老後の住まい選びは「終の棲家」をどうするかが大きな課題です。高齢者にとって、バリアフリー設計や介護サービスの受けやすさ、医療 機関へのアクセスは住まい選びの大きな要素となります。自宅に住み続けるか、住み替えを行うか、有料老人ホームなどの施設へ入居するか――迷う場面も多いでしょう。本記事では、施設入居と在宅継続それぞれのメリット・デメリットを整理し、安心できる住まいを考えるためのヒントをお届けします。

近年、「終の棲家」という言葉が注目される背景には、日本社会の高齢化や平均寿命の伸び、そして介護リスクの増加があります。自分らしい暮らしを最後まで続けるために、住まいの選択は人生設計における大切な要素となっています。
日本は世界でも有数の長寿国であり、令和6(2024)年簡易生命表によると、男性の平均寿命は81.09歳、女性の平均寿命は87.13年となっています。65歳以上人口の割合を示す高齢化率は29.3% と、約3割が高齢者という状況です。
平均寿命が高いのは喜ぶべきことですが、注目すべきは健康寿命です。健康寿命とは、健康上の問題がなく自立して生活できる期間のことで、最近では平均寿命と健康寿命との差が問題視されています。
2022年のデータによると、日本の健康寿命は男性が72.57歳、女性が75.45歳で、男女ともに健康寿命とはおよそ10年程度の開きがあります。日本人は、健康上に不安が訪れてから亡くなるまでの10年間、家族の助けや介護サービスを必要としながら生活しているということです。
このように介護が必要となる期間は誰にでも訪れる可能性があり、住まいの選択に直結します。バリアフリー設計や介護サービスの利用は、生活の質を維持するために欠かせません。介護リスクを見据えた住まい選びは、高齢者自身と家族のために必須と言えます。
終の棲家には複数の選択肢があり、自宅に住み続ける方法、施設に入居する方法、あるいは住み替えやリフォームによる改善などがあります。それぞれにメリットと課題があり、ライフスタイルや資金計画に応じて検討する必要があります。
慣れ親しんだ自宅に住み続けることは、多くの高齢者にとって安心感があります。地域とのつながりを維持できる点も大きなメリットです。この安心感は、老後の幸せに直結すると言えるでしょう。
しかし、自宅の段差や階段などが、生活の障害となる場合もあります。自宅での転倒事故により骨折し、そのまま長い介護に繋がる例も多々見られます。
また、家族の助けがあるか、介護サービスを在宅で受けられる体制が整っているかも重要です。自宅に住み続けたい人は、その想いをしっかり家族に伝えましょう。家族が遠方にいる、働き盛りなどの理由で十分な支援を受けることが難しい場合は、早めに地域包括支援センターへ相談に行き、高齢者のサポート体制がどれだけ整っているかを調べておきます。
介護サービスを受けられる高齢者向け住宅は、介護のための専門スタッフがいるため、介護の不安があっても安心して生活できるのが特徴です。施設や契約によっては終生入居が可能であり、文字通り「終の棲家」となります。
ただし、費用面では大きな負担となる場合もあります。月々の支払い が、15万円から30万円ほどかかる場合が多いでしょう。また、施設によってサービス内容や雰囲気が異なるため、見学や比較検討が欠かせません。
利便性の高い地域への住み替えも有効な選択肢です。交通や医療機関へのアクセスを重視すると、快適に暮らせる可能性が高まります。今の健康状態によって入居を決めるのではなく、「もっと足腰が弱くなったとき」「体調が悪くなり、病院通い多くなったとき」でも暮らせるかどうかをイメージして、終の棲家を探しましょう。
また、自宅をバリアフリー化するリフォームも、老後の安心な暮らしを実現する一つの手段です。段差解消や手すり設置などの工事は、介護リスクを軽減します。
いずれも費用はかかりますが、生活の質を高める投資と考えることができます。自分のライフスタイルに合った改善策を選ぶことが、終の棲家の安心につながります。
終の棲家を選ぶ際には、次の5つを意識しましょう。
段差のない床や手すりの設置など、バリアフリーの設計は高齢者の安全を守るための必須条件です。とくにトイレやお風呂など、体勢を変える場所に手すりが設置されているか注目しましょう。
なお「ユニバーサルデザイン」とは、高齢者に限らず誰にとっても使いやすい住まいを目指す考え方です。車椅子でも通れる広いスペース、自動開閉するドアやトイレのフタ、自動点灯する電気などが、家のユニバーサルデザインとして挙げられます。小さな工夫でも、生活の安心感は大きく変わります。
病院や、デイサービスなどで通うことになる介護施設へのアクセスは、老後の安心に直結します。定期的な通院や、急な体調変化に対応できる環境が重要です。病院にアクセスの良いバス停の近くが理想ですが、叶わない場合はなるべく病院の近くに住まいを選び、介護タクシーの料金等を調べておきましょう。市町村の取り組みで、介護タクシーチケットが割安になる例もあります。
日常生活に必要な買い物や交通手段の利便性は、生活の質を大きく左右します。スーパーや公共交通機関が近くにあるかどうかは重要です。高齢になると車の運転が難しくなるため、徒歩圏内の利便性が安心につながります。生活利便性は「自立した暮らし」を支える基盤です。終の棲家を考える際には欠かせない視点です。
孤立を防ぐためには、地域コミュニティとのつながりが重要です。近隣住民や地域活動への参加は、心の支えになります。
終の棲家は「住まい」であると同時に「居場所」でもあります。なるべくこれまでのコミュニティから離れないのが理想的と言えます。
住まいの維持管理や費用は、老後資金計画と密接に関わります。リフォーム費用や施設入居費用は大きな負担となる場合が多いため、資金計画を立てておくことで、安心して選択ができます。
また、公的制度や補助金の活用も検討すべきです。例えばバリアフリーのための改修工事には、助成を行う自治体が多くあるため、調べてみましょう。終の棲家は「資金計画とセット」で考えることが大切です。
終の棲家は「安心の象徴」として語られることが多いですが、必ずしも、生涯安心して暮らせる「保証」ではありません。準備のタイミングや選択の幅を理解しておくことが重要です。
終の棲家を選んだからといって、すべてが安心できるわけではありません。介護や医療の状況は変化し、想定外の事態も起こり得ます。
例えば、介護度が進んだ場合に施設側が対応できないケースや、地域の医療体制が変わる可能性もあります。また、費用面での負担が予想以上に大きくなることもあり、資金計画の見直しを迫られることもあります。終の棲家は「選んだら終わり」ではなく、継続的に見直し、柔軟に対応していく姿勢が必要です。
終の棲家の準備は、できるだけ早い段階で始めることが望ましいです。特に50代後半から60代前半は、まだ体力や判断力が十分にあるため、冷静に選択肢を比較検討できます。この時期に準備を進めることで、介護が必要になる前に安心できる住まいを確保できます。
資金計画やリフォームの検討も余裕を持って行えるため、後々の負担を軽減できます。早めの準備は「選べる自由」を残すことにつながり、老後の生活をより主体的に設計できるのです。
終の棲家は、老後の安心と生活の質を左右する大切なテーマです。自宅に住み続けるか、施設に入居するか、あるいは住み替えやリフォームを行うか、それぞれにメリットと課題があります。
バリアフリーや医療・介護サービスへのアクセス、生活利便性、地域コミュニティとのつながり、そして費用計画という5つの条件を意識することが重要です。安心できる選択肢を確保し、豊かな老後を迎えるための基盤を築きましょう。
