2025年からの税制改正により、配偶者や親の扶養内でパートやアルバイトをしている人の「年収の壁」が引き上げられます。これまで「年収が103万円を超えないよう意識しよう」と調整して働いていた人は、123万円まで働けることになります。ただ、年収の壁は他にもたくさんの金額があり、どの壁がどんな意味を持つのか分かりにくいと感じている人もいるのではないでしょうか。巷で言われる「○○万円の壁」について一挙解説します。
年収の壁とは、「これ以上の収入があると税金がかかるようになる」「配偶者や親の扶養から外れてしまう」といった事情から、世帯単位で見たときに手取りが減ってしまう金額のことです。年収の壁を少しだけ超えると、せっかく働いても手取りが減るため、調整して働いている人もいます。
年収の壁はいくつかありますが、「いくら調べてもよく分からない」という人は多いのではないでしょうか。実は、壁には3つの種類があります。「税金の壁」「社会保険の壁」「扶養者認定の壁」です。この3種類を切り分けて考えないと、理解が難しくなります。従来、年収の壁は、以下の表のようになっていました。
【これまでの「年収の壁」】
年収と壁の名称 |
壁の種類 |
内容 |
100万円の壁 |
税金の壁 |
住民税の支払いが発生する (自治体によって金額基準が若干違う) |
103万円の壁 |
税金の壁 |
所得税の支払いが発生する |
扶養者認定の壁 |
・扶養控除が利用できない (子や親など) ・配偶者控除が利用できず配偶者特別控除に切り替えとなる |
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106万円の壁 |
社会保険の壁 |
一定の条件下で社会保険に加入となる →社会保険の扶養から外れる |
130万円の壁 |
社会保険の壁 |
社会保険の扶養から外れる →自分で社保あるいは国保に加入する |
150万円の壁 |
扶養者認定の壁 |
配偶者の特別控除額が段階的に減額になる |
201万円の壁 |
扶養者認定の壁 |
配偶者の特別控除が利用できなくなる |
2025年の税制改正により、これらの壁のうち、いくつかの壁に動きがありました。順番に解説します。
2025年度の税制改正により、新たに「123万円の壁」が出現しました。所得税がかかり始める年収の壁は「103万円」でしたが、これが「123万円」にまでアップしたのです。つまり、「所得税がかからないように」と気をつけて働いていた人は、プラス20万円までなら、働いても手取りが減らないことになります。
ただ、これで「103万円の壁」がすっかりなくなるわけではありません。所得税の壁はなくなっても、扶養者認定の壁が残っています。年収が103万円を超えると、子世代など配偶者以外の扶養控除が利用できなくなる壁は残るのです。扶養控除の金額は、被扶養者の年齢により38万円から58万円と、無視できない大きな金額です。
しかし、扶養者の中でもとくに大学生世代の19歳~23歳未満(特定扶養親族)の扶養認定については、年収上限の引き上げ対応がなされています。年収123万円までは、特定扶養親族として認められるようになったのです。なお、「特定親族特別控除(仮称)」を設け、これを利用すれば年収上限は150万円になり、年収188万円まで段階的に控除額が減っていきます。
つまり、19歳から23歳未満までの特定扶養親族については、「103万円の壁」はすっかりなくなりました。しかし16歳から19歳未満、23歳以上の扶養認定については、「103万円の壁」が存続するということになります。
特定扶養控除の年収要件大幅緩和 国民民主の要求丸のみ―税制改正(時事通信)
2025年からも社会保険の壁として「106万円の壁」が存在することに変わりはありませんが、壁が新しく(大きく)なります。
これまで、社会保険の適用対象となるのは「従業員数101人以上の勤め先」で、「週の所定労働時間が20時間以上30時間未満」「所定内賃金が月額8.8万円以上(106万円÷12カ月)」「2カ月を超える雇用の見込みがある」「学生ではない」が条件でした。
しかし、2024年10月の改正で「従業員101人以上の勤め先」という条件が「従業員数51人以上の勤め先」へと変わりました。社会保険に加入する人が、大幅に増える可能性があります。
社会保険に加入すれば、配偶者の社会保険の扶養から外れ、自ら社会保険料を支払わなければなりません。すると手取りが減少します。そこで政府は<キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)>を新設し、労働者に対して収入増加の取り組みを行った事業主に助成金を支給する制度をスタートさせています。
参考:キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)(厚生労働省)
「106万円の壁」は、適用企業規模の拡大によって新しくなりましたが、近い将来、この壁が完全に取り払われるかもしれません。「月額8万8000円以上」という要件の撤廃が、2026年に想定されているためです。また、2027年には企業規模の縛りもなくなり、「労働時間週20時間以上であれば社会保険に加入しなければならない」という加入要件になる予定です。
するとパートやアルバイトで働く人にとっては「106万円の壁」も「130万円の壁」もなくなり、新たに「週20時間の壁」が出現します。
なかなか分かりづらい「年収の壁」ですが、自分の手取りが少なくなるだけでなく、世帯全体の年収に関わってくることがお分かりいただけたかと思います。重要なのは、家族会議を設け、家族の幸せのために何を優先するか皆で考えることです。
手取りが少なくなっても、扶養から外れても、働くことに金銭以外のやりがいを感じる人もいます。一方で「子どもが巣立つまではなるべくお金を貯めたい」と、手取り額を優先する考えもあります。家族それぞれがどんな思いを持って働いているのか、気持ちを持ち寄った上で、一人ひとりの働き方を決められるのが理想です。
【これからの「年収の壁」】
年収と壁の名称 |
壁の種類 |
内容 |
100万円の壁 |
税金の壁 |
住民税の支払いが発生する (自治体によって金額基準が若干違う) ※所得税の金額基準変更により、金額基準引き上げの可能性あり |
103万円の壁 |
扶養者認定の壁 |
・特定扶養親族以外(16歳以上19歳未満、23歳以上)の扶養控除が利用できない ・配偶者控除が利用できず配偶者特別控除に切り替えとなる |
新・106万円の壁 |
社会保険の壁 |
一定の条件下で社会保険に加入となる →社会保険の扶養から外れる |
123万円の壁 |
税金の壁 |
所得税の支払いが発生する |
扶養者認定の壁 |
特定扶養親族(19歳~23歳未満)の控除が「特定親族特別控除(仮称)」に切り替わる |
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130万円の壁 |
社会保険の壁 |
社会保険の扶養から外れる →自分で社保あるいは国保に加入する |
150万円の壁 |
扶養者認定の壁 |
・配偶者の特別控除額が段階的に減額になる ・特定扶養親族の特別控除額が段階的に減額になる |
188万円の壁 |
扶養者認定の壁 |
特定親族特別控除(仮称)が利用できなくなる |
201万円の壁 |
扶養者認定の壁 |
配偶者の特別控除が利用できなくなる |
(将来)週20時間の壁 |
社会保険の壁 |
社会保険に加入となる →社会保険の扶養から外れる |