エンディングノートは、相続や遺言、財産管理、葬儀、医療・介護などの希望を家族に伝えるための大切なノートです。相続登記義務化やデジタル資産の増加を背景に、家族の負担を軽減し、自分の意思を明確に残す手段として注目されています。希望や価値観を整理し、安心して次世代へ未来を託すための必須チェック項目と、作成手順について解説します。

エンディングノートは、自分で自分のことができなくなったときに備えて、家族や関係者に伝えたい情報や希望をまとめるノートです。法的効力はありませんが、意思を整理し、家族の負担を減らす役割を果たします。
エンディングノートとは、突然の死ばかりではなく認知症や急な入院など、自分の意思を伝えられなくなったときに備えて、自分の希望や情報を記録するためのノートです。「エンディング」という名前がついているものの、急な事故や入院はどのような世代にもあり得ることなので、高齢者だけに向けたものではありません。
財産や医療、介護、葬儀に関する希望を整理することで、いざというとき家族が迷わず判断できるようになります。目的は、家族への負担軽減と意思の共有です。さらに、自分自身の人生を振り返り、価値観を見直す機会にもなります。
遺言は法律に則って書き残すものであり、財産分割や相続に直接影響を与える効力を持ちます。一方、エンディングノートは法的効力を持たず、あくまで「本人の意思の参考資料」です。
また、遺言はあくまで遺産の分け方について書き残すものであり、本人が亡くなった後に開示されるものなので、介護や医療、葬儀方式などの希望を書き留めておくことはできません。一方、エンディングノートには、財産の記録だけでなく、さまざまな希望を書き残すことができますし、お世話になった人のリストを記録しておくことも可能です。
つまり、遺言が相続の手続きを左右するのに対し、エンディングノートは家族の判断を助ける役割を担います。両者を併用することで、法律面と心理面の両方から安心を確保できるといえます。
近年の社会変化により、エンディングノートの重要性が高まっています。その背景には高齢化や制度改正、家族構成の変化があります。
日本は急速な高齢化社会を迎え、相続に関する課題が増えています。特に2024年から始まった相続登記の義務化により、不動産の相続手続きが必須となりました。これにより、相続人が不動産の登記を怠ると、過料が科される可能性があります。
制度改正の背景には、空き家問題や所有者不明土地問題があります。老朽化した空き家は、本来であれば相続人など所有者が管理する必要がありますが、家を相続したときに相続人が登記の変更を済ませていなければ、今の所有者を調べることが困難になります。このような空き家が増えており、社会的にも重要なテーマとなっています。
本人が所有する不動産は、持ち家ばかりとは限りません。家族が把握していない不動産を持っている可能性もあります。本人がエンディングノートに不動産情報を整理しておけば、家族がスムーズに対応できます。
介護や医療の選択、葬儀の形式などは家族に大きな負担を与えます。本人の意思が不明確だと、家族は迷い、時に意見が対立することもあります。
エンディングノートを通じて希望を明確にしておけば、家族は安心して判断できます。さらに、家族間のコミュニケーションを促進し、意思の共有が可能になります。
エンディングノートには、家族にとって必要な情報を網羅的に記載することが重要です。
氏名、生年月日、住所、電話番号、メールアドレスなどの基本情報を記載します。緊急時に連絡すべき親族や友人の情報も整理しておくと安心です。これにより、家族が迅速に対応できます。
特に医療機関や介護施設への連絡先は重要です。「明日急に倒れたら、誰に連絡してほしいか」をイメージしながら、情報が一目で分かるようにまとめましょう。
預貯金の口座、不動産の登記情報、保険契約の内容などを記載します。資産の一覧を整理しておくことで、相続手続きがスムーズになります。この記録が、相続税の申告や相続登記にも役立ちます。
金融機関や証券会社の情報も忘れずに記録しましょう。これにより、家族が探し回る手間を減らすことができます。記録が面倒なら、口座内容や登記情報の写しを糊付けしておくだけでも構いません。
介護施設への入所希望や、在宅介護の希望を記します。ただし、いつ、どんな介護が必要になるかは誰にも分かりません。詳細に記すことにこだわるよりも、漠然としていてよいので自分の希望を書き留めておくことが大事です。
また、延命治療を望むかどうか、終末期の医療方針を記載します。本人の意思が明確であれば、家族は迷わず判断できますし、医師や介護スタッフに伝える際にも役立ちます。
葬儀の形式(家族葬、一般葬など)、お墓の場所、遺影の選定などを記載します。遺言の有無も明記しておくと安心です。葬儀費用の準備や宗教的な希望も含めると良いでしょう。
