多くの方が「公的年金だけでは老後の生活が不安」と感じているのではないでしょうか。個人年金保険を活用することで、追加の年金を受け取ることができ、老後の資金に余裕を持たせることができます。ただし、個人年金保険は掛金や受給額を慎重に検討する必要があります。この記事では、個人年金保険のメリット・デメリットや公的年金との違いを解説します。
若いうちから老後資金に供えることができる年金として、個人年金保険と公的年金があります。まずは、個人年金保険の概要と、公的年金との違いを解説します。
個人年金保険とは、個人で月々の積立金や受け取る時期、受け取り方法を決め、一定の年齢に達したら積立金をもとに年金を受け取れる保険です。
公的年金にプラスして支払われることになるため、老後自分がどの程度公的年金を得られるかを想定し、足りない金額を補填できるように個人年金保険を利用するのが一般的です。
個人年金保険は私的年金の1つで、私的年金には個人年金保険のほかに企業の年金制度を利用して年金の積み立てを行う企業年金があります。
個人年金保険と公的年金との違いは、強制加入であるか否かです。個人年金保険に加入するかどうかは任意によります。一方で、公的年金は国の社会保障の1つとして強制的に加入となります。
日本の公的年金には、国民年金と厚生年金があります。国民年金は、20歳以上60歳未満の全ての人が加入する年金です。厚生年金は、厚生年金に加入している会社や団体に所属している70歳未満の人が被保険者となる保険です。
個人年金保険は、受け取り方によって3種類に分かれています。いずれも、年金受給前に被保険者がお亡くなりになった場合、死亡給付金が遺族に支払われます。死亡給付金の金額は、すでに払い込んだ保険料の金額などにより違います。
終身年金とは、被保険者が生存している間はずっと年金を受け取れる方式です。生存中は、公的年金と終身年金を受け取れることになるため、安心といえます。年金受給開始後は、被保険者が亡くなった際に遺族が受け取れる年金はありません。
ただし、終身年金には、保証期間付きのものがあります。保証期間中に被保険者が亡くなった場合、遺族が年金を受け取れます。
有期年金とは、被保険者が生存している間の一定期間、年金を受け取れる方式です。被保険者が亡くなると、受給期間が残っていても、年金は受け取れなくなります。また、受給期間が残っているうちに被保険者が亡くなっても、遺族には年金が支払われません。
ただし、有期年金には保証期間付きのものがあります。保証期間が残っているうちに被保険者が亡くなると、遺族に年金が支払われます。
確定年金とは、被保険者の生死を問わず、一定期間は年金を受け取ることができる方式です。年金の受取期間中、被保険者が存命であれば、被保険者に年金が支払われます。被保険者がお亡くなりになると、受取期間が終了するまで遺族に年金が支払われます。
個人年金保険には、積み立て方式の違いもあります。定額型と変動型です。
定額型は、契約時に取り決めた年金額が、そのまま年金として支払われる方式です。変動型は、保険会社が保険料を株式や債券などで運用し、運用の成果によって受け取る年金額や解約返戻金額が変動する方式です。
変動型の場合、解約返戻金に最低保証はありません。ただし、死亡給付金は、すでに払い込んだ保険料に相当する金額は最低保証されるのが一般的です。
公的年金を補填できる個人年金保険には、以下の5つのメリットがあります。
個人年金保険の最も大きなメリットであり、また多くの人が目的とするのは、老後の安心が増えることです。公的年金に個人年金保険を上乗せすることによって、老後に働けず収入が大きく目減りしても、安心して生活を営むことができます。
固定型の個人年金保険に加入すると、一定の条件下において個人年金保険料控除を利用することができ、節税効果が生まれます。個人年金保険料控除とは、一年間で支払った個人年金の保険料のうち一定額が課税所得から差し引かれるものです。そのぶん、課税所得が低くなるため、税金が抑えられます。
ただし、変動型の個人年金保険は個人年金保険料控除ではなく、一般生命保険料控除の対象となります。
個人年金保険は契約時に受給開始年齢を決めます。65歳と決めたなら、原則として65歳になるまでは引き出すことができません。また、月々、決められた金額が口座から引かれることになります。
なかば強制的に、かつ意識せずとも老後資金を形成できるため、貯金に苦手意識のある人には最適です。
変動型の個人年金保険の場合、金融機関側が資金を運用することによってお金を増やせる場合があります。自ら投資などをしなくても、老後に使えるお金が増えるのはとても嬉しいことです。
生命保険や傷病保険は、健康状態や既往歴を告知しなければならず、持病などがあると加入できなかったり、保険料が高くなってしまったりすることがあります。払い込んだ保険料にかかわらず、契約に該当する傷病や事故があれば一定の金額が保険金として支払われるため、疾病や死亡リスクの高い人は敬遠されます。
