2024年2月29日
老後
【FP解説】何歳まで働く必要があるのか?高齢者雇用の現状と必要な老後資金を解説

老後資金のことを考えると、「60歳で定年は早すぎる」と感じる人は多いでしょう。少なくとも年金が支給され始める65歳まで働きたい、仕事があれば70歳でも働きたいなど、仕事に対する考え方はさまざまです。老後の暮らしにはどのくらいお金がかかるのかを解説した上で、高齢者の働き方や、働く上での注意点についてご案内します。最後には、老後資金の準備方法についても解説しています。

高齢者雇用に関する現状

一昔前であれば、会社員は60歳で定年退職を迎え、以後は仕事を離れるのが一般的でした。しかし2013年に高齢者等の雇用の安定等に関する法律(高齢者雇用安定法)が制定され、従業員の希望により65歳までの雇用継続が段階的に義務づけられるようになりました。65歳までの雇用確保は、2025年4月から完全に義務化されます。

さらに2021年の法改正では、70歳までの就業確保措置が努力義務として新設されました。このように、高齢者が働ける環境は徐々に整いつつあります。

働く高齢者は実際に増加しており、総務省が2022年に行った調査によると、60歳から64歳の男女就業率は73.0%、65歳から69歳では50.8%、70歳から74歳では33.5%、75歳以上では11.0%。2012年からの10年間で比較すると、60歳から64歳の男女就業率は15.3ポイント上昇しています。65歳から69歳の枠も、13.7ポイント上昇しています。

引用:総務省統計局 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで- 高齢者の就業(労働力調査、就業構造基本調査

老後に必要な資金

人生100年時代、60歳の時点で退職金をもらったとしても、長いシニア生活では寿命が尽きる前に資金を使い果たしてしまう恐れがあります。では、実際にいくらあればゆとりあるシニアライフが送れるのでしょうか。老後に必要な資金を、項目ごとにまとめました。

生活費

「2022年家計調査報告(総務省)」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯の毎月の実収入は24万6,237円、支出は26万8508円でした。毎月、2万2,270円の赤字となります。

出典:「2022年家計調査報告(総務省)」

65歳以上の単身無職世帯では、毎月の実収入が13万4,915円、支出は15万5,495円でした。毎月、2万580円の赤字となります。

出典:「2022年家計調査報告(総務省)」

つまり、夫婦2人暮らしでも1人暮らしでも、毎月約2万円を預貯金などから取り崩して補填している形になります。現在、日本人の平均寿命は84.07歳。65歳から20年間生存するとして、毎月2万円を預貯金から取り崩すとなると、480万円の資金が必要になります。

住居の修繕費

ときには生活費のほかに、突発的にまとまった費用が必要になります。その代表的なものが住居の修繕費です。働き盛りのとき新築で建てた一戸建ても、20年、30年を経過すると修繕が必要になってきます。トイレやキッチン、お風呂などの水回りを修繕すると、1回につき50万円以上の出費になることも。

水回りと外壁、屋根を修繕したとして、考えられる費用はおよそ500万円程度です。バリアフリーのリフォームを施すと、さらに出費がかさみます。

住み替え費用

老人ホームなどへ住み替えると、月額費用のほかに入居金としてまとまった金額が必要になる場合があります。入居費用は施設によってかなり違いますが、都市部では入居金として500万円以上がかかるケースもみられます。

突発的な医療・介護費用

シニア層になると病気やケガが多くなります。そのつど、入院や通院で費用がかさみます。

子世代への援助

子世代が結婚する、マイホームを購入するなどのタイミングで、大きな援助が必要になるケースが見られます。孫の進学資金を一部負担する人もいるでしょう。

以上のように、高齢者の生活には大きなお金がかかります。健康に十分気をつけて、働けるうちは働こうという気持ちを持っておくのがおすすめです。

高齢での働き方やポイント

高齢で働く場合、以下の4通りの働き方があります。それぞれ、選び方のポイントをお伝えします。

再雇用

定年までいた勤務先に再雇用されるケースです。高齢者が働き方を考えるとき、第一のポイントが「ストレスなく働けるか」です。新しい環境に飛び込むよりも、なるべく今の会社で長く働きたい場合は、勤務先の再雇用制度を活用しましょう。ただ、現在よりもかなり収入が減る可能性があるため、条件についてよく確認するのがおすすめです。

