空家等対策特別措置法とは、管理されておらず周囲に悪影響を及ぼす恐れのある空き家の所有者に対し、自治体が適正な管理をするよう指導したり、強制的に必要な措置を行うと勧告したりできる法律です。令和5年に改正され、手入れの行き届かない空き家を持つ所有者にとってさらに厳しい内容になりました。問題のある空き家とみなされると、固定資産税が最大6倍になる恐れがあります。空き家に関する法律を詳しく解説します。
空家等対策特別措置法の正式名称は「空家等対策の推進に関する特別措置法」で、2015年5月26日に施行されました。なお2023年12月13日に改正され、新たな内容になっています。まずは空家等対策特別措置法が生まれた背景や概要、改正ポイントを解説します。
近年の日本では、空き家が増加傾向にあります。住宅・土地統計調査によれば、空き家の総数は1998年から2018年の20年間で約1.5倍になり、576万戸から849万戸に増加しました。
空き家が増えるに従って出てきたのが、適切な監理が行われていない空き家の問題です。倒壊や火災発生の恐れがあったり、景観を著しく乱したりなどすると、近隣の生活環境に深刻な影響を及ぼします。この空き家問題に対策しようと生まれたのが、空家等対策特別措置法です。
2015年に施行された空家等対策特別措置法により、周囲に悪影響を及ぼすほど管理がなされていない空き家を「特定空家等」とみなし、市町村が強制的に解体などの必要措置をとることができるようになりました。
ゴミ屋敷化して悪臭などで周囲に迷惑をかけている空き家や、倒壊の恐れがある空き家などがあると、自治体がその空き家を「特定空家等」とみなします。そして、空き家の所有者にしっかり管理するよう助言や指導を行います。
自治体の指導をもってしても適正な管理が行われない場合、特定空家等の所有者は、自治体が必要な措置をとることについて勧告を受けます。そして勧告によってもきちんと管理されなかった場合、命令が行われ、完了見込みがなければ行政代執行法に基づいて代執行が行われます。この場合の代執行の内容は、多くの場合、空き家の解体です。
また特定空家等になり、勧告対象になると、固定資産税等の住宅用地特例を利用できなくなります。課税標準の優遇措置が打ち切られるため、土地にかかる税金が大幅にアップします。
空家等対策特別措置法は2023年12月に改正されました。ポイントとしては、新たに「管理不全空家」という区分が生まれたことです。管理不全空家等とは、まだ特定空家等ではないものの、このまま放置を続けると周囲に悪影響を及ぼすと予想される空き家を意味します。
自治体によって管理不全空家等とみなされれば、状態が悪化して特定空家等にならないよう指導を受けます。指導を受けてもなお状態が改善されない場合、今度は勧告を受けます。勧告を受けた時点で、特定空家等と同じように固定資産税等の住宅用地特例が解除され、固定資産税が最大6倍に、都市計画税が最大3倍になる恐れがあります。
特定空家等とみなされると、適正な空き家管理をするよう行政から指導を受けます。また勧告を受けると、固定資産税等が高くなります。特定空家等とみなされるのはどのような場合か、またみなされた場合、何が起こるのかを順に解説します。
特定空家等とみなされるのは、例えば以下のような場合です。
以上のような、近隣に悪影響が認められるケースの場合、自治体は所有者に断りを入れた上で必要最小限の範囲で立ち入り調査などを行います。また、所有者に対して現状等の報告を求めます。
調査の結果、特定空家とみなされるようであれば、自治体から所有者に対して空き家を適切に管理するよう助言・指導があります。助言・指導をもってしても改善しない場合、今度は勧告を受けます。
勧告を受けると、住宅用地に対する固定資産税等の優遇措置が解除され、土地にかかる税金が高くなります。
一般に、住宅が建っている敷地にかかる固定資産税と都市計画税は、住宅用地の特例の対象となっています。特例が適用されている住宅用地は、規模に応じて固定資産税が1/3~1/6、都市計画税が2/3~1/3と、大幅に免除されています。この特例枠が解除されてしまうため、税負担が一気に増えてしまいます。
【住宅用地の課税標準の特例と税額】
住宅用地の規模 |
固定資産税の課税標準 |
都市計画税 |
小規模住宅用地 (200㎡以下の部分) |
固定資産税評価額×1/6 |
固定資産税評価額×1/3 |
一般住宅用地 (200㎡超の部分) |
固定資産税評価額×1/3 |
固定資産税評価額×2/3 |
