老後の生活には2000万円から3000万円が必要と言われています。老後は無職世帯になりますから、かなりの金額に驚いてしまう人もいることでしょう。「一人暮らしでもそんなにお金がかかるの?」「公的年金の受給額でまかなえる?」「費用の内訳は?」という疑問もわいてくることと存じます。夫婦二人暮らしと単身者、それぞれ65歳以降に必要なお金とその内訳について解説し、また、投資や個人年金保険など、老後資金を準備する方法についてもご紹介します。
まずは、65歳を定年とし、その先を「老後」として、最低限必要な老後の生活費について説明します。日本人の平均寿命は、女性がおよそ87歳、男性が81歳です。男女の平均寿命は84歳程度となります。つまり、65歳から寿命を迎えるまでの「老後」生活は、およそ20年あるといえます。
老後20年のつつましやかな生活にかかる費用を、夫婦二人暮らし、単身者それぞれについて算出しましょう。
夫婦二人暮らしの老後生活がうかがえる直近の資料として「令和4年度 生活保障に関する調査」(生命保険文化センター)があります。この調査によると、「夫婦2人で老後生活を送る上で必要と考えられている最低日常生活費をみると、平均額は月額で23.2万円」となっています。
一方、「2021年家計調査報告(家計収支編)」(総務省)によると、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)の一ヶ月の消費支出は22万4436円で、税金や社会保険料などの非消費支出はおよそ3万円です。消費支出については内訳も出されています。2つの資料を参考に、夫婦2人暮らしの老後について、最低限の支出内訳を算出しました。
全体支出:22万4000円
内訳
食費にゆとりがあると思われる人もいるかもしれませんが、高齢者は食事を貧しくすると医療費がよけいにかかります。健康であるためには、ある程度の食費を維持するのが大事です。また、子どもが独り立ちしている想定なので教育費はかからないものの、交通・通信費や交際費のボリュームの大きさには、孫との交流や贈答が垣間見えます。
さて、この生活を20年間続けるためには、いくら預貯金が必要でしょうか。
1ヶ月に必要な金額は、22万4000円(消費支出)+3万円(非消費支出)=25万4000円です。
対して、社会保障給付(夫婦二人平均)は21万6519円です。
つまり毎月3万7481円の赤字が出てしまいます。
3万7481円×12(ヶ月)×20(年)=899万5440円
かなりつつましやかな生活をしていたとしても、老後は900万円ものお金が必要です。2人に許される1ヶ月あたりの教養・娯楽費が1万9000円だったら、海外旅行どころか、国内すら怪しいですね。
高齢単身世帯についても、総務省のデータを参照すると、高齢単身無職世帯(60歳以上)の消費支出の平均額はおよそ13万2500円、非消費支出は1万2000円となっており、社会保険給付の平均額は12万000円ほどです。つつましやかな生活をするとして、社会保険給付の範囲内で内訳を考えてみましょう。
消費支出:10万9000円
内訳
急な病気や冠婚葬祭に備えることもできないばかりか、持ち家のない人には非現実的な住居費です。税金を払うのも一苦労でしょう。しかし、この金額を超えて出費があるなら、預貯金からの持ち出しとなってしまいます。
前章では社会保障給付額の全体平均として総務省のデータを使いましたが、さらに詳しい年金の平均受給額を厚労省のデータでみると、以下の通りになります。
年金のタイプ |
平均年金受給額(令和3年) |
国民年金(男性) |
5万9013円 |
国民年金(女性) |
5万4346円 |
厚生年金(男性) |
16万3380円 |
厚生年金(女性) |
10万1686円 |
この平均額から高齢者の世帯タイプ別に年金額を計算すると、以下のようになります。
高齢者の世帯タイプ |
平均年金受給額(令和3年) |
男性一人暮らし(厚生年金) |
16万3380円 |
男性一人暮らし(国民年金) |
5万9013円 |
女性一人暮らし(厚生年金) |
10万1686円 |
女性一人暮らし(国民年金) |
5万4346円 |
会社員の夫と専業主婦(厚生年金+国民年金) |
21万7726円 |
会社員の夫とパート(厚生年金には加入せず)の主婦(厚生年金+国民年金) |
21万7726円 |
夫婦が正社員で共働き(厚生年金+厚生年金) |
26万5066円 |
夫婦が自営業で共働き(国民年金+国民年金) |
11万3359円 |
