今あるお墓を取り壊し、更地にして寺院等に返還することを「墓じまい」といいます。お墓の承継者がいない、次世代に迷惑をかけたくないといった事情から、墓じまいを選択する人が増えています。しかし家族を交えて相談してから行わないと、思わぬ失敗をすることも。今回はFさん(78歳 男性)の失敗談をご紹介します。
少し前から、先祖代々のお墓を今後どうしようと考えていました。ウチの子どもたちは2人兄妹で、どちらも家を出て独立しています。お墓を継ぐ人がいないことから、いずれお墓をやめて夫婦二人で承継者のいらない永代供養を選ぶべきだという話をよくしていたのです。
すると最近、菩提寺に永代供養墓ができたという噂を耳にしました。菩提寺に詳しく話を伺ってみると、檀家であれば一人30万円、夫婦50万円で永代供養にしてくれるとのこと。今あるお墓を取り壊す費用は自費ということでしたが、以後は年間管理費用がいらず墓参りの必要もないということから、夫婦で契約することを決めました。
墓じまいをした後は先祖の遺骨も永代供養墓に入れてもらうつもりでした。私は長男で、下に4人のきょうだいがいます。このたびの墓じまいはきょうだいにとっての親を永代供養にするということも含みますから、それぞれに事情を話して了解を得なければなりませんでした。
遠くに住む3人のきょうだいは承諾してくれましたが、近くに住んでいるすぐ下の弟を説得するには骨が折れました。「まだ墓じまいなんて早いだろう」「墓掃除がおっくうになってきているなら、自分が行ってしてもいいぞ」と、なかなか認めてくれません。
また、妻も将来は永代供養墓に入ることになります。妻には上に兄が、下に2人の妹がいました。お義兄さんは自らも同じ問題を抱えていることもあり、了承してくれました。しかし妹さんのうちの一人は「2人も子どもがいるのに、どちらか継げないの?」「お墓参りに行くとき、お姉さんのお墓がないなんて寂しい」と意外に譲りません。
結局、自分の弟を説得するには菩提寺のご住職の力を借りなければなりませんでした。「このままでは無縁仏になってしまう可能性がある。それではあなたも困るでしょう」と、将来について丁寧に語ってもらうと、弟も渋々承諾。妻の妹を説得するのは、お義兄さんに任せました。
残るは墓石の撤去作業です。ウチのお墓は見晴らしの良い高台にあります。景観は最高ですが、見ようによっては崖っぷち。重機が入らず撤去作業は難航しました。石材店に見積もりを依頼したときから「このお墓の撤去は難しい。敷地も広いですし、少しお金がかかりますよ」と言われて覚悟していましたが、撤去と更地にする作業が終わって精算額を確認すると、80万円の手痛い出費でした。
また、意外とお金がかかったのが先祖の遺骨の供養です。菩提寺からは「ご先祖様の遺骨は檀家に限り一体5万円で永代供養にします」と言われており、ありがたく感じていました。しかしお墓から出てきた遺骨は10個。これでは50万円がかかってしまうとご住職に相談したところ、「骨壺の数だけでいい」とのことで、なんとか8個にまとめ、先祖の永代供養費用は40万円となりました。
想定外の出費ときょうだい勢をなだめる苦労に疲弊した墓じまいのいきさつを、長男に話してやりました。「だからお前は安心していい」と言いたくて話をしたのですが、長男の反応は冷めたものでした。
「そんなに大変なら、俺の代まで待っても良かったのに」
長男が言うには、自分の代まで待てば説得が必要な人も少なくなると。確かに、自分や妻のきょうだい全てが亡くなってしまった後は、遺骨の弔い方についてうるさく言う人はいなくなるでしょう。
また、「お墓参りが大変なら代行サービスを依頼して、細々と年間管理費を支払っていくという手もあった」と言うのです。確かにお墓の解体費用は年金暮らしの我々にとって大変な負担となりました。それよりも年間1万円の管理費を支払い続け、お墓参りが辛くなったら代行を頼んだ方が、生きている間の経済的負担は少なかったかもしれません。
「解体費用は遺産とか保険金で何とかできたかもしれないだろう。遺骨の永代供養は他の霊園に依頼しなきゃならないかもしれないけど、それくらいいいだろう?」
長男の言い分を聞いていると、「墓じまいを早まったかも」という後悔が湧き出てきました。私としても先祖のお墓をなくすのは辛いことでしたし、自分がお墓に入らずすぐに永代供養となるのは寂しい気持ちでいました。子どもたちに迷惑をかけたくない一心で始めた墓じまいでしたが、お墓の問題に限ってはもっと子どもに頼る気持ちでいても良かったのかもしれません。
墓じまいは労力もお金もかかる大仕事です。菩提寺への申し出に始まり、各関係者への説明や説得で心が疲れてしまう人は少なからずいます。年配者であればあるほど、負担は大きくなります。
Fさんの息子さんがおっしゃるように、生前に大きなお金をかけるのが不安なら、少しの年間管理費用を支払い続けるという選択は1つの手です。「子どもに迷惑はかけられない」という気持ちが強い人も多いですが、自分が当の「子世代」だったらどう思うかを考えてみましょう。「そのくらいの責任は果たしてやる」という気持ちになるのではないでしょうか。
お墓の終活を始めたいなら、まずは子どもたちがお墓についてどう考えているのか尋ねてみるのが大事です。率直に相談してみれば、思わぬ本音が聞けるかもしれません。