家族が迷わず準備できるように、具体的に書いておくことが大切です。これにより「本人らしい葬儀」が実現します。
SNSアカウント、ネット銀行、電子マネーなどのデジタル資産も忘れてはいけません。近年はデジタル遺産の管理が大きな課題となっています。アカウントの存在を記録するだけでも家族の負担は軽減されます。
なお、亡くなった後にSNSをどうしてほしいかについても書き添えるのがおすすめです。亡くなったことをSNSで知らせたいのか、知らせずにアカウントを削除してほしいのかなど、具体的に記載します。
最後に、家族への感謝や価値観を記録します。人生の振り返りや思い出を残すことで、家族の絆が深まります。手紙のように自由に書いても構いません。
面と向かっては言えないような気恥ずかしいことも、エンディングノートになら書き記せます。本人と家族について飾りのない言葉でしたためた文章は、きっと、家族にとって宝物となるでしょう。
エンディングノートは、いざ書き始めようとすると、なかなか筆が進まないものです。以下の手順で作成すると、スムーズに書き進められておすすめです。
市販のエンディングノートや、自治体が配布するテンプレートを利用できます。とくに自治体が発行するエンディングノートには、介護施設についてなど地域ならではのお役立ち情報が載っていることもあるため、調べてみましょう。
項目立てやデザイン、紙の質感などを確かめて、自分が書きやすいと感じるものを選ぶのが重要です。一度、書店などへ足を運んで、いくつか比べてみましょう。
また、デジタル版を利用する方法もあります。パソコン作業に慣れている人は、デジタル版を便利と感じるかもしれません。
すべてを一度に書こうとすると負担になります。まずは自分が書きやすい項目から始めましょう。例えば「連絡先」など、すぐに思いつく部分から記載します。そこから、徐々に医療や財産の希望へと広げていきます。ハードルの低いところから取り組み、少しずつ積み重ねることが継続のコツです。
預金通帳、不動産登記簿、保険証券などの資料を集めて記載します。正確な情報を残すことで、家族が安心して手続きできます。誤った情報は混乱を招くため注意が必要です。コピーを利用するのもおすすめです。
資料を整理する過程で、自分の資産状況を把握できます。これは資産管理にも役立ちますし、のちに遺言を書くときの土台にもなります。
エンディングノートは一度書いて終わりではなく、人生の状況に応じて更新していくことが大切です。財産の変動や家族構成の変化、医療・介護の希望が変わることもあるため、定期的に見直す習慣を持ちましょう。更新の目安は「年に1回」や「大きなライフイベントの後」です。
保管方法については、家族が必要なときにすぐ取り出せる場所に置くことが重要です。ただし、誰でも簡単に閲覧できる場所は避け、信頼できる家族に所在を伝えておくことが安心につながります。かつて保険証を保管していた、通帳を入れているなど「家族しか知らない、大切なものが保管されている場所」を活用しましょう。
エンディングノートは便利なツールですが、いくつかの注意点を理解しておく必要があります。特に「法的効力」と「情報管理」に関する認識が重要です。
エンディングノートは遺言とは異なり、法律上の効力を持ちません。たとえば財産分割の方法を記載しても、それがそのまま相続手続きに反映されるとは限りません。あくまで「本人の意思を伝える参考資料」として位置づけられます。
したがって、財産分割に関して「なんとしても自分の希望通りに分割を行ってほしい」と思うのであれば、遺言を残す必要があります。ただ、本来の相続人に全く財産を渡さないなど極端な遺言は、遺留分(一定の相続人に必ず残される最低限の取り分)を侵すことになってしまうため、気をつけましょう。
デジタル資産の管理において、パスワードや暗証番号を直接ノートに記載することに不安を覚える人もいるでしょう。そんなときは、別紙に記載して金庫など別の場所に保管し、その旨をエンディングノートに記載しておく方法が有効です。
とくにスマートフォンのパスコードやPINは、できる限り知られたくないという人もいるでしょう。エンディングノートには書かず、信頼できる家族にだけ渡しておくという対処法も考えられます。
エンディングノートは、相続や遺言、財産、葬儀、医療・介護、デジタル資産など幅広い情報を整理し、家族に意思を伝えるための大切なツールです。法的効力はありませんが、家族の負担を軽減し、本人の希望を尊重するためのツールとして活用できます。
作成は一度に完成させる必要はなく、書きやすい項目から始め、定期的に更新することがポイントです。相続登記義務化や高齢化社会の進展を背景に、エンディングノートの重要性はますます高まっています。家族へ確実な情報を渡すためにも、今から準備を始めてみましょう。
