2024年5月16日
老後
【FP解説】個人事業主が退職金を用意する方法とは?利用する退職金制度のメリット・デメリットを解説

個人事業主は会社に属していないため、どこからも退職金が出ません。よって、自分で用意しておく必要があります。個人事業主の退職金制度として有効な仕組みには、小規模企業共済を利用して共済金を受け取ったり、iDeCoに加入したりといったものがあります。所得控除の面で優遇され、節税効果の高い制度のため、退職金対策にぴったりです。個人事業主向けの退職金制度におけるメリットやデメリットを解説します。

小規模企業共済制度

まずは、小規模企業共済制度について解説します。

小規模企業共済制度とは

小規模企業共済制度とは、独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)が運営している積み立てタイプの退職金制度です。毎月、1,000円から7万円まで500円単位で自由設定した金額を積み立てることで、退職時や廃業時に共済金を受け取ります。支払われる共済金の金額は、掛金や積立期間によって変わります。

メリット

小規模企業共済制度のメリットは、主に以下の4つです。

  • 掛金が全額控除対象になる

1年間の間に納付した掛金は、確定申告の際に全額を課税対象所得から控除できます。

  • 掛金が自由に設定でき、増額・減額できる

月々の掛金は自分で設定できます。また、増額や減額が可能なため、資金繰りが厳しくなったら掛金を抑えたり、節税したいと感じたら掛金を増やしたりすることが可能です。

  • 貸付制度を利用できる

掛金の範囲内で事業資金の貸付制度を利用できます。一般的な個人年金の場合、60歳など設定した年齢までは引き出すことができないものも多いなか、あくまで貸し付けとはいえ自分が掛けた金額の一部を使えることは、収入の不安定な個人事業主にとってありがたいことです。

  • 受け取り時に一括と分割が選べる

退職し、共済金を受け取るときには、全ての金額を一括して受け取るか、年金として分割して受け取るかを選べます。また、一括と分割の併用も可能です。一括受け取りの場合は退職所得扱いに、分割受け取りの場合は公的年金等の雑所得扱いになり、それぞれ控除額の計算が違います。

デメリット

小規模企業共済制度のデメリットは、主に以下の2つです。

  • 加入期間が短く、かつ自己都合解約だと損をする

加入期間が12ヶ月未満で任意解約(自己都合の解約であり、退職や廃業ではない)をする場合、掛け捨てとなり、掛けた金額は戻ってきません。また、掛金納付月数が20年未満で任意解約すると、支払われる解約金は掛金合計額を下回ります。

  • 受け取りの際は課税される

掛金は全額が課税所得から控除されますが、受け取りの際は課税されます。ただし、メリットの面で述べたように、一括受け取りの場合は退職所得扱いとなるため、課税されるとはいえ一般的な会社員と同様の優遇措置があります。

注意点

メリットとデメリットを踏まえたとき、小規模企業共済制度の注意点は、自己都合での解約を避けることといえるでしょう。資金繰りが厳しく解約したいと考えた場合は、貸付制度を利用しながら細く長くでも掛け続け、あくまで退職時や廃業時に受け取り手続きをするのがおすすめです。

個人型確定拠出年金(iDeco)

次に、2022年から年金受け取り開始時期の選択肢が拡大された個人型確定拠出年金(iDeco)について解説します。

個人型確定拠出年金(iDeco)とは

iDeCoは国民年金基金連合会が運営する個人年金の一種です。個人年金とは、公的年金とは別に、任意に加入する年金のことです。掛金の拠出(掛金をかけること)や運用を自分で行い、老後の資産を形成します。

加入対象者は主に20歳以上65歳未満の国民年金加入者で、会社員の場合は企業型確定拠出年金の事業主掛金により対象にならないケースがあります。

また、拠出限度額も加入資格によって変わり、個人事業主の場合は月額6.8万円、年額に直すと81.6万円までを掛けることができます。ただし、国民年金基金または国民年金付加保険料と合算しての金額です。

メリット

iDeCoのメリットは、主に以下の4つです。

  • 自分で運用し資金を増やせる

iDeCoは拠出金を自分で運用でき、老後の受取額に反映することができます。

  • 節税効果がある

iDeCoの掛金は全額が所得控除の対象になります。また、運用益が非課税になり、再投資に活用できます。さらに、年金か一時金で受け取り方法を選択でき、年金として受け取る場合は公的年金等の雑所得扱いになり、一時金の場合は退職所得控除の対象になります。

  • 受け取り開始可能時期が幅広い

iDeCoの年金受け取り開始時期は、以前は60歳から70歳まででしたが、2022年の法改正により75歳まで引き延ばされました。年金を早く受け取りたいなら60歳から、なるべく運用を続けて非課税メリットを享受したいなら75歳まで開始期間を延ばすという選択ができます。

  • 会社員になっても継続して利用できる

個人事業主を廃業し、会社員となった場合でも、引き続き加入者として掛金を拠出できます。ただし、企業型確定拠出年金の事業主掛金により対象にならないケースがあるため、注意が必要です。

デメリット

個人事業主の立場で考えると、iDeCoのデメリットは、以下の3つです。

  • 途中解約ができない

iDeCoは60歳まで資産を引き出すことができません。資金繰りが厳しくなっても、自分の老後のための資産に手を出せないのは、安心である反面、辛いことです。

  • 資産増減のリスクがある

自分自身で資産を運用すれば、資産が増えるケースはもちろん、減るケースもあります。iDeCoは基本的に担当者がおすすめ銘柄を教えてくれるようなことはないため、全て自分の責任で運用することになります。投資の初心者は不安を覚えるかもしれません。

