
退職金は受け取り方によって税金の扱いがまったく異なります。一時金なら退職所得控除が使え、税負担が大幅に軽減される一方、年金受取では雑所得扱いとなり社会保険料の増加につながる可能性があります。併用方式を選べば、控除枠を賢く使いながらまとまった資金と定期収入の両立が可能です。この記事では、損しない退職金の受け取り方と、手続きのポイントを解説します。
※受取方法は会社規程や制度により固定されていることがあるため、事前確認が必要です。
執筆者:奥山 晶子(ファイナンシャルプランナー2級 / 終活・老後資金アドバイザー)
退職金の受け取り方法は大きく3種類あり、それぞれ税金の計算方法が異なります。どの方式を選ぶかで手取り額が変わるため、仕組みを理解したうえで選択することが重要です。
退職金をまとめて一度に受け取る方法です。いちばんの特徴は、税金が安くなるルールが使えることです。退職金はふだんの給料とは別扱いになり、「退職所得控除」という大きな控除が使えます。
この控除は、勤続年数に応じて金額が増える仕組みで、勤続年数20年までは1年につき40万円、20年を超えた分は1年につき70万円が控除されます。 そのため、課税される金額がゼロになることも珍しくありません。
もし課税される金額が出ても、課税対象額を半分として計算する(1/2にだけ課税される)という優遇があるため、負担はかなり軽くなります。まとまったお金を確保したい人にとって有利な受け取り方です。
退職金を毎月または毎年、少しずつ受け取る方法です。企業年金として支給される場合、税金の扱いは「雑所得」になります。雑所得は、公的年金と同じように「公的年金等控除」が使えるため、一定の金額までは税金がかかりにくい仕組みです。
ただし、雑所得はほかの収入(給与・年金など)と合算して税金を計算する「総合課税」になるため、ほかの収入が増えるほど税率が上がる可能性があります。 また、所得が増えることで国民健康保険料や介護保険料が上がることもある点は注意が必要です。
毎月の生活費を補う定期収入としては便利ですが、税金や社会保険料の影響を踏まえて選ぶことが大切です。
一時金と年金を組み合わせるハイブリッド方式です。まず一時金で退職所得控除の枠を最大限活用し、控除を使い切った残額を年金として受け取ります。これにより、まとまった資金の確保と定期収入の両立が可能になります。
一時金は退職所得控除、年金は公的年金等控除が使えるため、税負担を分散できる点が大きなメリットです。
退職金の最適な受け取り方は、退職後の資金ニーズや退職金額によって変わります。自分の状況に合わせて選ぶことで、手取りを最大化できます。
退職後すぐに住宅ローンの繰り上げ返済をしたい場合、一時金受取が有効です。利息負担を早期に減らせるため、総返済額を大きく抑えられます。また、家のリフォームなどまとまった支出が想定される人にとっても、資金計画が立てやすくなります。
税負担が軽い点も相まって、資金ニーズが高い人には合理的な選択です。
公的年金だけでは毎月の生活費が不足する人にとって、企業年金の分割受取は心強い選択肢です。定期収入があることで家計を安定させることができ、老後の経済的不安が和らぎます。
また、企業年金の運用利率や受取期間の仕組みを確認することで、より計画的な老後資金管理が可能になります。勤務先の労務担当者に確認してみましょう。
退職金総額が退職所得控除額を大きく超える場合、併用方式がもっとも節税効果を発揮します。一時金で控除枠を使い切り、残額を年金として受け取ることで、退職所得控除と公的年金等控除の両方を活用できます。
また、税負担を複数年に分散できるため、総合課税による税率上昇も抑えられます。高額退職金の人ほど、検討価値が高い方法です。
退職金は受け取り方だけでなく、手続きの正確さも手取り額に影響します。必要書類の提出漏れがあると、余計な税金が引かれる可能性があります。
退職決定から退職金支給までの標準的な流れは、以下の通りです。
① 退職決定
退職の6ヶ月から3ヶ月前に、退職の決定を行います。定年退職の場合、会社側から定年の通知や再雇用についての意向確認があります。
② 退職手続きと書類提出
退職1ヶ月ほど前から、退職手続きが始まります。会社から渡される書類に必要事項を記入して提出します。
③ 退職金の支給
退職から1~2ヶ月後に、会社の退職金規程に基づき、指定した銀行口座へ退職金が振り込まれます。また、退職所得の源泉徴収票が届きます。
退職の1ヶ月ほど前には、「退職所得の受給に関する申告書」が会社から渡されます。この申告書を会社へ提出しない場合、退職金に対して一律20.42%の源泉徴収が行われてしまいます。退職所得控除が適用されず、過大な税金が引かれるため注意が必要です。
もし提出を忘れた場合でも、確定申告を行えば還付を受けられますが、手間が増えるため事前の提出が大事です。
退職して何ヶ月も経つのに、退職金が支払われないときは、勤務先に問い合わせましょう。退職金の請求権は、労働基準法115条で「5年の時効」と定められています。未払いが疑われる場合は、早めに会社へ内容証明郵便で請求を行うのが大事です。
それでも支払われない場合は、労働基準監督署へ相談すると、会社への調査や是正勧告を求めることができます。早めの行動が、権利保全につながります。
退職金は受け取った後の管理も重要です。預金に置きっぱなしにすると、インフレで実質価値が下がる可能性があります。
退職金を一度に受け取ると、つい安心してそのまま普通預金に置いておきたくなります。ですが、預金だけに置いておくと、物価が上がったときにお金の価値が実質的に目減りしてしまうという弱点があります。たとえば、預金の利息がほとんど増えないのに、生活費だけが上がっていくようなイメージです。
とはいえ、いきなり大きく投資する必要はありません。まずは、急な出費に備えるための生活資金を手元に残し、それ以外の一部を安全性の高い資産に少しずつ分けておくだけでもリスクを減らせます。たとえば、新NISAでコツコツ積み立てたり、値動きの安定した債券を利用したりといった方法です。
また、退職金を「短期(数年以内に使うお金)」「中期(5〜10年で使うお金)」「長期(老後の長い期間で使うお金)」のように目的別に分けて管理すると、必要なタイミングに合わせて無理なく運用できます。こうした分散管理をすることで、預金だけに置いておくよりも、退職金を長く安心して活かすことができます。
親が退職金を受け取るとき、手続きやお金の管理を子どもが少し手伝うだけで、安心感がぐっと高まります。特に高齢になるほど、複雑な書類や金融商品の説明が負担になりやすく、誤解や勧誘トラブルに巻き込まれるケースもあります。
まずは、親がどんな制度で退職金を受け取るのか一緒に確認し、必要な書類や選択肢を整理してあげることが大切です。また、退職金を使った投資の勧誘を受けたときは、すぐに契約せず、複数の選択肢を比べる時間をつくるよう促しましょう。必要に応じて、FPや専門家に相談する場を用意してあげると、親も安心して判断できます。
何より大切なのは、親の気持ちや希望を尊重しながら、冷静に判断できる環境を整えることです。無理に決めつけるのではなく、「一緒に確認しよう」という姿勢で寄り添うことが、トラブル防止にもつながります。
退職金の受け取り方は、一時金・年金・併用の3つで税負担が大きく変わります。自分の資金ニーズや退職金額、税・社会保険料への影響を踏まえて選ぶことで、手取りを最大化できます。また、申告書の提出や支給手続きの確認など、事務的なポイントを押さえることも損失回避には欠かせません。受け取り後の運用まで含めて、総合的に判断しましょう。
