
「年少扶養控除」をご存じでしょうか。かつて、16歳未満の扶養親族がいる場合に認められた制度で、所得税や住民税が安くなりました。子ども手当(現在の児童手当)を創設する際に廃止となりましたが、復活を呼びかける声もあります。年少扶養控除の概要や廃止の背景、制度変更が家計に与えた影響などを解説した後、復活の議論やその可能性についてご紹介します。
年少扶養控除とは、すでに廃止された所得控除の制度です。納税者に16歳未満の扶養親族がいる場合、1人につき38万円(所得税)※を所得金額から引くことができ、課税される所得金額が少なくなる制度でした。
※住民税に対する所得控除金額は33万円
2010年に子ども手当の制度ができたことで、子ども手当の財源を確保する目的から年少扶養控除は廃止されました。子ども手当は子育て世代に給付金を支給する金銭手当であり、減税の形を取る年少扶養控除とは性質が違います。
なぜ子育て世代への支援制度は「減税」から「金銭手当」へと姿を変えたのでしょうか。政府の意図は、税制の公平性にありました。
所得控除制度は、高所得の人であればあるほど節税メリットがあります。所得税は年収により税率が変わるためです(累進課税)。所得税率5%の人と、45%の人では、所得控除額が同じであっても節税できる金額が大きく違います。政府は一律の金銭給付にすることで、この不平等性を解決しようとしたといわれています。
控除から金銭手当へ姿を変えた子育て世帯への支援制度は、家計にどのような影響を与えたのでしょうか。税負担の変化や、児童手当が与えたプラスの影響などについて解説します。
年少扶養控除の節税効果と児童手当で受ける恩恵を比較する際、年少扶養控除があった当時の所得税率を利用したり、かつての子ども手当や改正前の児童手当を引き合いに出したりすると、話が複雑になります。
ここでは、「現在、年少扶養控除があったとしたら」と想定し、あくまで現行の児童手当と比べることで、分かりやすく比較します。
【年少扶養控除が「今もある」と仮定した場合の節税効果】
年少扶養控除を利用すると、所得税は38万円、住民税は33万円の所得控除が受けられました。これは所得控除ですから、「税額」が38万円引かれるということではありません。所得金額から38万円が引かれ、引かれた所得金額に、所得に応じた税率が掛けられて所得税が算出されます。
1人の子どもを扶養しているとして、現行の課税制度を当てはめて年少扶養控除を利用した場合、所得税・住民税を合わせて以下のような節税効果があります。
(所得税と住民税の合計額。住民税は一律10%〈3万3,000円〉として計算)
参考:No.2260 所得税の税率(国税庁)
【現在、児童手当で子育て世帯が受けている恩恵】
年少扶養控除がなくなり、上のような税負担が各家庭にプラスされるようになりました。一方、現行の児童手当の支給額は以下のとおりです。
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児童の年齢 |
児童手当の額(1人当たり月額) |
児童手当の年額 |
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3歳未満 |
15,000円(第3子以降は30,000円) |
18万円(第3子以降は36万円) |
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3歳以上 高校生年代まで |
10,000円(第3子以降は30,000円) |
12万円(第3子以降は36万円) |
2024年10月から、保護者の所得制限が撤廃されています。
つまり、子どもが1人で所得税率10%の人は、7万1,000円の減税効果がなくなったものの、年間12万円から18万円の現金給付をもらえるということになります。これは家計にとって大きなプラスといえます。
一方、所得税率が高くなる、つまり所得が多くなるにつれて、児童手当へと改正したメリットは受けづらくなり、所得税率40%の人はマイナスに転じてしまいます。