再就職

60歳以上の働き手を歓迎している会社があります。「今の職場で働き続けたくない」「新しい環境にチャレンジしたい」と考える人は、再就職するのがいいでしょう。

ただし、シニア層の正規雇用は狭き門で、有期の契約社員となる場合が多いことに注意が必要です。

アルバイト

パート、アルバイトとして雇用される方法です。パート、アルバイトのポイントは、よりフレキシブルに働けること。より高齢になったら週3回のアルバイトを2回に減らすなど、自分の体調に合わせた働き方ができます。

個人事業主

自分で事業を立ち上げる方法です。資格職など専門性の高い仕事をしていた人は、今までのキャリアを活かして独立したり、趣味を活かして料理教室や陶芸教室を開催したり、手芸作品をネットショップで販売したりと、さまざまな業態が考えられます。

高齢で働く際の注意点

高齢で働く際には、以下の3つに注意しましょう。

決して無理はしない

若い頃はよくても、だんだん無理のきかない体になってきます。体調が悪いのに、それを無視して仕事を遂行しようとすると、翌日から出勤できないほど体調が悪化するということになりかねません。早め早めにブレーキを踏むことを意識して、長く働ける体を保ちましょう。

家計を十分に補填できる仕事を選ぶ

やりがいある仕事を選んでも、家計が赤字では意味がありません。一月にいくら稼ぎたいのか、まずは夫婦で家計簿を見ながら話し合いましょう。希望の収入を得られる仕事に就くのが大事です。

運動不足にならないよう気をつける

事務系の仕事に就く人はとくに、運動不足にならないよう気をつけましょう。1日8,000歩程度のウォーキングを、週に何回か行うのが健康維持によいとされています。

テレワークでもよいところを週に何度かは出勤するなどして、無理のない範囲で運動を意識するのが大事です。

今からできる老後資金への備え方

定年前から意識して老後資金の準備を始めると、あとが楽になります。老後資金の準備方法として、おすすめしたい4つをご紹介します。

積立式定期預金

定期預金は地味で地道な方法に見えるかもしれません。しかし、馴染みのある金融機関ですぐに始められ、給与から月に数万円を自動的に定期預金へ振り替えるようにしておけば、確実にお金が貯まります。

「余剰金を貯めればいいと思っていたけど、思ったようには貯まらない……」といった、そもそもお金の管理が苦手な方は、まずは積立を始めてみましょう。積立金額はいつでも変えられます。

新NISA

NISAは個人で少額投資をする人のための税制優遇制度です。通常、投資を行うと分配金や譲渡益に20%ほどの税金がかかりますが、NISAの制度枠内では非課税となります。

NISAは2024年から恒久化され、また制度が大きく刷新されます。新NISAは旧制度より非課税となる期間や口座を開設する期間などの制限が緩和されているのが特徴です。

現在、余剰金があり、老後まで眠らせるよりもいくらか増やしておきたいと考える人や、ただ貯金をするより積立投資をして少しでもお金を増やしたい人におすすめです。

保険の見直し

働き盛りの頃に、家族のため少し高額の保険に加入したという人には、保険の見直しがおすすめです。子世代が自立した後では、そんなに高額の保険金は必要なく、解約したらまとまった返戻金が手に入るかもしれません。

返戻金を投資に充てるもよし、今の状況に合った保険へ掛け替えるもよし。まずは、どんな保険に入っているのか家族で確認してみましょう。

リバースモーゲージ

リバースモーゲージとは、自宅を担保に資金を借り入れ、契約者が存命中は毎月利息だけを返済する融資の仕組みです。元金は、契約者がお亡くなりになった後、相続人が担保物件を売却するなどして返済します。

老後のための資金を借りることができ、月々の返済負担が楽で、しかも担保となっている自宅に最後まで住むことができます。また、相続人が速やかに自宅を売却することができるため、空き家対策にもなります。

リバースモーゲージは50歳、あるいは55歳以上を対象としたシニア層向けの商品で、各金融機関が展開しています。気になる方は、自宅のある地域を対象エリアとしている金融機関を探し、資料を取り寄せてみましょう。

まとめ

以上、必要となる老後資金や老後の働き方について解説しました。超高齢化社会となった現代、60歳は、まだまだ人生の通過地点です。家族とともにライフプランを描き、老後の生活に必要な資金を算出して、必要額を確保できる働き方を探しましょう。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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