一方で個人年金保険は、年金受給前に契約者がお亡くなりになれば払い込んだ保険料に相当する金額などを死亡保険金として遺族に支払う仕組みなので、健康状態によらず加入しやすい保険です。ただし終身年金の場合、女性は男性よりも保険料が高くなる傾向にあります。女性の方が、平均寿命が長いためです。
個人年金保険には、以下の3つのデメリットがあります。検討している人は、デメリットを考慮し、納得した上で契約するようにしましょう。
個人年金保険は契約によって決定した年齢になるまでお金を引き出すことができません。もしも受給年齢になる前に経済状況が悪化して現金が欲しい場合、解約するしかありませんが、契約年数が短いと元本割れになるリスクがあります。
年金を受け取るのは数十年後という人も多いでしょう。その間にインフレーションが進んだら、お金の価値が変わってしまいます。数十年前には100円で買えたものが、老後は200円出さなければ買えなくなってしまった場合、「契約時に決めた受給額を改めて確認したら、今では驚いてしまうほど少ない」という結果になりかねません。
変動型の個人年金保険を選ぶと、運用次第で年金が増える可能性がありますが、逆もあり得ます。年金が減ってしまうリスクもあるのです。「自分で投資運用した方が良かった」と悔やむケースもあるかもしれません。
個人年金保険は老後の安心にとって大いに意味のあるものですが、メリットもあればデメリットもあります。老後資金を準備する方法は他にも以下のようなものがあるため、個人年金保険と合わせて活用しましょう。複数活用できれば、より安心です。
投資信託や株式の売買で資産を運用すれば、お金を増やすことが可能です。ただ、運用を失敗すると大切な資産を失ってしまいかねません。資産運用はあくまで余剰金で少しずつ行うのがおすすめです。運用に慣れていない人は、プロのアドバイスを受けながら始めましょう。
NISA(少額投資非課税制度)は、毎年一定金額の範囲で投資すれば売却金や配当金などの運用益が非課税になる制度です。NISA口座内で運用し、投資の対象とする商品の範囲が決まっています。
2024年1月からは新NISAが始まり、投資枠や非課税での保有限度額が増えてより使いやすくなりました。投資対象商品は、上場株式や、長期積み立てと分散投資に適した投資信託に限られているため、投資初心者でも比較的安心して運用できる制度として注目を浴びています。
節税しながらリスクの少ない投資を行い、コツコツ運用していきたい人におすすめです。
iDeCoは、掛金を自分で決めて積み立て、運用し、60歳以降に年金や一時金として運用結果を受け取る制度です。掛金が全額所得控除となり、分配金などの運用利益も非課税のため、高い節税効果が得られます。
NISAとの大きな違いは、中途解約ができない点です。iDeCoは原則として60歳になるまで解約ができないため、経済的に苦しくなったとき一時的にお金を引き出すといったことができません。だからこそ老後の資産形成に効果的といえますが、自営業など経済状況が不安定な方の場合は、いささか不安かもしれません。
高齢になってからこそ利用できるのが、リバースモーゲージです。リバースモーゲージは、自宅を担保に借り入れを行い、老後資金やバリアフリーのリフォーム代、住み替え資金などに充てることができる融資の仕組みです。契約者の存命中は利息のみを返済し、契約者がお亡くなりになったら相続人が元金を一括返済します。返済は、担保となっていた自宅を売却して行うのが一般的です。
金融機関にもよりますが、対象年齢はおおむね50歳代以上と、シニア層以降が契約可能になります。リバースモーゲージのメリットは、担保となった自宅に契約者が生涯にわたり住み続けられること、生前の返済負担が少ないこと、自己資金がなくても自宅のバリアフリーが叶うことなどです。
定年退職を経てもなお、老後資金を調達できる方法があるのは大きな安心材料です。個人年金保険や他の方法をもってしても老後資金に不安が残るのであれば、検討してみましょう。
以上、個人年金保険とその他の老後資金調達方法について解説しました。老後のお金で不安がある人は、今すぐ自分の将来の年金額を「ねんきんネット」で調べてみましょう。そして家計と引き比べ、いくらか足りないと感じたなら、個人年金保険を検討するのがおすすめです。
もしあなたが50歳代、60歳代であり、これから個人年金保険やiDeCoを始めるのは現実的ではないと感じているとしたら、NISAや他の投資信託を視野に入れつつ、リバースモーゲージに注目しましょう。リバースモーゲージを取り扱っている金融機関は、日本各地にあります。自宅がエリアに入っている金融機関を調べ、資料を取り寄せてみてはいかがでしょうか。