2023年6月22日
体験談
【FP解説】お墓を早く買いすぎて後悔……妻の背中を押した夫のひと言

かつては「生きているうちからお墓を買うなんて縁起が悪いのでは」と言われていましたが、終活ブームとともにお墓の生前契約が当たり前になってきました。ただ、お墓の買いどきをつかむのはとても難しいこと。今回は、お墓を早く契約しすぎて失敗してしまった、東京都に住むCさん(82歳 女性)のお話です。

永代供養の樹木葬、だけど生前は管理費が必要と知らされ

私が樹木葬の墓地を契約したのは、今から12年前のことでした。70歳という節目を迎え、今後どのように生きていくべきか考え始めていた頃です。ちょうど新聞や雑誌に「終活」という言葉が踊り始めた時期でもあり、自分らしい最後をという考え方に共感し、とくに新しいお墓の形には興味津々でした。

というのも、夫は次男坊で地方から東京に出てきて家を持ったため、私たち夫婦には入るべきお墓がなかったためです。いずれお墓を買うことになるとは思うけれど、2人の子どもたちはそのお墓を継がないだろうなという予感がありました。承継者の要らない「永代供養」というお墓の形があると知り調べてみたところ、富士山を眺望できるとても美しい霊園が。チラシには「○○樹木葬霊園」とありました。

さっそく夫を連れて霊園を見学すると、○○樹木葬霊園は私たち夫婦にぴったりのお墓だということが分かりました。承継者が要らないこと、自然に囲まれながら眠れること、夫婦2人で一緒に契約できること。ここで夫と富士山を眺めながら眠りたい。素直にそう思えました。

ただ、詳しく契約条件を伺ったところ「存命中は年間1万5,000円の管理費用をいただきます」とのこと。自然あふれる霊園は管理が大変なため、生きている間は費用面で協力をしてほしいというのです。

「あと何年、管理費用を支払うことになるだろう?」と考えましたが、その頃は樹木葬霊園自体が珍しく、どこも生前からの予約で区画がほぼ埋まってしまうという人気ぶり。「これを逃したら後はチャンスがないのでは」と感じ、すぐに契約を決めました。

元気なのはいいことだけれど、年々出ていく管理費が惜しい

樹木葬を契約してから12年が経ちましたが、足腰が弱くなってしまったほかは夫婦ともに大きな病気をせず年を重ねています。それ自体は喜ばしいことですが、年間の管理費用は年金生活者にとって痛い出費です。

「お墓を決めるの、早まったかも?」と思う理由は他にもあります。樹木葬霊園は12年前こそ数が限られていましたが、最近では同じような霊園のチラシをたくさん見かけます。都内にも増えてきて、自宅や子どもの家からアクセスのよい樹木葬霊園のチラシを見つけるたび「ここにすればよかったかしら」という後悔が頭をよぎるのです。

契約したのは家から車で2時間かかる山の方。子どもたちが「どうしてこんなところにお墓を?」と不満を言いながら運転する姿が、すでに目に見えるようです。

「俺、本当は散骨がいい」12年目の告白

そんな私の後悔に追い打ちをかけたのが、夫の告白でした。ある日、夫が「前、確か樹木葬を契約したよな。あれは、今からでもお前だけのお墓にできるのかな?」と言ったのです。

「どうして?樹木葬を気に入らなかったのですか?」と夫に聞くと、「いや、あのときはいいと思えた。でも散骨できるならそのほうがいいんだ」と。実は前々から散骨に憧れていたけれど、違法と思い込んでいたこともありその希望は心にとどめていたと話してくれました。

「友人が『亡くなったら散骨にしてもらう』と言っていてね。詳しく話を聞いたら、違法じゃないし散骨の業者だってあるっていうじゃないか。石原裕次郎とか、慎太郎とか、いろんな有名人も散骨をやってる。自分も亡くなったら海に還りたい」

夫の話を聞いて、私の心は決まりました。もう何の未練もない、あの霊園を解約しようと。今まで支払った管理費用はもったいないし、キャンセル料金を取られるかどうかもわかりませんが、「あのとき契約しなければよかった」と気に病むのはもう嫌です。お墓のことは、しばらく考えずにいようと思います。

【まとめ】お墓を買うタイミングの難しさ

自分の望むお墓をと考えるなら、もちろん生きているうちに、そして元気なうちにリサーチを始めるのがおすすめです。足腰が自由に動くうちでなければ、複数の霊園を見学して回ることができなくなるためです。

しかし、あまりに早くお墓を決めてしまうと今回のケースのような失敗がありえます。お墓を決めるタイミングは、本当に難しいと言わざるを得ません。

ただ、契約した後に「もっといいものがあった」と気づいて悔しくなるのは、お墓だけのことではないはずです。家しかり、家電しかり。高価なものであればあるほど悔しさは増しますね。しかし、早く決める人だけが得られるものがあります。それは「安心感」。

Cさんは12年間のうちでいろんな悩みを味わったかもしれませんが、「お墓がない不安」とは向き合わずに済みました。年間管理費用は、「お墓がある安心感」を得るために支払っていたといっても過言ではないでしょう。

この「安心を買う」という考え方は、保険の契約と同じようなものです。生前にお墓を契約する際は、「自分はお墓だけではなく、お墓がある安心も買うのだ」と考えてみてはいかがでしょうか。すると後でより好条件のお墓が見つかったとしても、きっと平常心でいられるでしょう。もし解約となった場合も、安心を得るための料金を支払ったと思えれば無駄ではありません。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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