参考:「令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概要」(厚生労働省)
年金の受取額は、加入状況や給与金額により違います。将来自分が年金としていくらもらえるのか気になる方は、誕生月付近に送られてくる「ねんきん定期便」などで確かめましょう。
次に、ゆとりある老後の生活費について見ていきましょう。こちらも先に示した生命文化センターのデータを使い、夫婦2人暮らしと単身一人暮らしについて解説します。最低限の日常生活費については上に説明したので、それ以外についてご紹介します。
先の生命文化センターのデータによると、「経済的にゆとりのある老後生活を送るための費用として、老後の最低日常生活費以外に必要と考えられている金額の平均は月額で14.0万円」となりました。「老後の最低日常生活費」と「老後のゆとりのための上乗せ額」の合計は、月額で平均36.1万円となります。
では、この上乗せ額の使い道はどのようなものでしょうか。上乗せ額の使途として、具体的な回答は以下の通りです。
ゆとりある老後のために、ひと月14万円が必要だとすると、老後の20年間で必要な金額は3360万円にもなります。社会保障費は最低限の生活で使い切ってしまうので、全額を自分たちの資金で賄わければなりません。
単身一人暮らしの場合、ゆとりある老後はどのように考えたらよいのでしょうか。先の総務省の調査によると、単身世帯(平均年齢58.1歳)の消費支出は、1世帯当たり1か月平均15万5046円です。社会保険給付の平均額は12万円ほどなので、この生活水準を老後も保つとなると、月に3万5000円ほどが持ち出しになります。
月に3万5000円の持ち出しを20年間続けると、840万円もの資金が必要です。単身者といっても、ずっとシングルで働いてきて、たくさん預貯金がある人ばかりとは限りません。配偶者に先立たれた人や、パートやアルバイトで生活をつないできた人など、資金のない人はつましい暮らしを続けるしかないのでしょうか。
生活費以外でも、必要となる老後資金はあります。主な例を挙げて説明します。
加齢に従って病気のリスクも増えます。介護が必要になる人もいるでしょう。保険内で使えるサービスは安価ですが、それだけではカバーできなくなってくることもあります。
家が老朽化するとメンテナンスが必要になります。介護が必要になったときなどのために、バリアフリー住宅へリフォームする人もいるでしょう。高齢者用住宅に住み替える際には、頭金が必要になることもあります。
車を買い替えるときにはまとまったお金が必要です。古い車をいつまでも使っていると、結局は車検料金が割高になるなど、車の維持費にはお金が付きまといます。
孫の進学や子ども夫婦のマイホーム購入など、子世代の援助をするためには、ある程度のお金が必要になります。いったん独り立ちした子どもであっても、仕事がうまくいかない、離婚したなどの理由で親の家へ戻ってくるケースも考えられます。
以上のように、ゆとりある老後にはある程度の資産が必要です。シニアになる前に準備をしておけば、安心して生活を送ることができます。老後資金の主な準備方法は、以下の5つです。
勤務する会社で財形貯蓄制度を活用できることがあります。給与や賞与から天引して積み立てを行うのが、財形貯蓄です。用途を指定されない一般財形貯蓄、住宅の取得を目的に積み立てる住宅財形貯蓄、老後に年金の形で受け取る年金財形貯蓄があります。
毎月、普通預金から定期預金へ一定額を積み立てていくのが積立定期預金です。地味な方法ですが、自分で舵取りしやすいところに利便性があります。
若いうちに保険料を支払い、シニアになったら年金の形で受け取れるのが個人年金保険です。運用の結果が受取額に反映される変額個人年金と、契約した金額がそのまま振り込まれる定額個人年金があります。また、円建てと外貨建てがあります。国が用意した「個人型確定拠出年金(通称iDeCo)」を活用すれば、節税面でメリットがあります。
株式投資や投資信託を利用すると、元本割れのリスクがある反面、余剰資金を活かせます。長期・積立・分散投資が基本の「つみたてNISA」対象商品なら、少ないリスクで老後資金をコツコツ貯められ、税制面でもメリットがあります。
自宅を担保に借り入れを行い、自分の死後に自宅を売却することで元本を返済する仕組みがリバースモーゲージです。毎月の返済額は利息のみなので、低負担で老後資金を調達できます。特に都市部に持ち家があり、子世代が家を継がないといった事情のある人におすすめです。
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