、まずは詳しく解説します。
総務省統計局では、5年ごとに住宅・土地統計調査を行い、空き家の数についても集計を行っています。前回の調査は平成30年で、全国における空き家の数は848万9,000戸。空き家率は13.6%に上り、過去最高をマークしました。
出典:総務省「平成30年住宅・土地統計調査」
データから分かるように、空き家の数も空き家率も、ここ60年で急激に増加しています。
ただし、空き家にもさまざまな種類があります。同じ令和元年のデータによれば、空き家の内訳は以下の通りです。
・賃貸用住宅:432万7,000戸(空き家のうち50.9%)
(住み手のいない賃貸物件)
・売却用住宅:29万3,000戸(空き家のうち3.5%)
(まだ買い手のつかない売却物件)
・二次的住宅:38万1,000戸(空き家のうち4.5%)
(別荘など)
・その他の住宅:348万7,000戸(空き家のうち41.4%)
つまり、賃貸や売却といった用途の定まっていない「その他の住宅」としての空き家が4割を占めているということになります。空き家が問題になるのは、この「その他の住宅」のためです。賃貸に出さず売りもしない、誰も住まない住宅は、今後利益を生みません。管理する動機が弱いため、適切に管理されないケースが増えているのです。
なぜ、これほどまでに空き家が増えたのでしょうか。最大の理由の1つとして、持ち家を所有し夫婦世帯で住んでいた高齢者が亡くなり、あるいは高齢者施設などへ住み替えを行い、住み手がいなくなることが挙げられます。子世代はみなマイホームを建て独立しており、継ぐ人がいないのです。
また、少子高齢化が加速するなかで住宅の需給バランスが崩れたことも、空き家問題の原因といわれています。つまり、家はあっても住み手がいないのです。「その他の住宅」のみならず「売却用住宅」も、買い手が見つからなければいずれ空き家問題の対象となる「その他の住宅」になってしまう可能性があります。
誰も住み手のいない空き家が適切に管理されないと、以下のようなリスクが生じます。
家は住み手が手入れをすることで室内が清潔に保たれています。誰も住まなくなると空気の入れ換えが不足し、湿気が溜まってカビやダニが発生しやすくなります。また、さまざまな菌類が繁殖することで木材の腐食が進み、土台部分や柱に致命的な損傷を与えることがあります。
また、使用しないガス管は乾燥によりひび割れが生じやすくなりますし、使われない水道管にはサビが発生しやすくなります。ライフラインの劣化が進み、家は外観も内部も傷んでいきます。
普段、虫や獣は人を恐れて人家には近寄りません。しかし空き家には誰も住んでいないため、害虫や害獣が住み着きます。家の柱などをかじったり、糞尿を撒き散らかしたりして、家がさらに傷みます。非常に不衛生な家となるため、次に人が住もうとするときには、大がかりなリフォームが必要になるかもしれません。
台風などで窓ガラスが破損したり、家の構造物が飛ばされたり、地震で家が傾いたりしても、常時住んでいる人がいなければ破損に気づくことができません。近所の誰かが気づいても、空き家管理者の連絡先を知らなければ、破損があるまま放置されてしまいます。家の傷みが進むうえ、構造物が落下して周辺の住民にケガをさせる恐れがあります。
空き家にはゴミや枯れ草が放置され、また人の目につかないため、放火されるリスクがつきまといます。放火されても、住み手がいなければ所有者はすぐに気づくことができません。消防への通報が遅れれば、周辺に延焼してしまう恐れがあります。
一軒家を放置すると、夏にはとくに雑草が伸びて虫が発生し、近隣に迷惑をかけてしまう可能性が高くなります。また、木の枝草が伸びると電線を圧迫するなどして大変危険です。
増加の一途をたどる空き家に対して、国や地方自治体がさまざまな対策を行っています。空き家対策をビジネスに組み込む民間企業も登場しました。それぞれの取り組みについて解説します。
国は関連法規を新設したり改正したりすることで、空き家対策に取り組んでいます。
・空家等対策の推進に関する特別措置法(空家対策特別措置法)
2014年に制定され、翌2015年に全面施行された法律です。倒壊など危険な状態にあったり、適切な管理が行われず著しく景観を損なっている空き家を「特定空家」に指定し、固定資産税の優遇対象から外したり、管理助言や指導、勧告、命令ができたりするようになりました。
・空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除
空き家は相続を機に発生する物が過半以上との認識から、相続から一定期間のうちに被相続人が住んでいた家や土地を相続人が売却した場合、譲渡所得から3,000万円が特別控除されます。期限が延長され、今のところ2027年12月31日まで適用可能です。
・相続登記の義務化
