2024年5月1日
老後
【FP解説】自営業・個人事業主が住宅ローンの審査をとおすポイントや注意点を解説

自営業・個人事業主は、会社員に比べて住宅ローンの審査が通りにくいという話を聞いたことがあるでしょうか。収入が安定しづらい職業は、それだけで金融機関から敬遠されがちです。頭金を多めに準備するなど、自営業の方が住宅ローンの審査を通りやすくするポイントや、審査の通りやすい住宅ローンとして代表的な仕組みであるフラット35の特徴について解説します。

自営業・個人事業主が住宅ローンを組みにくい理由

なぜ、会社員に比べて自営業・個人事業主が住宅ローンを組みにくいのでしょうか。主な理由は以下の3つです。

後ろ盾としての「勤務先」がないから

会社員の場合は、勤務先の企業が返済能力についての信用をある程度保証してくれます。しかし自営業にはそのような後ろ盾がありません。自分に返済能力があることを、必要書類を揃えるなどして自分自身で証明しなければなりません。

信用するに足る情報が揃えられない場合は、金融機関側も融資ができないと判断せざるを得なくなります。

節税対策が裏目に出て所得が少ないから

自営業を営む方のなかには、税金の負担を軽くするために、経費を多めに計上するなどして所得を少なくしている方もいるでしょう。しかし、住宅ローンの審査の際には所得金額が注目されます。所得が極端に少なければ、それだけで審査に通りづらくなってしまいます。

事業のための借り入れが不利になるから

事業を営むのに必要な設備を導入するため、ローンを組んでいる方も多いでしょう。事業目的であっても借金は借金ですから、住宅ローン審査のときには不利になります。金融機関が融資を行うときは、借入額が利用者にとって過大な負担にならないかを、負債を含めて判断するためです。

自営業・個人事業主が住宅ローンの審査を通すポイント

自営業・個人事業主が住宅ローンの審査をパスするには、以下の5つのポイントを意識しましょう。

頭金を多めに用意し借入額を減らす

まとまったお金が用意できる方は、頭金として支払える金額を多めに設定しましょう。借り入れなければならない金額が減るため、審査が通りやすくなります。

黒字決算を何期か連続で満たす

一般的に、確定申告の内容が3期連続の黒字を示していれば審査に通りやすいといえます。直近の何期かを、可能な限り黒字としましょう。書類の上で安定性や将来性を示すことが大事です。

税金などの滞納があれば解消しておく

事業のための負債額のみならず、税金や健康保険料の滞納も、審査結果に響きます。税金の支払いを後回しにしてしまっている方はいませんか。なるべく早めに滞納分を納付しておきましょう。

事業で付き合いのある金融機関に相談してみる

事業でメインバンクにしている金融機関があれば、そこへ相談してみると道が開ける可能性があります。普段のお付き合いで信用が積み重なっていれば、既存の取引状況として考慮してもらえる金融機関もあるためです。ただ、何を審査の材料とするかは金融機関によりますので、メインバンクだからといって融通してくれるとは限らないことを念頭に置いておきましょう。

担保価値が高い住宅を購入する

万が一住宅ローンが返済できなくなったら、金融機関は担保となった物件を差し押さえ、資金を回収します。よって担保価値が高い住宅を購入するほど、審査が通りやすいといえます。

自営業・個人事業主が住宅ローンを組む注意点

審査が通りにくい自営業・個人事業主が住宅ローンを組む際は、以下の3点に注意しましょう。

開業後しばらくは住宅ローンを組むのが難しいと心得る

開業してすぐは、自分の返済能力を証明するだけの資料をどうしても用意できません。少なくとも3年間は実績を上げることを意識し、仕事に励みましょう。ただし、ローンの相談に行くこと自体が無駄足というわけではありません。むしろどのような実績を積めば審査に通りやすくなるかが分かり、目標が明確になるでしょう。

確定申告の際に忘れず住宅ローン控除を受ける

住宅ローンを利用すると、確定申告の際に控除を受けることができます。「住宅借入金等特別控除」、通称「住宅ローン控除」です。住宅ローン残高のおよそ0.7%が、所得税控除の形で還付されます。

住宅ローン控除を受けるためには、以下のような条件を満たさなければなりません。

  • 住宅購入日から半年以内に住み始め、確定申告の対象年の12月31日まで住み続けている
  • 確定申告をする年の時点で10年以上の住宅ローンを組んでいる
  • 配偶者や親族といった身内から購入した住宅ではない
  • 住宅の床面積が50㎡以上であり、かつ床面積の1/2以上が居住用となっている(半分以上、事業用に使用していたらNG)
  • 合計所得金額が3,000万円以下

