
親から相続した空き家をどう扱うかは、多くの家庭で悩みの種です。放置すれば税金や費用の負担が増え、資産価値も下がってしまいます。一方で、譲渡所得の控除や特例を活用すれば、売却時の税金を大きく抑えることも可能です。本記事では、空き家売却のリスクから3,000万円特別控除、売却方法、必要な費用までをFPがわかりやすく整理します。
空き家をそのまま放置すると、以下のような4つのリスクがあります。早めの行動が、トラブル回避のカギです。
空き家の管理が行き届かず、危険と判断されると、自治体から「特定空家」に指定される可能性があります。住宅が建っている土地は、200㎡までは固定資産税が6分の1に軽減される「住宅用地特例」が適用されます。200㎡を超える部分も、3分の1に軽減されています。
しかし特定空家に指定されると、この特例が外れ、固定資産税が最大6倍に跳ね上がります。例えば土地の固定資産税が年間10万円の場合、特例が外れると60万円になる計算です。放置するほど税負担が増えてしまいます。
老朽化した空き家は、台風や大雨などの災害時に、倒壊や屋根材の飛散を引き起こす危険があります。もし通行人や近所の住宅などに損害を与えた場合、所有者は「工作物責任(無過失責任)」として賠償義務を負います。これは過失がなくても責任を問われる非常に重い制度です。
空き家が倒壊して隣家を全壊させた場合、損害額は物的損害で1,500万円、隣家の中にいた人が亡くなった場合などには、人身損害で億を超える損害が発生する可能性があるとする資料もあります。
参考:空き家(放置家屋)事例 損害額の試算 公益財団法人日本住宅総合センター
人の出入りがない空き家は、不法投棄や放火の標的になりやすく、地域の治安悪化を招きます。さらに、犯罪組織の拠点として悪用されるケースも報告されています。
周辺住民とのトラブルにつながるだけでなく、自治体から指導や改善命令を受ける可能性もあります。空き家の放置は、所有者だけでなく地域全体に悪影響を及ぼす問題です。
2024年4月から相続登記が義務化され、正当な理由なく放置すると10万円以下の過料が科される可能性があります。さらに、放置するほど家は老朽化が進んで価値が下がり、倒壊した建物は不安定で、追加の補強や慎重な作業が必要となるため解体費用がかさみます。
この悪循環により、売るどころか維持するだけで負担が増える「負動産」化が進みます。相続した空き家は、早めに登記と売却方針を決めることが重要です。
3,000万円特別控除とは、正式名称を「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」といい、相続した空き家を売却する際、条件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。適用できるかどうかで、支払う税金が数百万円単位で変わることも珍しくありません。複雑な要件を正しく理解して、空き家の売却に備えましょう。
3,000万円特別控除の特例を受けるには、複数の条件を満たす必要があります。主なものは、以下の通りです。
・相続または遺贈により取得した家、もしくはその家が建っていた土地であること
・被相続人(故人)が住んでいたこと
・平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に売っていること(令和8年2月現在。今後、期間が延長される可能性あり)
・昭和56年5月31日以前に建築されたこと
・区分所有建物登記がされている建物(マンション等)でないこと
・相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと
・家を売るときに、その家が一定の耐震基準を満たしていること
・相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
・売却金額が1億円以下であること
要件を一つでも満たさないと適用されないため、事前確認が欠かせません。
参考:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(国税庁)
この特例は、前述のとおり2027年12月31日までが適用期限です。制度ができたときは2019年末が期限でしたが、複数回の税制改正で延長を繰り返してきました。
さらに2024年の改正により、譲渡後に耐震改修や解体を行った場合でも特例が適用されるよう緩和されています。これにより、売却のタイミングや買主の意向に合わせた柔軟な対応が可能になりました。制度改正を理解しておくことで、より有利な売却戦略を立てられます。
空き家の売却方法は大きく「中古住宅として売る」「更地にして売る」「不動産会社に直接買取してもらう」の3つに分かれます。それぞれメリット・デメリットが異なるため、物件の状態や売却スピード、費用負担に応じて最適な方法を選ぶことが大切です。
現状のまま売却する場合、解体費用がかからないため初期負担が少なく済みます。また、建物が残っているため、買主が住宅ローンを利用しやすい点もメリットです。住宅ローンは法律上、居住用建物の取得を目的としなければ使えないためです。更地にしてしまうと、買主は金利の高い土地用のローンを利用せざるを得ません。
その一方、売却後に雨漏りやシロアリ被害などが見つかった場合、売主が契約不適合責任を負うリスクがあります。また、そもそも築年数が古すぎる場合は建物価値がほぼゼロと判断され、実質的に土地値での売却になることも多いです。不動産会社など専門家に相談し、物件の状態を正確に把握したうえで売却を判断しましょう。