特定空家等とみなされると、自治体は助言・指導の後、勧告、命令と段階を踏んで適正な管理をするよう所有者に強く求めていきます。それでも管理がなされない場合、最後には自治体により行政代執行、つまり所有者の意思に関係なく強制的に空き家の解体などの必要措置が行われます。解体費用は、空き家の所有者が負担します。
特定空家等とみなされてしまっても、適切な対応をすれば指定を解除してもらえます。具体的には、次のいずれかの対策をとりましょう。
指導内容に従って、空き家を修繕したりゴミを片づけたりといった管理を行います。また、その実施内容を自治体に報告します。そのうえで、適正な管理が実施されたと認められれば、特定空家等の指定を外してもらえる可能性があります。
空き家のカギを定期的に開けて風を通したり、敷地内の草木を伐採したりといった管理を行ってくれる会社があります。主に不動産会社が手がけているサービスです。自身が空き家に出向けない場合は、空き家管理を委託できるサービスを利用しましょう。
ただし、すでに特定空家等とみなされているということは、激しい傷みがある、ゴミが堆積しているなどかなり管理しづらい状態であることが想定されます。なかなか引き受けてくれる管理会社が見つからないか、あるいは管理にかなりの金額がかかることを覚悟しておきましょう。
自治体から速やかに空き家を解体するよう指導されていたり、適正な管理が難しいほど家の傷みが激しかったりする場合は、解体業者などに依頼して解体を進めます。解体費用を捻出するのが難しい場合は自治体に相談し、補助制度がないか確認しましょう。
ただし、家を解体すると、特定空家等からは外れても、固定資産税等の住宅用地特例は使えなくなります。住宅が建っていない状態になるためです。
空き家を解体しても、一定の要件を満たせば特例を使えるよう条例を敷いている自治体があるため、該当するかどうか調べてみましょう。また、人が住めない状態の空き家を解体すれば、土地の状態によっては売却できる可能性が高くなります。
特定空家等とみなされてしまうまで空き家を放置すると、管理や解体にまとまった費用がかかってしまいます。空き家対策は速やかに行うのがおすすめです。
空き家は年月を経るごとに傷んでいきます。空き家になったら、なるべく早く売却するのがおすすめです。
相続してから一定期間内に空き家を売却すると、一定の要件に当てはまる場合は譲渡所得の金額から3,000万円までを控除できる特例があります。最近相続があった人は要チェックです。
参考:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁)
定期的に空き家を管理してくれるサービスがあります。自分が仕事でなかなか空き家に行けない、遠方に住んでいるなどの事情がある人は、空き家がある地域でサービスを展開している会社がないか調べてみましょう。
賃貸に出す、シェアハウスにリノベーションするなどの方法で、空き家の住み手を探すのもいい方法です。各自治体が運営している空き家バンクに登録したり、不動産会社に相談したりして、活用方法を探しましょう。
まだ空き家になっていない状態からでも、対策ができます。とくに年配者の一人暮らしは転倒などの危険が伴うほか、年金暮らしで家の修繕費がかさむと金銭的に大きな負担になります。施設に住み替え、自宅を売却すると、将来の空き家に対する不安は解消されます。
リバースモーゲージとは、自宅を担保にして、自宅の評価額をもとに決められる極度額の範囲で金融機関などから融資を受けるものです。契約者の存命中は利息のみを返済します。そして、契約者がお亡くなりになったら、相続人が自宅を売却するなどの形で元金を返済します。
自分の持ち家が将来空き家になってしまうことに悩み、「でも最後まで自宅に住みたい」と考えているなら、このリバースモーゲージを視野に入れてはいかがでしょうか。
シニア層向けのサービスなので、年金しか収入がなくても、一般のローンより審査が通りやすいのが特徴です。とくに都市部など便利な立地にある家なら、融資極度額が高くなる可能性があります。興味がある場合は、リバースモーゲージを取り扱っている近くの金融機関に相談してみましょう。
空き家対策特別措置法は、周囲に悪影響を及ぼす恐れのある空き家を自治体が強制的に解体できる法律です。解体前には空き家の所有者に何度も自治体から連絡があり、必要な対応をとるよう促されます。早期に対応すれば、固定資産税が最大6倍になるなどの措置をとられることはありません。空き家という状態は、売却や賃貸の利用などで、なるべく早く解消しておきましょう。