他にも居住年とその前の2年において譲渡所得の課税特例を受けていないことなどが条件になります。詳しくは、以下の国税庁のページをご確認ください。

No.1212 一般住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)

購入住宅を事業所としても使用している場合は減価償却費として計上できる

住宅兼事務所を購入する場合は、購入金額に償却率を掛け、さらに事業割合を掛けた部分を原価償却費として計上できます。事業割合が50%以下の場合は、住宅ローン控除とも併用できます。

ただし、住宅兼事務所の場合は、住宅ローン控除の対象となる金額に事業割合が影響します。自宅の20%を事務所にしている場合は、住宅ローン控除の対象となるのは借り入れ残額の80%。30%が事務所なら、住宅ローン控除の対象額を70%としなければなりません。注意しましょう。

ただし、事務所として使用している割合が10%以下であれば、全額が住宅ローン控除の対象となります。

フラット35の利用を検討する

金融機関の審査を通すのは厳しいと感じたら、「フラット35」を検討しましょう。フラット35は、自営業・個人事業主の方でも利用しやすい住宅ローンです。特徴やメリット、デメリットを解説します。

フラット35とは

フラット35とは、住宅金融支援機構と全国各地の金融機関が提携して提供している住宅ローンです。最長35年間を返済期間に設定でき、全期間が固定金利のため「フラット35」という名称がつけられています。

フラット35は住宅支援機構が保証をしてくれるため、金融機関にとっては貸し倒れのリスクがほとんどありません。よって審査が通りやすく、自営業・個人事業主の方にもおすすめの住宅ローンです。

フラット35の特徴

フラット35は最長で35年間、借入時の金利が全期間変わらない固定金利を選べるため、返済計画が立てやすいのが第一の特徴です。一戸建てなどは70㎡以上、マンションなどは30㎡以上が対象となり、借入額は100万円以上8,000万円以下という決まりがあります。

しかしフラット35は、申込者や親族が実際に居住する住宅の購入資金に利用できます。第三者への賃貸や店舗など、事業目的で購入する物件には利用できません。

ただし、住宅部分の床面積が1/2以上を占め、店舗や事務所の部分が申込者や同居人が生計を営むために使用するものであり(事務所や食堂、日用品販売店、理容店など)、住宅部分との間が相互に行き来できるなどの条件を満たせば、事務所として利用しても構いません。

フラット35のメリット

フラット35の主なメリットは、以下の3つです。

  • 金利上昇リスクがない

完済時まで固定金利が続くので、安定した返済計画を立てられます。

  • 保証人不要

フラット35は、住宅金融支援機構が保証を行ってくれるため、保証人を立てる必要がありません。

  • 審査が民間の住宅ローンよりも緩い

年収や勤続年数といった、利用者本人の審査基準が他よりも緩めなので、自営業・個人事業主の方も利用しやすいといえます。また、団体信用保険への加入義務がないため、健康に不安のある人でも審査をクリアできます。

フラット35のデメリット

フラット35の主なデメリットは、以下の3つです。

  • 住宅の審査が厳しめ

融資対象となる利用者本人の審査は緩めですが、住宅の審査は厳しめです。面積の他、耐火構造や耐久性などの独自基準を満たしていることが重要視されます。また、この物件審査のためには所定の費用がかかります。

  • 変動金利よりも金利が高めに設定される

低金利時代が続いている昨今、変動金利を選べばとりあえずは低水準の金利を享受できます。しかし、固定金利を選ぶと、今の金利の水準よりも高めの金利になってしまいます。

  • 団信に入らなければ申込者が亡くなった後も返済が続く

メリットの項でも取り上げましたが、フラット35は団体信用保険に加入しなくても申し込みできます。しかし、団体信用保険は申込者に万が一のことがあったときに住宅ローンの残債をゼロにする保険です。加入していないと、大黒柱を失っても返済が続く恐れがあります。

まとめ

事業が安定していない、あるいは新たに事業主となった自営業・個人事業主の方は、住宅ローンの審査に通りにくい傾向があります。不安な方は、フラット35を検討しましょう。ただし、フラット35が審査に通りやすいといっても、やはり税金滞納などの深刻な負債があると利用するのは難しいため、注意が必要です。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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