年金の受給額は、年収や加入期間によって大きく変動します。本記事では、老齢基礎年金と老齢厚生年金の違いや計算式の仕組みを解説し、年収別・加入年数別の早見表を用いて、将来の受給額の目安を提示します。自分で見込み額を把握するためのチェックリストや、受給額を増やすための具体策も紹介していますので、ぜひ老後の生活設計にお役立てください。

日本の公的年金制度は「二階建て構造」と呼ばれ、すべての国民が加入する国民年金(1階部分)と、会社員や公務員が加入する厚生年金(2階部分)で構成されています。これにより、厚生年金加入者は、基礎年金(国民年金部分)に加えて、報酬比例の年金(厚生年金部分)を受け取ることができます。
国民年金は、20歳以上60歳未満のすべての日本国民が加入する制度です。保険料は一律に設定されており、月額1万7,510円(2025年度)を納めます。
国民年金を10年以上納めると、65歳から年金を受給できます。年金受給額は納めた年数によって違い、40年間全て納めれば「満額」を受給できます。2025年度の満額は年額約83万2,000円(月額約6万9,308円)です。
厚生年金は、主に会社員や公務員が加入する制度で、給与に応じて保険料が決まり、毎月の給与から天引きされます。
原則として65歳から受給でき、受給額は「平均報酬月額×係数×加入月数」で算出され、年収が高いほど受給額も増加します。老齢基礎年金に上乗せされる形で支給されるため、厚生年金加入者はより手厚い年金を受け取れます。なお、賞与も報酬に含まれるため、年収全体が反映される点が特徴です。
以上のように厚生年金の受給額は年収等に左右されます。受給額を決定する主な要素について、より詳しく解説します。
加入期間が長いほど、受給額は増加します。厚生年金は月単位で計算されるため、1か月でも長く加入することが重要です。シニアになってからでも、定年延長や再雇用制度を活用することで、加入期間を延ばすことができます。
厚生年金の報酬比例部分は、加入期間中の平均標準報酬月額に基づいて計算されます。平均標準報酬月額とは、たんに平均的な月給額をあらわすものではなく、基本給と各種手当を合計した税引き前の給与総額をもとに計算され、等級に振り分けられます(現在、1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの32等級)。
この報酬月額は、毎年一回計算し直されるほか、報酬が大幅に変動した場合にも計算し直される可能性があります。賞与も含めた年収が高いほど、受給額も増える仕組みです。よって昇給や賞与による年収アップは、将来の年金額にも影響します。自分の報酬月額が気になったら「ねんきん定期便」で確認しましょう。
厚生年金の受給額は、以下の計算式により計算されます。
老齢厚生年金の受給額=報酬比例部分+経過的加算+加給年金額
それぞれの要素について詳しく解説します。
報酬比例部分は、報酬月額により変動し、以下の式で概算できます(2025年現在)。
A:2003年3月以前の加入期間
平均標準報酬月額 × 0.007125 × 2003年3月までの加入月数
B:2003年4月以降の加入期間
平均標準報酬月額 × 0.005481 × 2003年4月以降の加入月数
60歳以降、特別支給の老齢厚生年金を受けている場合は、65歳以降の老齢厚生年金額が減ってしまうことがあります。受給額の計算の仕組みが違うためです。この減少を防ぐため、差額が加算されます。
60~64歳の老齢厚生年金 = 定額部分+報酬比例部分
65歳からの老齢厚生年金 = 報酬比例部分のみ(定額部分は老齢基礎年金に相当する)
老齢基礎年金の額より定額部分の額のほうが多いため、定額部分から老齢基礎年金を引いた額が加算されて支給となります。
厚生年金に20年以上加入し、一定の要件を満たす配偶者や子どもを扶養している場合、「加給年金」が上乗せされます。
厚生年金の受給額は、年収と加入年数の掛け合わせによって大きく変わります。ここでは、年収別・加入年数別に分けた早見表をつくり、将来の受給額の目安を確認できるようにしています。自分の働き方や収入に近いケースを参考に、老後の生活設計に役立てましょう。
以下は、厚生年金の加入年数を35年、国民年金の加入年数を40年と仮定した場合の年収別の受給額目安です(2025年度時点)。賞与を含む年収に応じて、報酬比例部分が変動します。
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年収(賞与込み) |
月額年金の目安 (老齢基礎年金+老齢厚生年金) |
年額年金の目安 (老齢基礎年金+老齢厚生年金) |
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300万円 |
11万7,000円 |
140万7,000円 |
