希望するお墓について考えるのも、終活の1つです。しかしオリジナルのお墓についてあれこれと考えをめぐらせても、希望が叶えられるかどうかはまた別の問題。思っている以上に、理想のお墓を建てるのは難しいかもしれません。東京都在住のHさん(73歳男性)の失敗談をご紹介します。
私は次男で、親元から独立したためいずれお墓を別に建てなければならないとは思っていました。70歳になり「そろそろお墓について考えるか」と調べ物を始めた頃、ある石材店のウェブサイトに素敵な墓石が掲載されているのを見かけました。
墓石の一部にガラスをはめ込み、繊細な彫刻が施されたデザイン墓石は、これまでに見たことのないような美しさ。それまでは「子世代はお墓を継がないだろうから、永代供養墓でいいだろう」と考えていました。しかしそのデザイン墓石を見た瞬間、「この墓石が自分のお墓に使われていたら、どんなにいいだろう」と感じました。妻や子世代がお墓に手を合わせている姿をイメージし、美しいお墓を次世代に残したいと思えたのです。
さっそく妻にも石材店のウェブサイトを見せたところ、「とても素敵」と気に入ったようでした。彼女は天然石が好きでアクセサリーを集めているため、きっと気に入ってくれるという予感がありましたから、2人の希望が一致して嬉しかったのを覚えています。
石材店のウェブサイトには「オリジナルデザインの墓石も製作可能」と書いてあり、実際の事例がたくさん紹介されていました。私もせっかくならオリジナルにしたいと創作意欲を刺激され、どんなデザインがよいかと想像をふくらませます。
「墓石にはめ込まれるガラスの色は青みがかっているのがいいな」「四角ではなくて、優しく丸みを帯びた形状の墓石がいいな」「墓石に刻む文字は何にしよう?」とイメージを膨らませるのが楽しく、簡単なデッサン画まで作成しました。
デッサン画がそのまま実現するかどうかはわかりません。しかし「とにかく依頼する石材店はここに決めよう。あとは霊園探しだ」と、妻や子世代がお墓参りをしやすいエリアで募集中の霊園をいくつかピックアップし、見学に行くことにしました。
最初に見学したのは、自宅から電車で40分ほどの立地にある高台の霊園です。見晴らしが良く、墓石にはめ込まれたガラスが映えるだろうと選びました。
霊園の担当者は感じの良い人で、霊園の設備や墓地の金額、契約条件などについて丁寧に教えてくれます。しかし「実は、建てたいお墓のイメージは固まっているんですよ。お願いしたい石材店はもう決まっていまして……」と言うと、担当者のにこやかな顔がそのまま固まりました。
「申し訳ありません。ウチは指定石材店が決まっているんですよ。といいますか……、民間の霊園はだいたい指定石材店を持っていて、他の石材店に依頼するのは難しいことです。都営や市区町村がやっている霊園だったら、指定はないんですが」
私は初めて聞く話にビックリ。でも何とか気を取り直し、「できればこんなデザインの墓石を建てたいのです」と、作成したデザイン画を担当者に渡しました。担当者は「この青いものは何でしょうか?ガラス?」と尋ねた後、「うーん、ウチでは無理ですね」と苦笑いしました。なんだか、下手くそなデザイン画がより稚拙に見え、恥ずかしくなってしまいました。
それから複数の霊園にあたってみましたが、やはり指定石材店は決まっているとのこと。「指定石材店ではないところと提携して製作も可能」と言ってくれた霊園もありましたが、提携のために取られる料金が高く、正直そこまでこだわる話ではないなと感じました。
最初に見学した霊園の担当者が教えてくれた「都営や市区町村がやっている霊園だったら指定石材店はない」という話を頼りに、公営霊園の募集要項をあたってみました。分かったのは、東京の公営霊園は倍率が高く当選するのが難しいということ。そして遺骨がないと契約ができないため、生前の予約は不可能ということでした。
遺骨になってからでは、建てられた墓石を確認することができません。それでも公営霊園で理想のお墓を実現するべきか、近くの民間霊園で妥協点を探すか。最初のお墓探しから3年経っても、答えはまだ出ていない状況です。
美しい墓石、綺麗な祭壇、スタイリッシュな棺など、デザイン性の高い葬儀用品やお墓を提供する業者が増えてきました。「私のときにもぜひこれを」と思える品物に出合えるのは素晴らしいことですが、気をつけたいのが実現性です。
民間霊園に指定石材店が存在するのと同様に、1つの葬儀社で扱える葬儀用品にも限度があります。お客様の希望だからといって、常に取引していない業者から棺などを取り寄せるのはなかなか難しいことですし、時間もかかります。「あの葬儀社のホームページで見たような祭壇を、おたくでも作ってくれない?」という要望も、叶わないことが多々あります。
もし希望の葬儀用品やお墓があるなら、実際に使えるのかどうかをリサーチしましょう。葬儀社や霊園を訪れ、具体的に希望を伝えるのが一番の近道です。そのうえで、希望の品を取り扱ってくれる葬儀社や霊園に契約を決められれば、理想にぐっと近づきます。