建物を解体して更地にすると、陽当たりや接道状況、駐車スペースの取りやすさなどといった土地の条件が伝わりやすく、また建売業者や駐車場として活用したい事業者など買主のターゲットが広がるため、早期売却につながる可能性があります。解体費用は木造で1坪3〜5万円、鉄骨造で4〜6万円、RC造で6〜8万円が一般的な目安です。
ただし、解体後に売却できないまま年をまたぐと、税制上の住宅用地特例が外れ、固定資産税が上がる点には注意が必要です。固定資産税は、最大で6倍になる可能性があります。よって、解体のタイミングと売却計画をセットで考えることが重要です。
仲介では売れにくい地方物件や、周囲に知られず早く現金化したい場合には「直接買取」が適しています。直接買取とは、買主を探すのではなく、不動産会社に家や土地を買い取ってもらう方法です。遺品整理や残置物処分をまとめて依頼できる点も大きなメリットです。
ただし、買取価格は市場価格の7割程度になるのが一般的です。スピード重視か価格重視かで、選択が分かれます。状況に応じて最適な方法を選びましょう。
空き家売却は、査定から引き渡しまで複数の工程を踏む必要があります。空き家売却のステップと、売却に必要な費用をご紹介します。
売却の流れは、①査定、②媒介契約、③売り出し、④売買契約、⑤決済・引き渡しの順で進みます。査定は数日で完了し、媒介契約後すぐに販売活動が始まります。買主が見つかれば、売買契約から決済までは1〜2か月が一般的です。ただし、相続登記が必要な場合は、登記完了まで1〜2か月かかることもあります。早めに相続登記を済ませておきましょう。
まずは「この空き家はいくらくらいで売れそうか」を把握するステップです。不動産会社に依頼して、周辺の成約事例や路線価、実際の空き家の築年数、建物の状態などをもとに価格を算出してもらいます。複数社に査定を出して、極端に安すぎないか、高すぎないかを比較するのがおすすめです。
査定結果や担当者の対応を見て、「この会社に売却を任せよう」と決めたら、その会社と媒介契約を結びます。媒介契約は、不動産会社に正式に「売却の窓口」を依頼する契約で、専属専任・専任・一般の3種類があります。専任系は1社に絞る代わりに、販売活動の報告義務などサポート面が手厚くなるのが一般的です。
媒介契約を結ぶと、不動産会社が本格的に販売活動を始めます。ポータルサイトへの掲載、店頭掲示、チラシ、レインズ(不動産会社専門の物件情報データベース)登録、既存顧客への紹介などを通じて、買主候補に情報を届けます。内見の対応や、価格交渉の方針など、不動産会社と相談しながら決めていきます。
家を買いたい人が現れ、価格や引き渡し時期などの条件がまとまったら、売買契約を結びます。不動産会社の事務所などで、重要事項説明(物件や権利関係の説明)を受けたうえで、売主・買主双方が売買契約書に署名押印します。このとき、買主から手付金(売買代金の一部)を受け取るのが一般的です。
最後に、残代金の受け取りと物件の引き渡しを行います。通常は銀行の応接室などで、司法書士立ち会いのもと、所有権移転登記の申請書類に署名します。鍵の引き渡しもこのタイミングです。
売却時にはさまざまな費用が発生します。主な諸経費を一覧で示します。
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項目 |
内容 |
相場・金額の目安 |
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仲介手数料 |
不動産会社に支払う成功報酬。上限は法律で決まっている。 |
(売却価格 × 3% + 6万円)+消費税 |
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印紙税(売買契約書) |
契約書に貼る印紙。軽減税率が適用中。 |
1,000万〜5,000万円の取引:1万円 |
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登記費用(登録免許税) |
住所変更登記や相続登記などに必要。司法書士へ依頼する場合は別途報酬が発生。 |
数千円〜数万円(内容により変動) |
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測量費(必要な場合) |
境界が不明確な場合に実施。土地家屋調査士への依頼が必要。 |
20万〜60万円程度 |
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解体費(必要な場合) |
更地にして売る場合の建物解体費。 |
木造:1坪3〜5万円/鉄骨:4〜6万円/RC:6〜8万円 |
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残置物処分費(必要な場合) |
家具・家電・ゴミなどの撤去費用。 |
数万円〜数十万円 |
このほか、リフォーム後の引き渡しが条件であればリフォーム費用、住宅ローンが残っている場合は抵当権抹消のためにローン完済費用を支払う必要があります。
空き家の放置は、税金の増額やご近所とのトラブル、資産価値の低下など、多くのリスクを伴います。一方で、早めに売却を決断、実行し、3,000万円特別控除などの制度を活用すれば、売却時の税負担を大きく減らすことができます。
売却方法や費用、スケジュールを正しく理解し、早めに行動することが損をしない最大のポイントです。状況に合った最適な売却戦略を立て、空き家問題を賢く解決していきましょう。