年少扶養控除と比べた場合、児童手当の最大のメリットは、子ども1人あたりに給付される金額が同額であることから、分かりやすく「平等」であるということです。上で見てきたように、所得控除で行う支援策は、どうしても所得の多い人の方がその恩恵を多く受けることになります。金銭給付であれば、1人あたりの金額は一目瞭然であり、家計の計画も立てやすいといえます。
例えば、現行の制度では児童手当として振り込まれる金額を全額計算すれば250万円を超えます。この金額をコツコツ貯金することで、大学受験から入学にかけての、子育てで最も多くお金がかかる時期に備えようとする夫婦も多いようです。
また、2024年10月からは第3子への児童手当が月額3万円となりました。これにより、歯止めがかからない少子化に良い影響がもたらされると期待されています。
児童手当以外にも、子どもと子育て世帯を支える観点から行われている支援策はあります。
児童手当以外の公的支援制度として最も一般的なのが、子どもの医療費助成です。全国の自治体が医療費助成制度を設けており、対象者は「小学生まで」「中学生まで」「高18歳の年度末まで」などさまざま。自己負担額を全額、もしくは一部助成してもらえます。つまり全額助成であれば通院、入院、薬代は実質無料であり、薬の容器代だけを負担する場合もあります。
その他、自治体では独自に子どもや子育て世帯の支援策を設けています。給食費の助成、教育費の補助、妊婦や産後のケアサポート、待機児童ゼロ対策としてのこども園の充実、休日に子どもを遊ばせる施設の充実などです。
なお、子どもが一人でも無料あるいは定額で利用できる「子ども食堂」や、産後のお母さんをケアする「ファミリー・サポートセンター」が代表するように、民間団体や地域のコミュニティが支援策を講じている例もあります。
例えば「NPO法人カタリバ」では、生まれ育った環境や受けた教育によって広がる教育格差を解決すべく、10代の子どもたちに多様な出会いや学びの機会を設ける活動を全国で行っています。
地域コミュニティの例としては、福井県福井市の「放課後教室Together」があります。現役大学生が中心となって、福井県内の小〜高校生を対象に、週2回の放課後教室を開き、子どもたちの居場所づくりを行っています。
住んでいる地域によって受けられる子育て支援は違うため、気になる方は調べてみてはいかがでしょうか。
参考:カタリバ
実は現在、年少扶養控除を復活させようという声が、市民団体や政治家から出ています。ある市民団体は「他の世代の扶養控除はあるのに、15歳以下にだけ扶養控除がないのは、税の公平性から見て不平等である」と主張し、年少扶養控除の復活を訴えています。
もし児童手当が維持されたままで年少扶養控除が復活したら、所得に応じて各家庭で年額5万5,000円から20万4,000円(子ども1人あたり)の節税効果があります。物価が高騰し賃金の上昇が追いついていない日本で、家計的に助かるという世帯はかなり多いでしょう。
ただし控除はあくまで納税義務のある人を助ける制度であり、そもそも所得が少なく非課税である人、納税金額が少ない人にはそれほど得になりません。所得格差が広がる中、弱者を救うわけではない政策が復活するかどうか。また、その財源も懸念点です。
今後何らかの制度変更があれば、子育て世帯にとっては心理的負担が大きくなりかねません。税制や支援策が複雑化すると、ただでさえ忙しい子育て家庭は「どうしたら必要な支援策を受けられるか分からない」と不安になってしまう恐れがあります。情報不足を解消するため、自治体のサポートが必要ですし、サポートがあるという情報を効果的に明示する仕掛けも必要です。
子育て世帯は、今後、子育て支援策の変化をしっかり知ることができるよう、また今ある子育て支援を知るためにも、情報収集を行いましょう。ネットやSNSでの情報収集ももちろん大事ですが、図書館等の公的施設にあるパンフレットコーナーや、地域のフリーペーパーも貴重な情報源です。そして具体的な悩みがあるときには、自治体の子育てを担当する窓口へ直接相談するのが大事です。
年少扶養控除は、子ども手当の財源を確保するために廃止された制度です。ただし現在では、復活させようという議論もあります。少子化に歯止めがかからない今、どのような政策が本当に功を奏すのかは分かりません。子育て世帯に必要なのは、必要な情報をしっかりキャッチする力です。常に様々なところへアンテナを張り、家族の未来を守りましょう。