  • 受け取りの際は課税される

拠出金は全額が課税所得から控除され、運用益は非課税となりますが、年金を受け取る際は課税されます。ただ、一括受け取りの場合は退職所得扱いとなるため、一般的な会社員と同様の優遇措置があります。

注意点

メリットとデメリットを踏まえたとき、iDeCoの注意点は、やはり60歳まで引き出せないことといえるでしょう。個人事業主は収入に変動があり、なかなか計画通りには稼げません。事業が安定してある程度の収入見込みがあり、自信を持って資産運用できる人が、iDeCoのメリットを最も多く享受できるといえます。

特定退職金共済

最後に、商工会議所や市町村が特定退職金共済団体として運営している、特定退職金共済について解説します。法人として従業員を雇用している人は、ぜひ検討してみてください。

特定退職金共済とは

特定退職金共済とは、主に法人が社外に従業員の退職金を積み立てるための制度です。各地域の商工会議所などと契約することで、1人につき毎月1000円から3万円までの金額を掛けることができます。加入従業員が退職したときや死亡したときに給付されます。また、加入10年以上の退職者が希望するときは、年金としての給付も可能です。

メリット

特定退職金共済のメリットは、以下の3つです。

  • 事業主にも従業員にも節税効果がある

事業主が負担する掛金は、全額が損金、あるいは必要経費に計上できるため、節税効果があります。

また、従業員にとっても、掛金の分を給与よりも退職金に回してもらった方が、節税効果があります。共済により受け取る退職金は退職所得とみなされ、大きな所得控除が適用されるためです。

  • 従業員の定着が図れる

企業自体に退職金を運用する仕組みがなくても、特定退職金共済を利用すれば退職金が手軽にしっかり用意できるため、従業員の安心につながり、安定した雇用継続が可能になります。

  • 過去の勤務期間を通算できる

導入時に従業員一律のスタートとなると、すでに長期で働いてくれている従業員には十分な退職金を用意してあげられません。特定退職金共済は「過去勤務掛金」として過去の勤務期間分も掛金を納めることができるので、勤務期間に応じた退職金の準備が可能です。

デメリット

特定退職金共済のデメリットは、以下の3つです。

  • 役員は加入できない

従業員を対象としているため、社長など役員は加入できません。経理を担当している社長夫人など、事業主と生計を一にしている場合も加入できません。

  • 助成金制度が使えない

特定退職金共済と似た制度に、中小企業退職金共済(中退共)があります。中退共も社外に積立を行うことで従業員の退職金を用意する制度です。新たに加入する事業主に対しては、助成金制度があります。しかし、特定退職金共済の方には助成金制度がありません。

  • 掛金が事業主に返還されない

特定退職金共済の給付金は、全て直接従業員に支払われます。共済を契約している事業主には、いかなる理由があっても返還されないため、注意しましょう。

注意点

特定退職金共済は従業員の退職金確保のための制度です。事業主自身の退職金準備はできませんので、注意しましょう。

また、対象地域によって事業主体が違います。所在地管轄の事業主体はどこかを事前に調べてから手続きしましょう。

個人事業主が加入を検討すべき制度と保険

退職金制度以外にも、個人事業主が加入を検討すべき制度や保険があります。まだ加入していない保険があれば、必要性について考えてみましょう。

個人年金保険

民間の金融機関には独自商品として個人年金保険が用意されています。iDeCoでは拠出制限や引出可能年齢などの条件面が希望と合わないと感じたら、金融機関の個人年金保険を検討しましょう。

NISA

個人で運用でき、税制優遇があり、いつでも引き出しが可能な制度にNISAがあります。投資銘柄や投資枠に制限がありますが、「個人年金の仕組みでは必要なとき引き出せなくて不安」という人にはおすすめです。

就業不能保険

病気やケガで働けなくなったとき、会社員であれば傷病手当が給付されます。しかし個人事業主にはセーフティネットがないため、収入源を自分で補わなければなりません。そんなとき役立つのが、就業不能保険です。どんな病気やケガが給付対象になるかは商品によって違うため、比較検討しましょう。

生命保険

養わなければならない家族がいる個人事業主は、生命保険への加入を検討しましょう。また、家族が増えたときなどライフステージが変わったら、すでに加入している保険内容の見直しが必要です。

労災保険の特別加入制度

事業主は労災保険の対象にならないため、業務が原因で病気やケガが発生した場合でも労災が使えません。ただし、労働者を使用しないで一定の事業を行う自営業者等については、特別加入できる制度があります。

労災保険の特別加入制度に該当する自営業者の例としては、個人タクシー業者や個人貨物運送業者、土木工事従事者、漁師、林業従事者、鍼灸師などがあります。体を使う仕事が主な人、危険な作業に従事する人が対象です。自らの事業が該当するかどうか、調べてみましょう。

特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)(厚生労働省)

まとめ

以上、個人事業主の退職金制度について解説しました。個人事業主は会社員と違い、何も対策しなければ退職金も出ませんし、公的年金額は低額です。老後の自分の生活を、今の自分が支えるつもりで対策する必要があります。しっかり準備して、安心の老後を手に入れましょう。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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