「お金が足りるかどうか分からず、老後の生活が不安」「年金が月額いくら受給できるのか知りたい」という方は多いでしょう。年金は国民年金と厚生年金で構成され、それぞれ保険料を納めた月数によって、また厚生年金は現役時代の報酬によって金額が変化します。年金の仕組みや計算方法、70歳の平均年金受給額などについて解説します。最後には、老後資金の増やし方についても紹介しています。
まずは年金制度の基本的な仕組みについて解説します。
日本の年金制度は「国民年金」「厚生年金」「その他年金」の3階建てです。
国民年金は、日本に住む人が保険料を納付した期間に応じてもらえる年金です。20歳以上60歳未満の日本在住者は、全員が国民年金に加入する仕組みになっているため、40年間滞納することなく納付すれば満額がもらえます。
厚生年金は、会社に所属するなどして厚生年金を納付していた人が、納付期間や現役時代の報酬額に応じてもらえる年金です。厚生年金の加入者は、自動的に国民年金も納付することになります。よって、厚生年金をもらえる人は、国民年金も同時に受け取ることになります。
その他年金とは、企業が任意で年金制度を運用する「企業年金」、個人が自ら積み立てを行って年金をかける「個人年金」などです。企業年金を受け取る会社員は、「国民年金」「厚生年金」「その他年金」の3階建て全ての年金をもらえることになります。
国民年金と厚生年金は、原則として65歳から受給できます。また、国民年金は10年の納付期間を満たさなければ受給できません。一方で厚生年金は、1ヶ月でも納めた月数があれば、その月数や納付額に応じた金額を受給できます。
特殊なのが、「第3号被保険者」と呼ばれる、主に専業主婦の方々です。年金用語では、国民年金だけを納めている自営業などの方を「第1号被保険者」、会社員など厚生年金を納めている方を「第2号被保険者」、第2号被保険者に扶養されており収入金額が一定以内の配偶者等を「第3号被保険者」といいます。
第3号被保険者は、厚生年金に加入しておらず、国民年金を自ら納付することもありません。会社員である配偶者が加入する年金制度が保険料を負担するためです。よって第3号被保険者であった期間も保険料納付済期間としてみなされ、納付期間が10年以上であれば65歳から国民年金を受給できます。
年金受給のタイミングは原則65歳以上ですが、受給開始期間を早めたり(繰り上げ受給)、遅らせたり(繰り下げ受給)することができます。繰り上げ受給の場合は、繰り上げた月数に応じて受給額が減額され、繰り下げ受給の場合は繰り下げた月数に応じて増額されます。
なお、年金を納付していない月であっても、納付を免除された期間であれば、納付済期間として認められます。例えば妊娠・出産で保険料を納付していない期間、生活保護を受けた期間、障害年金を受けた期間が当てはまります。
年金受給額の計算方法は、国民年金と厚生年金とで違います。それぞれご紹介します。
国民年金の受給額は毎年4月に改定され、そのとき満額も決まります。2024年度の満額は81万6,000円です。満額は40年間(480月)年金を納付すると受け取ることができ、納付していない月数があれば、その月数に応じて減額されます。よって、国民年金の受給額は以下の計算で算出します。
国民年金の受給額=満額受給額×保険料納付済月数/480
参考:老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額(日本年金機構)
厚生年金の受給額は、加入期間と報酬額によって違います。次の計算式で受給額が決まります。
厚生年金の受給額=報酬比例部分+経過的加算+加給年金額
「報酬比例部分」「経過的加算」「加給年金額」それぞれの用語について解説します。
報酬比例部分の計算方法は、2003年3月以前の加入期間と、2003年4月以降の加入期間とでは以下のように違ってきます。
【2003年3月以前の加入期間】
平均標準報酬月額※×7.125/1000×2003年3月までの加入期間の月数
【2003年4月以降の加入期間】
平均標準報酬月額※×5.481/1000×2003年4月からの加入期間の月数
※平均標準報酬月額:基本給や各種手当を含んだ給与総額の平均額
以前は60歳から年金がもらえていたため、1961年4月1日以前に生まれた男性と、1966年4月1日以前に生まれた女性には、年齢に応じて段階的に「特別支給の老齢厚生年金」が、60歳以降に支給されています。この特別支給の老齢厚生年金と、65歳から支給される年金との差額を埋めるため、経過的加算がプラスされます。
