一人暮らしの親が亡くなると、空き家になった家を管理する必要があります。空き家の管理は大変で、放置すれば解体などの強制措置がとられてしまうかもしれません。令和5年に空き家の特別措置法が改正されたことにより、管理不全空家等の所有者については税負担が重くなる可能性が高くなりました。空き家のことをどこに相談すればよいか悩んでいる人のために、空き家の管理法や適切な活用についてリスクとともに解説します。
日本の空き家は年々増え続け、2023年にはおよそ900万戸に到達しました。1983年の330万戸と比べると、40年間でおよそ3倍にもなっているという計算になります。
引用元:令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果(総務省)
空き家問題の背景を、時系列でひもときます。
「空家等対策の推進に関する特別措置法」によると、空き家の定義は「一年以上住んでいない、または使われていない家」です。つまり空き家になるのは、その家に住んでいた人が亡くなり、もしくは引っ越し、1年以上住み手がいなくなったときといえます。
空き家になる理由として最近多いとされているのが、一人暮らしの高齢者が亡くなり、住み継ぐ人がいないというものです。ライフスタイルの変化により、子世代が他に自宅を建て、親の家を誰も継がないという事態も珍しくなくなってきました。
家を継ぐ人がいなければ、住み手を亡くした家はそのうち空き家になります。家を相続した子世代が家を売却しなかったり、賃貸に出すなどして活用しなかったりすれば、空き家の状態が続きます。
今とくに取り沙汰されている空き家問題は、適切に管理されていない空き家が多いことに起因します。空き家は、定期的に通って風を通さなかったり、草木の手入れをしなかったりすると、どんどん荒れていきます。するとそのうち、草木が近隣の家にまで伸びてきてしまったり、害獣や害虫が発生したりして、近隣に迷惑をかけるようになります。
ゴミがうずたかく積まれて腐臭がする、台風などで屋根が落ちそうなど特に危険な状態になると、ご近所はますます困ってしまいます。行政はこのような問題を解消するため、関連法律を作って空き家の適切な管理を呼びかけているのです。
空き家が適切に管理されなければ、以下のようなリスクがあります。
住み手のいない家では害獣や害虫が増える恐れがあります。人の目がないため、安心して住み着き、繁殖してしまいます。害獣が柱にツメを立てたり、走り回ったり、糞尿をまき散らしたりすることによって家は荒れていきます。害虫の死骸は、また新たな害虫や害獣を呼び寄せます。
空き家に出入りがなければ、強風によって屋根が飛ばされたり、窓ガラスが割れたりしても気づけません。飛ばされた屋根やガラスの破片で周辺の住民がケガをする恐れがあります。
特に夏場などは庭の草木が生いしげり、草木自体が近隣のじゃまになってしまう上、虫が大量発生してしまう恐れがあります。枝木が道路の方にせせり出すと、通行人や車の視界をさえぎって危険です。また、枝木が上に伸びて電線に接触する心配もあります。
窓ガラスが割れたり、鍵が壊れてしまったりすると、不法侵入される危険性が高まります。放火のリスクもつきまといます。
換気しない家には湿気がこもり、木材の腐食が進みます。害虫や害獣の被害により腐食がさらに進むと、家がかなり傷み、倒壊の恐れがあります。家が倒壊してしまうと、周辺の住民を危険にさらすことになります。
「空き家を放置してしまっている」「親が亡くなれば実家が空き家になってしまうが、きちんと管理できる自信がない」と不安な人には、以下のいずれかの対策がおすすめです。
最もおすすめの対策は、なるべく早く空き家を売却することです。空き家は放置期間が長くなるほど傷み、築年数も進んでしまうため、売りにくくなります。実家を売るのは心苦しいかもしれませんが、相続人皆で話し合い、家が傷む前に売りに出しましょう。
空き家が傷んでしまう理由の1つとして、住み手がいないため湿気が溜まりやすく、害虫や害獣が住み着きやすいというものがあります。賃貸に出して住み手のいる状態を保てば、家の傷みが早く進むことはありません。売却の話がなかなか進まない人は、賃貸も視野に入れましょう。
不動産会社などが空き家の管理を商品化しています。定期的に空き家へ通って風を通す、草木の手入れをする、破損がないかチェックをするなどして、きれいな状態を保ってくれます。今は住み手がいなくても、そのうち相続人の中の誰かが住み継ぐなど予定が決まっている場合は、利用を検討しましょう。
家の築年数が古いことがネックで、売却が進まないケースがあります。不動産会社などに相談し、更地にした方が買い手が見つかるようであれば、空き家を解体して更地にするのも一案です。ただし、更地にすると固定資産税が最大6倍になってしまう恐れがあるため、よく検討しましょう。
