2024年5月2日
老後
【FP解説】海外移住に必要な費用は?注意点やおすすめの国もご紹介

一時期、老後の海外移住が注目されたことがありました。日本よりも物価が安く家賃や食費などの生活費が抑えられるアジア圏に移住すれば、年金暮らしでも豊かに過ごせるとブームになったのです。しかし円安が進み政情不安が続く今では、安易に海外移住を勧められる状態にはありません。ただ、そんななかでも上手に移住先を見つけている人はいます。海外移住費用や注意点、おすすめの移住先について解説します。

海外移住に必要な費用

まずは海外移住に必要な費用について確認しておきましょう。概ね、以下のような費用が必要になります。

移住前の初期費用

海外移住で初期費用として必要になるのは、以下の5つです。

  • ビザ申請費用

老後に移住するのであれば就労ビザではなく、リタイアメントビザを利用することになります。ビザを取得するのに潤沢な預貯金が必要だったり、移住先の国内企業への投資が必要だったりする国もあるため注意が必要です。

  • 下見のための費用

老後の長い期間を過ごす国になるのですから、下見は必要です。「若い頃に過ごしたことがあるから、ある程度は分かっている」という人も、今の現地を見に行きましょう。新たな気づきがあるかもしれません。渡航費用、宿泊費用、海外移住コンサルタントの助けを得るならそのための費用を用意します。

  • 賃貸(売買)契約のための費用

移住先の住まいを得るための費用が必要です。物価の安い国と高い国では、家にかかる費用に雲泥の差があります。

  • 引っ越し費用

移住先にどの程度の家財を運ぶのかにもよって費用が違います。あまりに重い家財を運ぼうとすると船便になり、到着に時間がかかるうえ運び賃が高いため、家具にこだわりがないなら現地調達の方が安上がりかもしれません。

  • 渡航費用
  • エージェントに支払う費用

ビザの取得や賃貸・売買契約のやりとりを現地のエージェントなどに依頼した場合、費用が発生します。

移住後の費用

移住後には、以下のような費用が必要です。

  • 毎月の生活費

東南アジアなどの比較的物価が安い国なら、生活費は日本よりもやや抑えめと考えていいでしょう。ただしヨーロッパ圏やアメリカなど先進国では、日本にいるときの1.5倍から2倍もの生活費がかかる場合があるため注意が必要です。

  • 一時帰国のための費用

家族の用事があったとき、ビザ更新の都合などで、日本へ一時帰国するための渡航費が必要です。

  • ビザ更新のための費用

ビザ更新のタイミングや費用は、国によって違います。よく確認しておきましょう。

海外移住のメリット

老後に海外移住するメリットは、以下の5点です。

寒暖差のない場所で健康的に暮らせる

東南アジアの移住人気国の特徴は、一年中温暖で寒暖差が穏やかなことです。年々厳しくなる日本の寒暖差は、年を重ねるほど辛く感じるもの。夏の蒸し暑さ、冬の寒さで体調を崩しがちな人は、海外移住で快適に暮らせることでしょう。

経済的にゆとりができる

海外移住は初期費用こそかかりますが、物価の安い国に引っ越せば毎月の生活費が抑えられ、経済的にゆとりが生まれます。

憧れの土地で夢の生活ができる

昔から海外生活に憧れを持っていた人なら、老後の移住によって夢を叶えることができます。あくせく働く必要がないため、憧れの海外ライフを十分に享受できるでしょう。

子や孫にリフレッシュ先を提供できる

長期休暇などの機会に子や孫を呼び寄せれば、家族に格安な海外旅行を提供できます。孫が現地に興味を持てば、貴重な学びを与えてあげられるでしょう。

人間関係のしがらみから逃れられる

ご近所付き合いなどが窮屈と感じている人は、海外に移住すれば一気に開放感を味わえるでしょう。仕事があるからと遠慮していた自治会に入らざるを得ないなど、老後はとくにお付き合いが多くなりがち。海外へ引っ越すことでしがらみを断ち切れます。

海外移住の注意点

海外移住で注意したいのが、以下の3点です。

物価上昇リスクに気をつける

ヨーロッパ圏やアメリカの物価上昇については言うまでもありませんが、物価が著しく安いため以前から移住先として人気だった東南アジアについても、最近はじわじわと物価が上昇しています。気づけば貯金が底をついていたということにならないよう気をつけましょう。

利便性の低下に気をつける

スーパーでの買い物一つとっても、日本で手に入るものが必ず手に入るとは限りませんし、言葉が分からずやりとりに疲弊することもあるでしょう。また、日本のように時間通り電車やバスが運行している国は多くありません。慣れるまでは少し大変です。

医療水準が下がる可能性がある

とくに高齢者が注意したいのが、医療水準の低下です。日本は皆保険制度が整っていて、さまざまな医療を安価で受けられます。しかし、海外では入院や手術に膨大な費用が必要なことも珍しくありません。また言葉の壁により症状を思うように伝えられず、ドクターの言うことも理解が不十分で、ストレスになってしまうかもしれません。

