2023年12月から空き家に関する法律が改正され、空き家が適切に管理されていないとみなされると、住宅用地に関する固定資産税の特例が使えず、固定資産税が最大6倍、都市計画税が3倍になる恐れがあります。これまで特定空家等とみなされた場合の措置でしたが、対象となる空き家が増えました。不動産に関わる税金が増えると、空き家を相続した人にはかなりの負担です。空き家の固定資産税について解説し、対処法をご案内します。
現在、空き家については国、地方自治体、民間企業によってさまざまな取り組みがなされています。このたびの法改正までどんな取り組みが行われてきたか、また法改正を受けて今後どうなっていくのかを解説します。
適正に管理されない空き家が増加するなか、国は2015年5月26日に「空家等対策の推進に関する特別措置法」(以下、空家特措法)を施行しました。空家特措法の施行により、ゴミ屋敷化して悪臭などで周囲に迷惑をかけている空き家や、倒壊の恐れがある空き家などを自治体が強制的に取り壊すことができるようになりました。
周囲に悪影響を及ぼすほど管理がずさんと判断されると「特定空家等」とみなされ、空き家の所有者が助言や指導、勧告、命令などに従わなければ行政が強制的に必要な措置を執行できます。必要な措置とは、多くの場合、空き家の解体です。解体費用は所有者が負担します。
しかし、放置される空き家の問題はなかなか解消されません。よって国はこのたび法改正を行い、特定空家等とみなされる前の段階から所有者に対して必要な助言や指導、空き家にかかる税金の負担を重くするなどの措置を行っていくことになりました。
地方自治体は空家特措法の施行により、管理不十分で放置することが不適当な建築物などについて、所有者に対して助言や指導、勧告、命令を行うことになりました。
しかし、空き家の解体にはまとまったお金がかかるもの。解体した方がいいと分かっていても、なかなか踏み切れない所有者もいます。そこで空き家の解体費用に関して補助制度を設けるなど、空き家を解体しやすい制度を各自治体で整えています。
また、できれば空き家を解体したくない、賃貸に出したい、売却したいなどの要望に応えるため、「空き家バンク」を設置して空き家の賃貸や売却に関する情報を提供しています。
不動産会社などの民間企業は、自治体とともに「空き家バンク」の運営に取り組んできました。また、空き家を売りたい人、貸したい人と使いたい人をつなぐ独自サービスを手がけている企業もあります。
さらに、空き家の管理サポートに特化したサービスを展開する、空き家をシェアハウスにリノベーションする、空き家を中の不用品や家財ごと買い取るなど、さまざまなアイデアにより新分野を切り開く企業が全国各地に生まれています。
これまでも、特定空家等とみなされ、勧告を受ければ固定資産税や都市計画税の負担が重くなる措置がとられていました。しかし法改正により、特定空家等の前段階である管理不全空家等についても、同じような措置がとられるようになっています。どういうことなのか、詳しく解説します。
固定資産税は、不動産を保有しているときにかかる税金です。不動産のある市町村が課税する地方税(東京23区では都が課税)で、税額は課税標準である固定資産税評価額に1.4%をかけた金額となります。ただし、固定資産税の標準税率である1.4%は、市町村などの条例により変更できます。
都市計画税は、公園や道路といった都市計画事業の費用のために市町村が課税する地方税(東京23区では都が課税)です。全ての地域に課税されるわけではなく、市街化区域のみにかかります。税額は課税標準である固定資産税評価額に0.3%をかけたもので、この0.3%は税率の上限であり、これ以上の引き上げはできません。
固定資産税等の住宅用地特例とは、自宅や賃貸アパートなど居住用建物の敷地に関しては、固定資産税と都市計画税の課税標準(固定資産税評価額)を引き下げるものです。引き下げる割合は用地の規模で区切られ、以下のようになります。
【住宅用地の課税標準の特例と税額】
住宅用地の規模 |
固定資産税の課税標準 |
都市計画税 |
小規模住宅用地 (200㎡以下の部分) |
固定資産税評価額×1/6 |
固定資産税評価額×1/3 |
一般住宅用地 (200㎡超の部分) |
固定資産税評価額×1/3 |
固定資産税評価額×2/3 |
200㎡を超える住宅用地を持っている人は、200㎡を超えた部分だけが一般住宅用地とみなされます。例えば、300㎡の住宅用地を持っていたなら、200㎡までは固定資産税の課税標準が6分の1になり、残りの100㎡に関しては3分の1になります。
