2024年9月17日
老後
【FP解説】個人事業主は厚生年金に加入できる?個人事業主が加入できる年金も紹介

個人事業主は国民年金に加入することになっており、厚生年金保険に加入することはできません。ただ、将来の受け取り年金を増やすためにiDeCoや国民年金基金などで対策することは可能です。日本の年金制度や保険料について解説した上で、個人事業主が加入できる年金をご紹介します。また、個人事業主の事業所に厚生年金の加入義務が発生する場合についてもお伝えします。

日本の年金制度とは

日本の年金制度は、国民年金と厚生年金の2階建てでできています。厚生年金にプラスして、企業年金に加入する場合もあります。まずは、それぞれ詳しくご案内します。

国民年金

国民年金とは、日本に住む20歳以上60歳未満の全ての人の加入が義務づけられた年金保険で、別名を「基礎年金」といいます。厚生年金に加入している人も、この国民年金に加入しています。

国民年金の被保険者は「第一号被保険者」と呼ばれており、自営業者、学生、無職の人がこれに当たります。2024年度の国民年金保険料は1ヶ月1万6,980円で、一律定額です。

原則として国民年金を10年以上納めると、65歳になれば年金受給が始まります。20歳から60歳まで40年間ずっと納め続ければ、満額の国民年金がもらえます。2024年度の国民年金の満額は、年額81万6,000円です。

国民年金の対象者でなくても、希望すれば加入できる場合があります。例えば、60歳以上65歳未満の方は、年金を納める義務はありませんが、加入して年金を納めることもできます。年金を納めていなかった期間がある人が加入すれば、そのぶん将来の年金受給額が増えます。。また、海外に在住する日本国籍を持つ方も加入できます。これを「任意加入」といいます。

厚生年金

厚生年金は、会社員や公務員などが加入する年金保険です。会社員や公務員などは、国民年金に加入した上で、さらに厚生年金にも加入しています。年齢要件はありません※。厚生年金の被保険者は、「第二号保険者」と呼ばれています。

厚生年金保険料は、国民年金保険料の分も含めて納めます。ざっくり計算すれば報酬の18.3%が保険料で、半額は勤務先の会社が負担してくれます。

厚生年金の加入者は、65歳になると、国民年金に加えて厚生年金ももらえます。1ヶ月でも厚生年金に加入していれば、加入月数や納付保険料に応じた年金を受給できます。勤務期間が長いほど、また報酬が多い人ほど、年金が手厚くなります。

なお、厚生年金加入者に扶養されている20歳から60歳までの配偶者を「第三号保険者」と呼びます。例えば、会社員の夫がいる専業主婦などです。第三号保険者には保険料負担がありません。保険料の負担なしで年金に加入しているとみなされ、将来は国民年金の受給者と同様の年金を受給できます。

※65歳以上ですでに年金をもらっている場合を除く

企業年金

企業年金とは、企業が任意で設ける年金制度です。会社員などが企業年金に加入すると、国民年金、厚生年金に加えてもう一つ年金に加入することになり、将来の受取金額が増えます。

企業年金には受け取る給付額が確定している「確定給付型」と、月々の掛金が確定している「確定拠出型」があります。

個人事業主が加入できる年金

会社員や公務員ではない個人事業主は、厚生年金に加入できません。すると厚生年金加入者と比べて将来の年金受給額が少なくなります。そこで、公的年金の他に任意で加入する私的年金を活用し、将来に備える人が少なくありません。個人事業主が加入できる年金として代表的なのが、以下の3つです。

国民年金基金

国民年金基金とは、国民年金に加入している自営業やフリーランスを対象とした年金制度です。毎月掛金を拠出することで、将来の年金額を増やすことができます。拠出上限額は、後に紹介する確定拠出年金と合算して月額6万8,000円で、掛金額に応じて将来受け取る年金額が確定します。

国民年金基金は65歳から一生涯受け取ることができる終身年金なのが特徴です。終身年金にはA型とB型があり、保証期間があるA型を選ぶと、年金受給前や保証期間中(65~80歳)に亡くなった場合、遺族一時金が支給されます。

また、掛金は全額が社会保険料控除の対象となり、確定申告によって税金が軽減されます。受け取る年金についても、公的年金等控除の対象となるため税負担が軽くなります。

個人型確定拠出年金(iDeCo)

個人型確定拠出年金とは、一定の掛金を拠出し、運用成果次第で将来受け取れる年金額が異なる年金で、iDeCoの愛称で知られています。自分で運用して資産を形成する年金といえます。