経過的加算の計算式については、以下を参照してください。
厚生年金保険の被保険者期間が20年※以上ある場合、受給を開始する65歳時点で一定の配偶者または子がいるときに加算される年金です。加給年金額や、その対象者は以下の通りです(2025年1月現在)。
※または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年
対象者 |
加給年金額 |
年齢制限 |
配偶者 |
234,800円 |
65歳未満であること |
1人目・2人目の子 |
各234,800円 |
18歳到達年度の末日までの間の子 |
3人目以降の子 |
各78,300円 |
18歳到達年度の末日までの間の子 |
参考:加給年金額(日本年金機構)
また、配偶者の加給年金の額には、老齢厚生年金を受けている人の生年月日に応じて、34,700円から173,300円が特別加算されます。
【配偶者加給年金額の特別加算額(2024年4月から)】
受給権者の生年月日 |
特別加算額 |
加給年金額の合計額 |
昭和9年4月2日から昭和15年4月1日 |
34,700円 |
269,500円 |
昭和15年4月2日から昭和16年4月1日 |
69,300円 |
304,100円 |
昭和16年4月2日から昭和17年4月1日 |
104,000円 |
338,800円 |
昭和17年4月2日から昭和18年4月1日 |
138,600円 |
373,400円 |
昭和18年4月2日以後 |
173,300円 |
408,100円 |
参考:加給年金額(日本年金機構)
参考:老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額(日本年金機構)
実際、高齢者は年金をいくら受給しているのでしょうか。年代別・年収別に、年金の平均受給額をご紹介します。
令和5年版厚生年金保険・国民年金事業の概況(厚生労働省)によると、年代別の平均年金月額は以下の通りです。
【年代別の平均年金月額】
年代 |
厚生年金受給者の平均年金月額 (国民年金の金額を含む) |
国民年金受給者の平均年金月額 |
60歳~64歳 |
7万5,945円 |
4万4,836円 |
65歳~69歳 |
14万7,428円 |
5万9,331円 |
70歳~74歳 |
14万4,520円 |
5万8,421円 |
75歳~79歳 |
14万7,936円 |
5万7,580円 |
80歳~84歳 |
15万5,635円 |
5万7,045円 |
85歳~89歳 |
16万2,348円 |
5万7,336円 |
90歳以上 |
16万721円 |
5万3,621円 |
なお、全年代を通しての平均年金月額は、厚生年金受給者が14万6,429円、国民年金受給者が5万7,584円です。
年収別に平均受給額が算出された公的データはありません。そこで、1985年生まれの人が22歳から59歳まで会社員(厚生年金加入者)として途切れなく働き、年金の未納期間がないことを前提条件として試算したときの年収別受給額をご紹介します。加給年金、経過的加算ともにない想定です。厚生年金部分の計算式は、以下のようになります。
平均標準報酬月額(平均年収額を12で割ったもの)×5.481/1000×480月
さらに、国民年金の満額を2024年度の81万6,000円とし、厚生年金部分にプラスしてトータルの年金額とします。
簡略化して試算しているため、実際の支給額とは異なりますが、ざっくりとした支給額を知るには十分です。
【年収別の年金受給額シミュレーション】
生涯の平均年収額 |
年金概算額(年額。小数点以下切り捨て) |
200万円 |
125万円4,479円 |
300万円 |
147万3,720円 |
400万円 |
169万2,959円 |
500万円 |
191万2,199円 |
600万円 |
213万1,440円 |
年金暮らしの家計を考えるときは、夫婦2人の年金額を合わせた金額を元に計算しなければなりません。夫婦の年金受給額は、共働きだった場合と、一方が配偶者の扶養に入っていたときとでは違ってきます。また、自営業か会社員かでも変わります。