倒壊の恐れがあるなど、近隣に迷惑をかける可能性が高い空き家の解体には自治体から補助金が出ます。条件を確認してみるのがおすすめです。
まだ空き家になっていない場合は、リバースモーゲージを活用するという方法もあります。リバースモーゲージとは、自宅を担保に金融機関などから融資を受ける借り入れの仕組みです。
リバースモーゲージを活用すると、自宅の評価額に応じた融資極度額の範囲内で借り入れができます。契約者が生存している間は、借り入れに対しての利息だけを支払います。元金は、契約者がお亡くなりになった後、相続人が空き家となった自宅を売却するなどの方法で返済します。
リバースモーゲージを活用すれば、空き家になったときの売却先を生前から見つけておけるという事になります。空き家となってから売り先を探すとなかなか見つからないことがあるため、空き家への不安を抱えている人にはおすすめの方法です。
リバースモーゲージは全国各地の金融機関が取り扱っていて、不動産の条件などがそれぞれ違います。気になったら、自宅をリバースモーゲージの対象エリアにしている金融機関を探してみましょう。
近年、空き家関連の法律が改正され、管理が行き届かない空き家への対応がより強化されることになりました。以前は近隣に迷惑を及ぼす恐れのある「特定空家等」に対し厳しい処置がなされていましたが、特定空家等の一歩手前の状態である「管理不全空家等」についても、特定空家等と同様の対応がなされるように変更されています。
空き家関連の法律がどう変わったのか、また新設された関連制度について解説します。
空き家関連の法律は正式名称を「空き家関連の推進に関する特別措置法」(以下空き家特措法)といいます。2015年に施行された空き家特措法は、そのまま放置すれば倒壊や衛生上有害となる恐れのある空き家を「特定空家等」と定義しています。
自治体は特定空家等の持ち主に対して「助言」や「指導」を行い、それでも適正に空き家が管理されなければ「勧告」を行います。勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例から除外されます。
固定資産税の住宅用地特例とは、一定の敷地面積において、家屋がある場合に土地の固定資産税が最大6分の1に軽減されるものです。
空き家特措法は2023年に改正され、改正後は特定空家等だけでなく管理不全空家等の持ち主についても、勧告を受けた場合には住宅用地特例から外れてしまうようになりました。
空き家特措法の改正において、新たに空家等管理活用支援法人に関わる制度が創設されました。自治体が民間による支援法人を指定し、支援法人は空き家の管理に関する相談や空き家の所有者の探索、空き家の管理や活用を図るために必要な事業に取り組みます。
具体的には、不動産会社や相続・登記の専門家、まちづくりや地域活性化に取り組む法人などが支援法人として活動することが期待されています。とくに、空き家に対してワンストップで相談対応できる法人の存在が望まれています。
空き家に悩み、また「どんな会社に管理をお願いしたらよいか分からない」と感じている人は、自治体に指定する支援法人がないか訪ねてみましょう。
空き家特措法の改正により、空家等活用促進区域制度も始まりました。自治体が重点的に空き家の活用を図るエリアを「促進区域」に指定し、区域内において建築基準法などの規制を緩和するなど合理化を行い、建て替えや用途変更を行いやすくするものです。
例えば、建築基準法には接道義務が定められており、敷地が幅員4m以上の道路に最低2m以上接していなければ、建物を建ててはいけません。災害時に救急車両が乗り入れられるようにするためです。
しかし空き家の建っている敷地は、この接道義務を満たしていないことがあります。すると、空き家を解体してしまえば新しく建物を建てることができません。このため、古い空き家を解体したとしても更地を売りに出せないと、そのままにしてしまう所有者もいます。
国の基準を個別に少し緩めることで、新たな土地活用ができる場合があります。こうして空き家活用の可能性を広げていくのが、空き家等活用促進区域制度の狙いです。
周囲に悪影響を及ぼす可能性の高い特定空家等とみなされ、助言や指導をもってしても状態が改善しない場合、行政による空き家の強制撤去が可能です(行政代執行)。行政代執行が可能なこと自体は、改正前も同じでした。
しかし改正後は、緊急時などにおいては改正前よりも手続きを省略しての行政代執行が可能になっています。なお、以前と同様、家屋解体における費用は所有者が負担します。
空き家は対策しないでおくと、どんどん傷んでいってしまいます。すると買い手がつきにくくなり、費用回収の見込みがないとなれば解体をする気持ちがしぼんでしまいます。
空き家対策は、なるべく早めに行うのが大事です。