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400万円 |
13万3,000円 |
159万9,000円 |
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500万円 |
14万9,000円 |
179万円 |
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600万円 |
16万5,000円 |
198万2,000円 |
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700万円 |
18万1,000円 |
217万4,000円 |
*実際の受給額は加入期間や報酬月額の変動により異なります。
*1人あたりの受給額です。配偶者がご自身の扶養に入っている場合は、この金額に配偶者の国民年金額がプラスされて、夫婦の年金額が算出されます。
*計算方法:老齢基礎年金…40年(満額)として年額83万1,696円(2025年実績)を計上、老齢厚生年金…平均標準報酬月額 ×0.005481 ×35年(420ヶ月)として計算し千円以下を切り捨てて算出した年額年金を12で割って月額年金とした
こちらは年収500万円(賞与込み)を前提とした場合の、加入年数ごとの受給額目安です。老齢基礎年金は、40年加入として計算しています。
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加入年数 |
月額年金の目安 (老齢基礎年金+老齢厚生年金) |
年額年金の目安 (老齢基礎年金+老齢厚生年金) |
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10年 |
9万2,000円 |
110万5,000円 |
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20年 |
11万4,000円 |
137万9,000円 |
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30年 |
13万5,000円 |
162万2,000円 |
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40年 |
18万円 |
216万円 |
*計算方法:老齢基礎年金…40年(満額)として年額83万1,696円(2025年実績)を計上、老齢厚生年金…平均標準報酬月額 ×0.005481 ×加入月数として計算し千円以下を切り捨てて算出した年額年金を12で割って月額年金とした
年金制度の仕組みを理解したうえで、自分が将来どれくらい受け取れるかを把握することが重要です。ここでは、厚生年金の平均受給額と、自分のケースとの違いを確認する方法を紹介します。
<h3>平均受給額の最新データ
厚生労働省の統計によると、の厚生年金受給者の平均年金額は約14万6,000円です。国民年金受給者の平均年金額は、約5万7,000円です。
参考:令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況(厚生労働省)p.25
この差は、平均的な加入期間や年収の違いによるものです。
自分の年金見込み額を把握するには、以下の情報を確認しましょう。
これらをもとに、年金額のシミュレーションを行うことで、ギャップを埋めるための対策が立てやすくなります。
年金額は制度に従って決まりますが、工夫次第で受給額を増やすことも可能です。ここでは、保険料の納付方法や働き方の選択によって、受給額を増やすための具体策を紹介します。
国民年金の未納期間がある場合は、追納制度を利用することで将来の受給額を増やすことができます。国民年金保険料の追納とは、納付猶予、学生納付特例などの承認を受けた期間の保険料を、後から納めることです。ただし、免除等の期間から10年を過ぎると追納できません。注意しましょう。
また、60歳以降でも任意加入制度を活用すれば、満額受給に近づけることが可能です。対象年齢は60歳以上65歳未満と、期間が短いため注意が必要です。
定年後も働くことで、厚生年金の加入期間を延ばすことができます。再雇用制度やシニア向けの雇用制度を活用すれば、年金額の増加につながります。
このように65歳以降も厚生年金に加入できる働き方を選ぶことで、報酬比例部分の受給額をさらに上乗せすることが可能です。定年後も元気で働けるよう、今のうちから健康管理をしっかり行いましょう。
厚生年金の受給額は、年収・加入期間・働き方によって大きく変わります。制度の仕組みを理解し、早見表やチェックリストを活用しながら自分のケースに応じた見込み額を把握することで、老後の生活設計に役立てましょう。
