2024年5月17日
老後
【FP解説】退職金に確定申告は不要?確定申告が必要な場合ともらい方を解説

勤続年数に従って受給になる退職金は、退職所得として所得税の対象になります。しかし老後の生活に必要な退職金にたくさんの税金がかかったら大変です。よって他の所得と比べて税制上の優遇措置があり、特別な計算方法で所得控除が算出されます。退職金に確定申告が必要かどうかはケースバイケースのため、この記事で自分の場合はどうなのかを知っておきましょう。

退職金に確定申告は基本的には不要

たくさん収入を得るような副業をしておらず、年金をまだ受け取っていない一般的な会社員であれば、基本的に退職金に確定申告は不要です。退職金に関する手続きは、基本的に雇用者が行ってくれるためです。勤務先から提示される「退職所得の受給に関する申告書」を提出しておけば、支給される退職金は、源泉徴収された後の金額となります。

ただし、他に申請すべき控除があったり、事業や不動産賃貸で収入があったり、すでに年金をもらっている場合など、退職金の確定申告が必要になる場合があります。

退職金の確定申告が必要な場合

退職金の確定申告が必要になるのは、以下のような場合です。

年金額が400万円を超える場合

公的年金等の収入金額が400万円を超える場合、退職金の有無にかかわらず、確定申告が必要になります。すでに年金を受給されている人は、厚生年金、共済組合、国民年金基金などの年金合計額が400万円を超えるかどうか、確認しましょう。

年間20万円以上の副収入がある場合

年金以外に、副業などで年間20万円以上の収入がある人は、退職金の有無にかかわらず、確定申告が必要になります。アルバイトなど実際に働いた場合に限らず、1月1日からの1年間に株式の配当があったかどうか、保険の解約金などを受け取らなかったかどうかを思い返してみましょう。

不動産所得や事業所得が赤字の場合

所有している不動産を賃貸に出していたり、副業で事業を営んでいたりする場合は、通常毎年確定申告をしていることでしょう。退職金が支給された年の確定申告をするときは、退職所得を計算する際に他の所得の金額と損益通算することが可能になります。

退職金の確定申告をしたほうがいい場合

以下のような場合は、退職金の受け取り方などにもよりますが、確定申告を行うことで得をする可能性があります。

他の所得控除を受けたい場合

退職金の支給の有無にかかわらず、年末調整で適応されない所得控除を利用したい場合には、確定申告が必要になります。会社員が利用する代表的な所得控除には、「医療費控除」と「寄付金控除」があります。

医療費控除は、1年間に支払った医療費が10万円を超える場合に、総所得金額等が200万円未満なら総所得金額等の5%を受けられるものです。寄付金控除は、国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対して寄付を行った場合に受けられるものです。該当する人は、確定申告をすると還付金が戻ってくる可能性があります。

申告書が未提出な場合

基本的には勤務先から提示されるはずの「退職所得の受給に関する申告書」を提出していないと、退職金は退職所得とは認識されず、一律で20.42%の所得税・復興特別所得税が源泉徴収されます。この税率は、退職所得とみなされたときよりも重い税率です。確定申告を行うことで、還付金が戻ってくる可能性があります。

年末調整が終わっていない場合

年の途中で退職すると、年末調整が行われません。そのため、正しい納税額が反映されず、もしかしたら受け取れるはずの還付金が受け取れなくなってしまいます。自分で確定申告を行うことで、過剰に納めた税金を還付してもらうことができる可能性があります。

退職所得にかかる税金と計算方法

退職所得にかかる税金と計算方法を、具体的に解説します。

例えば、勤続年数30年3ヶ月のAさんが2000万円の退職金を受給したとして、計算しながら進めていきます。

まずは勤続年数を確認し控除額を計算する

退職所得の控除額は勤続年数によって違います。まずは自分の勤続年数を確認しましょう。計算式にかかる勤続年数は切り上げです。30年3ヶ月なら「31年」とします。

勤続年数

退職所得控除額

20年以下

40万円×勤続年数(最低80万円)

20年超

800万円+70万円×(勤続年数-20年)

Aさんの退職所得控除額は、以下の計算式で算出されます。

800万円+70万円×(31-20)=1570万円

退職金の金額から控除額を引く

退職金の金額から、さきほど算出した控除額を引きます。

Aさんの退職金は2000万円、控除額は1570万円なので、以下のような計算式になります。

2000万円-1570万円=430万円

さらに2分の1をかけて退職所得の金額を算出する

先ほど出した金額に2分の1をかけ、退職所得の金額を算出します。この金額に税金がかかることになります。

430万円×1/2=215万円

Aさんは退職金として2000万円をもらいましたが、このうち税金がかかるのは、215万円の部分に対してのみということになります。

ただし、以下のような場合は2分の1をかけてはいけないとされていますので、注意が必要です。

  • 短期退職手当等

勤続年数5年以下の従業員が退職一時金を受け取る場合、退職一時金から退職所得控除額を控除した残額のうち、300万円を超える部分

  • 特定役員退職手当等

勤続年数5年以下の役員等が、その役員等の勤続年数に対する退職一時金を受けた場合

「退職一時金」とは?と疑問に思った人もいるでしょう。次項で詳しく解説します。

退職金の受け取り方法

退職金の受取り方法には、「一時金」と「年金」があります。受け取れる方法は企業によって異なります。

一時金

退職時に一括して、全ての退職金を受け取る方法です。自身が希望するほか、勤続期間が不足していて年金形式を選べない場合に一括で受け取るという仕組みを採用している企業もあります。老後すぐにリフォームを考えているなど、大きな出費が控えている場合は一時金での受取りが適しているといえます。

年金

退職金を一括で受け取るのではなく、一定の期間のあいだに分割して定期的に受け取る方法です。老後、計画的に退職金を使いたい人には年金形式が向いているといえます。

一時金と年金形式はどちらが得?

一時金と年金形式のどちらが得かは、一概には言えません。退職金の金額や、副業の収入があるかどうかによって変わってきます。

退職金を一時金として受け取ると、退職所得とみなされ、先に紹介したような大きい控除が受けられます。もしも退職控除額が退職金よりも大きい場合、退職金には全く税金がかからないことになりますから、一時金として受け取った方がお得です。

一方、年金形式で受け取ると、公的年金等にかかる雑所得とみなされることになります。公的年金等にかかる雑所得は、退職所得と計算方法が違い、他に受け取る年金額などによっても控除額が変わってきます。

退職後、年金以外の収入がないと想定される場合は、年金形式で損をすることはあまりないかもしれません。しかし事業を始める、投資をする、満期保険金を受け取るなどの予定がある場合、毎年企業から退職年金を受け取ると、そのつど雑所得として申告しなければならず、税負担がかかる恐れがあります。

まとめ

以上、退職金の確定申告や受け取り方法について解説しました。退職金を受け取る予定のある方は、企業側に退職金のための申告書を提出しているか改めて確認してみましょう。老後の資産として大事な退職金ですから、少しでも多く現金を手に入れたいものです。税金を正しく申告することで、かけがえのないお金が戻ってくる可能性があります。

奥山晶子

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ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
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