親が亡くなった後の実家など、もう人の住まない空き家は、住宅物件の火災保険の対象外となり、店舗や事務所といった一般物件の建物と同様の扱いになることがあり、保険料はやや高めです。しかし、一定の条件の下では空き家であっても住宅物件とみなされます。空き家でも火災保険に入っておくべき理由や、空き家でも加入できる火災保険、火災以外に生じやすい空き家のリスク、そして空き家の処分方法について解説します。
空き家といえば人の住んでない家。「人の住んでない家には保険をかけなくてもいいのでは?」と考える人も多いかもしれません。しかし、空き家でも火災保険に入るべきです。その理由は、3つあります。
例えば、空き家の中で漏電が起こっても、早期に気づいてくれる人はいません。消火活動が遅れ、大きな火災になってしまう恐れが十分にあります。
また鍵が壊れていたり窓ガラスが割れていたりする空き家は不法侵入を許してしまう可能性が否めません。空き家は、侵入者の火の不始末や、放火による火災リスクがつきまといます。
「火災を起こしてしまっても、建て替えたりはしないのだから補償は必要ないのでは」と考える人もいるかもしれません。しかし、空き家であっても、火災後は周囲の景観を守るために解体や修繕を行うのが理想的です。でなければ、近隣住民との関係性は悪くなってしまいます。
経済的な理由から空き家の解体を渋っていた人も、ひとたび火災があれば、速やかに解体せざるを得ない状況に追い込まれます。保険に入っていれば、解体費用が補償される可能性があります。
空き家の火災が大規模化し、周辺にも延焼してしまった場合、法律上は損害賠償責任がありません。しかしお付き合い上、そういうわけにもいかないと考える人が多いです。
火災保険に加入し、類焼損害特約などの特約に加入していれば、条件を満たす場合に近隣への損害賠償やお見舞い金が補償されます。
もしかしたら、空き家になる前の火災保険を、空き家になった今でもかけ続けているかもしれません。しかし、いざ空き家で火災が起こってしまったとき、その保険は使うことができない可能性があります。契約時と居住スタイルが変わってしまっているためです。
実は、火災保険は建物の用途などによって入れる保険の種類が違います。
自宅など居住用のみの用途で使う建物の場合、火災保険の分類では「住宅物件」になります。空き家であっても、海外赴任など一時的に居を移すだけであれば、住宅物件とみなされる場合が多いです。
しかし今後人が住む予定のない空き家は、住宅ではないとみなされ、店舗や事務所と同じ一般物件になります。住宅物件と一般物件では保険料が異なり、一般物件の方が高めになります。
ただし、別荘など、季節的に居住する目的で使用している住居は、空き家でも住宅物件として保険に加入できるケースがあります。お盆や正月に片付けがてら実家に集まるような場合は、これにあたります。
空き家になったら、空き家でも加入できる火災保険に加入しておきましょう。空き家の火災保険を取り扱っている保険会社を、複数ご紹介します。
別荘など季節的に住居として使用されている建物であれば、空き家でも引き受けの対象になる火災保険です。火災をはじめとする自然災害、盗難、身近な事故といったさまざまなリスクを幅広く補償してくれます。
復旧費用だけでなく、残存物の片づけ、復旧するための原因調査、迅速に復旧するための残業勤務工事の費用なども損害保険金としてカバーされます。損害保険金の金額は、保険金額の2倍が限度です。
「類焼損害特約」をプラスすることで、近隣に延焼した場合の補償が受け取れます。
また「施設賠償責任特約」をプラスすることで、契約対象となる空き家の破損によって他人にケガを負わせたり、他人の物を壊したりしたとき、損害賠償責任が補償されます。
一般的に別荘など季節的に住居として使用されている建物は、空き家であっても引き受けの対象になります。火災の他、水災、風災、盗難、破損や汚損といった建物のアクシデントをまるごとサポートしてくれます。
「類焼損害・失火見舞費用特約」をプラスすることで、近隣に延焼したとき発生した損害を、1回の事故につき最大1万円まで補償します。また、1回の事故につき、全被災世帯合計で契約建物や家財に対して支払われた損害保険金の30%を限度として、1被災世帯あたり30万円を限度に支出した見舞費用が補償されます。
別荘など季節的に住居として使用されている建物、あるいは空き家である期間が「賃貸入居者を探している」など一時的である場合は、空き家でも契約できます。火災をはじめ、風災、水濡れ、盗難、水災、破損、汚損といった住まいのリスクに備えることが可能です。
建物を保険の対象にした場合、建物が全焼あるいは全壊した場合に上乗せの保険金をもらえる「特別費用保険金特約」と、犯罪行為が発生したときの再犯防止費用を補償してくれる「防犯対策費用特約」が自動付帯されます。
「類焼損害・失火見舞費用特約」をつけることで、延焼時に近隣の住宅や家財を補償してもらえます。
別荘など季節的に住居として使用されている建物は、保険引き受けの対象となります。火災の他、自然災害や日常生活の思わぬ事故で起こる住居のトラブルに対応する保険です。
「類焼損害特約」をつけることで近隣住宅に損害を与えた場合に保険金が支払われます。また「個人賠償責任特約」をつけることで、火災以外であっても空き家のトラブルで他人に損害を与えたとき、賠償金にあたる保険金が支払われます。
別荘などの季節的に住居として使用される建物の場合は、空き家であっても引き受け対象となります。火災、風災、水災、盗難、水濡れといったリスクに備えることが可能です。
基本補償の中に、損害範囲の確定を行う費用や仮修理の費用、残存物の片付け費用が含まれています。失火見舞費用保険金も、補償の範囲内です。見舞費用は、支払限度額(保険金額)の20%を限度として、1事故1被災世帯あたり50万円までが支払われます。