国民年金加入者であれば加入資格を持ちますが、農業者年金の被保険者は対象になりません。第一号保険者の拠出限度額は、国民年金基金または国民年金付加保険料と合算して月額6万8,000円です。

年金の受け取り方法には一括受け取りと年金受け取りがあり、一時金と年金を組み合わせて受け取ることも可能です。年金受け取りの場合は、5年以上20年以下の有期年金となります。終身ではありません。

また、掛金は全額が小規模企業共済等掛金控除の対象になり、確定申告で税金が軽減されます。

小規模企業共済

小規模企業共済とは、個人事業主が自ら退職金を用意するための制度です。月額1,000円から7万円までの単位で掛金を自由に設定でき、加入後も増額・減額できます。掛金の金額や期間、受け取り事由などによって給付金額が決まります。

小規模企業共済の特徴は、低金利の貸付制度を利用できることです。一時的に資金繰りが悪化したときなどに貸し付けを受けられるため、「手元資金がなくなるのが怖くて拠出できない」と考えている方も安心できるでしょう。

掛金は全額が小規模企業共済等掛金控除の対象になり、確定申告で税金が軽減されます。

個人事業主に厚生年金の加入義務が発生する場合

個人事業主は厚生年金に加入することができませんが、事業所に厚生年金の加入義務が発生する場合があります。加入義務が発生すると、雇用している従業員を厚生年金に加入させなければなりません。

個人事業主が営業する事業所の厚生年金加入には、強制適用と任意適用があります。順に解説します。

強制適用の場合

従業員が常時5人以上いる個人の事務所については、農林漁業、サービス業などの場合を除いて、健康保険と厚生年金保険の適用事業所となります。必ず加入手続きをしましょう。

従業員とは、正社員、契約社員、パートタイマー、アルバイトなどの名称を問わず、一週間の所定労働時間、及び1ヶ月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上ある人です。

具体的に対象となる事業は以下の通りです。

a製造業b土木建築業c鉱業d電気ガス事業e運送業f清掃業g物品販売業h金融保険業i保管賃貸業j媒介周旋業k集金案内広告業l教育研究調査業m医療保健業n通信報道業o士業など

引用元:適用事業所とは?(全国健康保険協会)

任意適用の場合

強制適用事業所ではなくても、厚生労働大臣の許可を受ければ厚生年金の適用事業所になることができます。事業所で働く半数以上の人が適用事業所となることに同意するのが条件です。

事業主が申請して、厚生労働大臣の認可を受ければ適用事業所になることができます。雇用主である個人事業主は、厚生年金保険料の半分を負担します。なお、厚生年金のみに加入し、健康保険には加入しないといった選択が可能です。

厚生年金の手続き方法

厚生年金の適用を受けるときは、強制適用の場合と任意適用の場合で手続きの流れが違います。

強制適用の場合

厚生年金加入が義務づけられている個人事業主は、事実発生から5日以内に日本年金機構へ必要書類を提出します。必要書類は以下の通りです。

  • 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
  • 事業主の世帯全員の住民票(個人番号の記載がないもの)
  • 賃貸借契約書のコピーなど事業所所在地を確認できるもの(事業所の所在地が住民票の住所と異なる場合)

提出先は、事業所の所在地を管轄する年金事務所です。電子申請、郵送、窓口持参の3つの方法があります。

参考:新規適用の手続き(日本年金機構)

任意適用の場合

強制適用事務所ではなくても厚生年金への加入を希望する場合は、任意適用申請の手続きを行います。必要書類は以下の通りです。

  • 健康保険・厚生年金保険 任意適用申請書
  • 従業員の2分の1以上の同意を得たことを証明する書類
  • 事業主世帯全員の住民票原本(個人番号の記載がないもの)
  • 賃貸借契約書のコピーなど事業所所在地を確認できるもの(事業所の所在地が住民票の住所と異なる場合)
  • 公租公課の領収書(コピー可)

提出先は、事業所の所在地を管轄する年金事務所です。電子申請、郵送、窓口持参の3つの方法があります。

参考:任意適用申請の手続き(日本年金機構)

まとめ

個人事業主は厚生年金に加入できません。老後に向けて十分な対策をしたいと考えるなら、国民年金基金などに加入する必要があります。人生100年時代、個人事業主が長い老後を生き抜くために十分な貯蓄をするのは簡単なことではありません。年金制度を利用して、賢く老後資金の準備をしましょう。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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