海外移住におすすめの国

メリットとデメリットを踏まえた上で、自分や夫婦にベストな選択をしましょう。

外務省の「海外在留邦人数調査統計」によると、2023年10月現在、日本人が最も多く在留(90日を越えて滞在)している国はアメリカ、次点が中国、3位がオーストラリアでした。しかし年齢を問わず集計しているため、たんに仕事の都合で在留している人も多く含まれていると考えられます。ランキングがそのまま、老後の移住におすすめの国のランキングになるとはいえません。とくに就労ができない老後において、物価が高い国に移住するのはよほどの富裕層でない限り現実的ではないでしょう。

そこで一般社団法人ロングステイ財団が継続的に調査を行っている「ロングステイ希望国・地域」から2023年のデータを見てみると、1位がマレーシア、2位がタイ、3位がフィリピンでした。ただしこちらはあくまで移住の「希望国」であること、またやはり年齢を問わない集計データのため、そのまま老後におすすめであるとはなかなか言い切れません。

なぜかといえば、例えば希望国1位のマレーシアは、リタイアメントビザが取得しにくい国だからです。マレーシアで就労しない場合、マレー半島滞在用のMM2Hビザか、サワラク州滞在用のS-MM2Hビザを取得する必要があります。このうち、首都クアラルンプールのあるマレー半島に長期滞在するためのMM2Hビザは、2024年4月現在、新規の受付を取りやめています。

一方で、サワラク州のS-MM2Hビザは取得可能ですが、各種条件が付されます。マレーシアの中で、日本人に人気のエリアといえばやはりクアラルンプール周辺などの都市部であり、大自然広がるサワラク州のS-MM2Hビザを取得しての老後生活は、想像とは違う不便なものになる可能性があります。

タイ

希望国2位である親日国のタイには、日本語を話せる人が多くおり、いろんなシーンで助けとなってくれるでしょう。また日本語新聞である「バンコク週報」などで、さまざまな情報を日本語で受け取ることができるのがメリットです。

ただし高温多湿のため、蒸し暑さに弱い人は注意した方がいいでしょう。最も気温が高い4月から5月にかけて下見に訪れ、体感を確かめるのがおすすめです。

老後のためのビザとして「ノンイミグラント-O-X」が用意されており、50歳以上、タイでの就労禁止、タイの銀行預金に300万バーツ以上の残高があること(あるいは180万バーツ以上の残高と年間120万バーツ以上の収入証明)などを条件に5年間有効となります。申請料金は4万4,000円です。2024年2月現在1バーツは4円程度なので、300万バーツは1200万円程度となります。

タイの物価は日本の2分の1から3分の2ですが、治安や医療事情が安心なバンコクなどの都市部に住むと考えると、生活費は「日本よりも少し抑えめ」くらいに考えておいた方がいいでしょう。

フィリピン

希望国3位のフィリピンはリタイアメントビザを取得しやすい国の一つです。「特別居住退職者ビザ(SRRV)」という名称のリタイアメントビザは、50歳から取得可能です。以前は35歳から可能でしたが、コロナの影響によりいったんビザ自体の発給が停止され、2021年5月から50歳以上の申請者に対して再開されました。

一年中温暖な気候で、平均気温が26℃程度と過ごしやすい気候です。また、日本からの時差が少ないので、頻繁に日本へ帰国する必要がある人も安心です。

ビザ取得のための費用は、種類にもよりますが1万~2万USドルほど。移住後の生活費は日本の3分の2から5分の4程度を見込んでおきましょう。田舎に住めばさらに安く生活できますが、医療事情などを考えると、マニラなどある程度の都会に住んでおいた方が安心です。

台湾

また、台湾も日本に好意的な国として知られています。また都市化が進んでいることから、治安の良さや利便性がアップしており、移住先として注目したいところです。基本的に温暖な気候ではありますが、夏は暑さが厳しいので、気温の高い7月から8月あたりに一度訪れて体感を知っておければベストでしょう。

台湾の退職者向けビザは「日本人退職者のロングステイ査証」と呼ばれています。滞在は180日以下となっており、頻繁に日本へ帰国しなければならないのが難点です。

台湾の物価は日本よりも安めですが、都市部に暮らすほど生活費が高くなります。日本の5分の4くらいの生活費で暮らせると考えておくといいでしょう。

まとめ

どんなに移住を熱望しても、ビザなどの関係で移住が不可能なこともあります。例えば、憧れの移住先として人気のマレーシアは、現在マレー半島に90日以上滞在するためのビザ申請を受け付けていません。他にもコロナなどをきっかけに移住のハードルが上がっている国があります。まずは、移住が可能なのかどうかを調べてみるのがおすすめです。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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