それぞれ、先述した平均月額年金額(厚生年金受給者が14万6,429円、国民年金受給者が5万7,584円)を利用しながら年金受給額を解説します。
夫婦が2人とも会社員の共働きであった場合、夫婦がいずれも厚生年金受給者となります。夫婦の年金月額は以下の通りです。
14万6,429円×2=29万2,858円
夫婦が2人とも自営業の共働きであった場合、夫婦がいずれも国民年金受給者になります。夫婦の年金月額は以下の通りです。
5万7,584円×2=11万5,168円
夫婦の一方が会社員で、もう一方が配偶者に扶養されていた第3号被保険者の場合、会社員の方には厚生年金が、扶養されていた配偶者の方には国民年金が入ります。夫婦の年金月額は以下の通りです。
14万6,429円+5万7,584円=20万4,013円
自分の将来の年金が少ないと感じるなら、今からでも年金を増やしたり、年金の他に老後資金を蓄えたりする方法を考えましょう。主に、以下の6つの増やし方があります。
厚生年金に加入していない国民年金加入者は、付加年金で将来の年金額を増やせます。付加年金とは、毎月の保険料に月額400円を上乗せして納付することです。将来の年金額が、【200円×付加年金を納めた月数】増えます。もし40年付加年金を納め続けると、年間で9万6,000円が将来の年金額に上乗せされます。
年金を2年以上受け取ると元が取れる制度です。ただし、次に紹介する国民年金基金とは併用できません。
国民年金基金は、厚生年金に加入していない国民年金加入者のための、任意で加入できる公的年金制度です。厚生年金加入者との年金差を解消するために生まれました。
月額6万8,000円を上限に、自分で選択した年金額を毎月掛けて、納付期間に応じた年金を65歳以降に受け取ることができます。ただし、上述した付加年金とは併用できません。また、65歳以前に中途解約することはできません。
企業年金は、各企業が任意で設定している年金制度です。企業が従業員の老後のためにお金を積み立てる、福利厚生の一環です。退職金制度の一環として取り入れている企業も多いため、勤務先が企業年金で積み立てを行っているかどうか、分からない人は一度調べてみましょう。
個人が任意で保険会社や金融機関から年金保険サービスに加入するのが、個人年金制度です。サービスの詳細は取扱企業によってさまざまですが、毎月一定の金額を積み立て、60歳あるいは65歳以降になったら毎月年金を受け取ります。
一定額を生涯受け取ることができる終身年金、受け取れる年数が決まっている有期年金、被保険者の生死に関係なく一定期間年金を受け取れる確定年金など、さまざまなタイプがあります。
iDeCo(イデコ)は個人型確定拠出年金の愛称です。私的年金制度ながら、掛金全額が所得控除の対象となるためお得感があります。月額5,000円から1,000円単位で掛金を決めて拠出し、運用を自分で行います。運用益には通常20.315%の税金がかかりますが、iDeCoでは非課税となります。
受給年齢は加入者期間によって違います。10年以上の通算加入者期間があれば60歳から年金を受け取れますが、8年以上10年未満では61歳、6年以上8年未満では62歳と、受け取れる期間が先延ばしになります。
長く国民年金のみに加入している方々のための制度でしたが、2022年5月から会社員や公務員なども加入できるようになりました。税金を抑えながら老後のお金を運用して増やしたいと考えている方に向いています。
NISAは少額投資非課税制度の愛称で、運用益が非課税になる投資の制度です。年間合計360万円まで、投資枠を設定して投資が行えます。投資の対象商品は、長期の積み立てや分散投資に適した一定の投資信託に限定されているため、初心者でも安心して投資を始めることが可能です。
NISAは年金制度ではないため、いつでもやめることができ、いつでも引き出せます。「個人年金を始めたいけれど、高齢者になるまで資金が引き出せないのは不安」と悩む人にもおすすめです。
以上のように、平均的な年金受給額は生活していくのに決して十分な金額とはいえません。年金として積み立てたり、運用してお金を増やしたりして、老後の資金をしっかり準備する必要があります。
資金の準備は、なるべく早く始めるのが正解です。まだ定年前であれば、余剰金を積み立てに回すことから始めてみませんか。すでに定年を迎えた方も、まだまだ元気であれば少しなりとも働きながら、今後のための貯金を開始しましょう。