「類焼損害補償特約」や「個人賠償責任補償特約」をつければ、空き家の火災や破損のため他人に負わせてしまう損害に対して補償してくれるため、さらに安心です。
空き家のリスクは、火災以外にもあります。火災保険でカバーできるものもあるため、把握しておきましょう。
台風や突風により窓ガラスが破損したり、屋根が吹き飛ばされてしまったりといった被害が生じる恐れがあります。火災保険に加入していれば、台風や竜巻の被害についても補償されます。
最近ではとくに夏場の集中豪雨による被害が大規模化しています。集中豪雨で建物が破損したり、土砂崩れで全損してしまったりした場合、契約時の補償内容や損害の程度によっては補償される可能性があります。
地震により建物が破損したり、倒壊したりする恐れがあります。火災保険はそもそも地震に対する補償を含みません。地震への補償をつけるには、火災保険に加入した上で地震保険に加入する必要があります。地震保険単独では加入できません。
地震保険の保険金額は、火災保険の保険金額の30%から50%の範囲内で決めなければなりません。建物は5,000万円、家財は1,000万円が限度額となるため、注意が必要です。
また、地震保険は住宅物件を対象としており、一般物件とみなされると地震保険には入れません。
空き家に定期的に通い、庭の手入れをしないと、草木がどんどん伸びていってしまいます。生い茂った草木が隣家まで届いたり、虫が大量発生したりすると、近隣の迷惑になってしまいます。
また、草木が通行人や運転者の視界をさえぎると事故の危険性が高まります。木の枝が電線に到達してしまえば、「感電や火災が起こってしまうのでは」と周囲をハラハラさせることになりかねません。
草木を手入れしないことによって他人に損害を負わせた場合、保険による補償の対象になるかどうかは、契約の内容や事故が起こったときの状況によります。
例えば風により破損したガラスが人を傷つけたり、吹き飛んだ屋根が人にあたったりすることもあるかもしれません。空き家を所有している人が怖いのは、空き家そのものの損壊よりも、むしろ他人にケガをさせることです。
実は、自然災害が原因で他人にケガなどの損害を負わせた場合、法律上は損害賠償責任が発生しません。故意または過失による損害ではないためです。ただ、建物や塀などの設置または保存に瑕疵があった場合には、賠償責任があります(民法717条)。
とくに空き家は、必要な対策をするのがなかなか難しいものです。台風の前日に遠い実家へ行き、窓ガラスや屋根の補強ができる人は少ないです。屋根や外壁の老朽化があったとしても、気づけないことがほとんどです。
「他の家の屋根は飛んでいないのに、自分の家の屋根は飛んでしまった」など、家の手入れや災害対策を怠った結果の損害であると判断されれば、損害賠償責任が課される可能性があります。
また、法的責任は関係なく、ケガを負った人に見舞金を支払いたいという人も多いと思われます。
個人賠償責任特約などの特約をつけていると、他人のケガについて損害賠償が生じたときにカバーしてもらえます。法的責任がなくても見舞金が出るようなタイプの特約をつけておくと安心です。
空き家はなるべく早めに処分しないと、周囲の迷惑になる事態を招く可能性が高まっていきます。処分方法としては以下の3つが挙げられるため、どの方法が合っているか検討してみてください。
空き家の処分方法として理想的なのが、速やかに売却することです。空き家は人の手が入りにくいことから傷みやすく、空き家の状態が長引くほど売りにくくなります。
とくに相続して取得した空き家は、相続人の実家であるなどの思い入れもあるかと思われます。しかし空き家をすぐに利活用するためにもなるべく早く売却を決断するのが大事です。
また、相続後の一定期間内に空き家を売却すると、要件に当てはまれば譲渡所得の金額から3,000万円までが控除対象になります。
参考:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁)
空き家バンク制度など自治体の取り組みも駆使して広く買い手を求め、なるべく早く処分しましょう。
長く売却期間を設けても買い手が現れない、あるいは老朽化しておりいつ倒壊するか分からないと不安になるほど老朽化している空き家は、解体した方が売りやすくなるかもしれません。ただ、解体すれば解体費用がかかるうえ、固定資産税の住居用地特例が使えなくなってしまうので、売却を仲介してくれる不動産会社などと相談し、慎重に判断しましょう。
固定資産税の住居用特例とは、自宅や賃貸アパートなど居住用建物の敷地に関しては、固定資産税が最大で6分の1に引き下げられるものです。更地にすると、住居用建物が建っていない状態になるため特例は受けられません。
周囲に悪影響を及ぼす危険性があるなど一定の条件を満たした空き家は、解体すれば補助金がもらえます。空き家がある自治体の補助金制度を調べてみましょう。
リバースモーゲージとは、自宅を担保に金融機関から融資を受けるもので、契約者の存命中は利息のみを支払い、元金は契約者がお亡くなりになった後に相続人が一括で返済します。
元金返済は、担保となっていた契約者の自宅を売却することで行うことを前提に契約されます。つまり、空き家となった自宅の買い取り先を、生前に決めておける仕組みともいえます。
高齢の一人暮らしで、将来自宅が空き家になることに悩んでいる人は、検討してみてはいかがでしょうか。リバースモーゲージは全国各地の金融機関がサービスエリアを定めて展開しているので、まずは自宅がどの金融機関のサービスエリア内にあるか調べてみましょう。
親が亡くなるなどして空き家を相続したら、すぐに火災保険の掛け替えを考えましょう。すぐに誰かが住むなどして活用する見立てが立たなくても、親族が集まり別荘的に使う予定があるなら、加入できる火災保険はあります。管理が行き届かない空き家だからこそ、火災保険をかけておくのがおすすめです。