このたびの法改正により、特定空家等とみなされる前段階として、そのまま放置すれば特定空家等に該当する恐れのある状態を「管理不全空家等」と呼ぶことになりました。「管理不全空家等」として勧告を受けると、まだ特定空家等に該当していなくても、住宅用地の特例を受けられなくなります。
よってこれまで小規模住宅用地として特例を受けていた人は、固定資産税が最大6倍になってしまうのです。
住宅用地特例を受けている空き家の固定資産税が最大6倍になってしまうまでの流れを解説します。指導の段階で適切な管理を始めれば、税負担が大きくなるのを回避できるでしょう。
空き家は定期的に換気をして湿気を逃し家の傷みを防いだり、庭木の伐採を行ったりする必要があります。空き家において以下のような状態が続くと、管理不全空家等とみなされる可能性が高まります。
管理不全空家等とみなされると、市町村から口頭や書面で指導が入ります。指導の際には、対象となっている建築物やその現状、今後も放置すればどのような悪影響があるかが明示されます。
指導が入った後も管理を行わず放置すると、今度は必ず具体的措置をとるよう「勧告」を受けます。勧告を受けると、固定資産税等の住宅用地特例が解除され、固定資産税が最大6倍になります。
勧告方法について具体的な定めはありません。直接担当者が訪ねたり、内容証明郵便で書面が送られてきたりします。共有名義などで空き家の所有者が複数存在する場合は、所有者全員に勧告がなされます。
勧告によって明示された必要措置を期限までに実施したら、市町村が実施内容を確認した後で、管理不全空家等ではなくなります。
できれば管理不全空家とみなされないよう、空き家の管理をしっかりとしておきたいものです。しかし、時間がなくなかなか空き家を見に行くことができない人もいるでしょう。空き家となる前からできる対処法も含め、空き家に対してどのようなことをすればよいのかをご紹介します。
最も理想的なのが、空き家を売却することです。空き家は、放置すればするほど傷みが目立つようになり、売却しにくくなります。可能であれば、なるべく早く売却しましょう。
相続してから一定期間内に空き家を売却すると、一定の要件に当てはまる場合は譲渡所得の金額から3,000万円までを控除できる特例があります。気になる方は、自宅や相続の状況が要件に当てはまるかどうかチェックしてみましょう。
参考:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁)
空き家から遠くに住んでいると、悪天候で空き家の窓ガラスが割れてしまったり、屋根の一部が風で飛んだりといったアクシデントに気づくことができません。「何か、ご迷惑になるようなことがあったらご連絡ください」と、ご近所に連絡先を渡しておきましょう。何かあったとき連絡できるところがあれば、ご近所としても安心です。
空き家を賃貸に出したい、売却したいという意思があれば、早めに空き家バンクに登録しておきましょう。空き家バンクは自治体ごとに運営しています。空き家がある自治体の、空き家バンクサイトを探してみましょう。
不動産会社などが、空き家の管理を委託できるサービスを展開しています。空き家がある地域をカバーしている会社を探し、管理を相談してみましょう。同様に、空き家の売却や賃貸の相談を受け付けている場合もあります。
まだ空き家となっていないけれど、一人暮らしの高齢者がいるなど将来空き家になることが確定しているなら、リバースモーゲージを検討するのはいかがでしょうか。
リバースモーゲージとは、自宅を担保に金融機関などから融資を受ける借り入れの仕組みです。契約者の存命中は利息のみを返済し、契約者がお亡くなりになったら、相続人が自宅を売却するなどの形で元金を返済します。
「持ち家はあっても老後資金に不安がある」シニア層向けのサービスですが、将来空き家を抱えてしまうことが確定している相続人にとっては、生前から空き家の売却先を決めておけるシステムといえます。
全国各地の金融機関がリバースモーゲージを商品として扱っているため、検討の際には、まず担保対象となる家がサービスの対象エリアとなっている金融機関を探すことから始めましょう。
空き家の適正な管理がなされず、管理不全空家とみなされると、固定資産税が6倍になってしまう恐れがあります。現在心当たりのある方、また近い将来、実家が空き家になってしまうと考えられる方は、早めの対策を心がけましょう。不動産会社に相談したり、リバースモーゲージを検討したりなど、さまざまな対処法が考えられます。