相続した土地を相続人の名義にすることを、相続登記といいます。これまで相続登記の期限はありませんでしたが、2024年4月1日からは、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を行わなければならなくなりました。土地の所有者を明らかにし、問題を抱えた空き家が生じた際に連絡すべき人物を明確にしておくのが狙いです。
・相続土地国庫帰属制度
2023年4月27日から、相続した土地を国が引き取る制度がスタートしました。土地を相続しても売却や賃貸などで利用できなければ、放置される危険性が高まります。この制度を利用すれば、更地にしたうえで一筆20万円を負担すると、土地の所有権が国に移転します。所有者不明の土地をなるべく発生させないことが目的です。
地方自治体によって取り組みの内容は違いますが、空き家の実態調査を行ったうえで除草や雪庇処理などの管理支援、解体支援、空き家バンクにより売り手と買い手をマッチングさせる等の方法で支援を行っています。
空き家管理サービスを設け、除草や清掃、修繕箇所の見回りなどを定期的に行う会社が全国に点在しています。また、空き家をそのまま借り上げ、企業側が必要な修繕やリフォームを行って賃貸に出したり、古民家カフェなどを立ち上げたりするケースもあります。
空き家への対策は、早ければ早いほど効果的です。空き家にはさまざまなリスクが生じるほか、固定資産税や管理費用がかさんでしまうためです。次のような対策を、家族など他の相続人と相談の上で行いましょう。
古くから「家を売るなら隣の人へ相談しなさい」といわれています。それは、「隣の土地は借金してでも買え」という名言があるとおり、土地の面積が増えれば利用価値が上がり、いずれ二世帯住宅に使えるなど買主にとってメリットが大きいためです。まずは隣家に声をかけてみてはいかがでしょう。
自力で買主を見つけることが困難だったり、金額交渉が苦手だったりするなら、不動産会社への相談もおすすめです。広告を出して広く買主を募集してくれるほか、なかなか買主が見つからなければ不動産会社に買い取りの相談をすることもできます。
相続した家の資産価値が高く、手放すのがもったいないと感じているなら、賃貸物件として活用するのはいかがでしょうか。不動産会社を通せば、自分でお金のやり取りや修繕などの管理を行う必要はありません。
ただ、立地やタイミングによってはなかなか借り手が現れないかもしれません。先ほど解説した「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」は、「相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること」が条件です。借り手が現れないまま、売却のタイミングを逃してしまわないよう気をつけましょう。
売却するか賃貸に出すか決められない場合は、先述した空き家管理サービスの利用を検討しましょう。管理されないまま家が傷むのを防いでくれるため、いざ売却や賃貸に踏み切ったとき、資産価値を損なわずに取引できます。
売り手も借り手も現れないとしたら、国庫への帰属を検討しましょう。更地にするなどの要件があり費用はかかりますが、この先ずっと固定資産税や管理費用を支払い続けることに比べれば、手放した方が安心できます。
住み手が存命中であれば、リバースモーゲージを利用できる可能性があります。リバースモーゲージとは、自宅を担保に借入を行うシニア向けの融資システムです。自宅の評価額に応じて融資限度額が決まります。
リバースモーゲージの特徴は、返済方法にあります。担保となる自宅の住み手である契約者が生存している間は、毎月利息を支払うだけで融資が受けられます。元金は、契約者が亡くなった後に相続人が空き家を売却するなどの形で返済します。
つまり、リバースモーゲージを利用すれば、担保となる自宅に亡くなるまで住み続けられるうえ、空き家となった自宅を速やかに売却することができるのです。自力でできる空き家対策のなかでも、生前にメリットがある唯一の方法といえます。
リバースモーゲージは金融機関が取り扱っており、それぞれの機関ごとに対象エリアがあります。年齢の条件は50歳以上、あるいは55歳としているところが多く、融資金の用途は基本的に自由です。まずは、自宅をエリアとしている金融機関に相談してみてはいかがでしょうか。
少子高齢化が進む我が国において、空き家問題は深刻さを増してきています。国や地方自治体、民間企業が対策に乗り出しているため、相続した空き家に困っている場合は法律や助成金について調べてみましょう。
また、空き家は放置すればするほど資産価値が下がっていきます。早めに対策を行い、適切に手放したり、管理したりすることで、余計な経済的負担がかからず、近所の迷惑になることも防げます。家族で話し合い、空き家をどうするかなるべく早急に決めましょう。