2025年11月5日
老後
【FP解説】高齢者雇用継続給付金のデメリット総まとめ

高齢者雇用継続給付金は、賃金が75%未満に低下した高齢者に対し、最大15%(20254月以降は10%)の給付率で支給される制度です。しかし、年金を受給するようになると、在職老齢年金との関係で年金が一部または全部支給停止になるケースもあり、標準報酬月額や賃金の把握が不可欠です。ハローワークで申請する前に、給付額と年金停止額を試算しましょう。高齢者雇用継続給付金のデメリットについて、徹底解説します。

高齢者雇用継続給付金とは?

高齢者雇用継続給付金とは、高齢者の就業継続を支援するための制度です。一定の条件を満たすと賃金低下分の一部が補填されます。まずは対象者や目的、受給要件について解説します。

高齢者雇用継続給付金の対象者と目的

高齢者雇用継続給付金は、正式名称を「高年齢雇用継続給付」といい、60歳以降も働き続ける人を対象とした給付金です。目的は、定年後の雇用継続を促進し、生活の安定を図ることにあります。

定年後、そのまま同じ企業で再雇用となっても、それまでの給与から年収が大きく下がってしまう人が多くいます。下がってしまった給与の一部を給付金によって補填することで、それまでの生活スタイルを大幅に変えることなく、また働くモチベーションが失われないよう、この制度があります。

受給要件

受給には、60歳到達時点の賃金と比較して、75%未満に低下していることが必要です。また、雇用保険の被保険者であること、継続して働いていることなども条件となります。

制度を利用するためにはハローワークへの申請が必要ですが、基本的には事業主が申請を行います。給付率は、賃金低下率に応じて変動します。

参考:令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します(厚生労働省)

高年齢雇用継続給付のデメリット

給付金はありがたいものですが、メリットだけでなく、年金との関係や、制度の制約によるデメリットも理解しておく必要があります。詳しく解説します。

年金が“一部支給停止”になる仕組み

在職老齢年金制度では、厚生年金に加入したまま働く場合、基本月額(報酬比例部分)と給与(総報酬月額相当額)の合計が、基準額(65歳以上は51万円)を超えると、年金の一部が支給停止されることがあります。また、高年齢雇用継続給付金を受け取ると、その給付額に応じて年金が減額されることもあるため、勤務時間や収入の調整が重要です。

参考:年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整(日本年金機構)

20254月以降「給付率上限10%」へ

2025年4月から、給付率の上限が従来の15%から10%に引き下げられました。これにより、受給額が減少し、制度の魅力が低下する可能性があります。とくに、定年後の再雇用で大きく減給される可能性がある人は、注意が必要です。

制度利用時の注意点

高年齢雇用継続給付の申請は、2ヶ月ごとに行います。その都度、賃金額を報告し、その金額に基づいて支給率が都度算定されます。

一方で、在職老齢年金については、高年齢雇用継続給付の利用をやめても、高年齢雇用継続給付の支給申請が可能である期間中、年金の支給停止は継続します。退職時や、65歳に達したときなどに解除されます。慎重な判断が必要です。

参考:失業給付・高年齢雇用継続給付の手続きをされた方へ(日本年金機構)

併給不可・制度横断の盲点

高年齢雇用継続給付は、他の給付制度と併給できない場合があります。働き続けるため失業給付と併給できないのはもちろんのこと、高年齢再就職給付金との併給もできません。

ほか、育児休業給付や介護休業給付との併用は制限されるため、制度横断的な確認が必要です。盲点となりやすい部分なので、事前にハローワークで相談することが推奨されます。

申請の流れと必要書類

高年齢雇用継続給付の手続き(申請)は、基本的に事業主(勤務先)が行います。ただ、小規模事業所や制度に詳しくない企業では、本人がハローワークに出向いて申請する必要があることもあります。申請の基本を知っておくと、いざというとき安心です。

申請スケジュールと提出先

初回の支給申請は、最初に支給を受けようとする支給対象月の初日から起算して4ヶ月以内に行います。申請先はハローワークです。

必要書類一覧と入手先

提出書類は、以下のとおりです。

  • 雇用保険被保険者六十歳到達時等賃金証明書
  • 高年齢雇用継続給付受給資格確認票
  • 本人確認書類(運転免許証など)
  • 賃金証明書の記載内容を確認できる賃金台帳or給与明細
  • 「高年齢雇用継続給付支給申請書」(ハローワークで入手)
  • 振込先の通帳またはキャッシュカードの写し

申請前の損益チェック手順

申請前には、自分の収入状況と年金の支給停止額を試算し、損益を確認することが重要です。以下の手順に従って、給付額や年金の支給停止額を試算してみましょう。

自分の賃金・標準報酬月額・年金月額を把握

まずは現在の賃金と標準報酬月額、そして受給している年金月額を正確に把握しましょう。これらの数値が在職老齢年金の支給停止判定に直結します。給与明細や年金通知書を活用して確認することが大切です。

給付額と停止額を試算

給付額は賃金低下率に応じて最大10%で算出されます。一方、年金の支給停止額は標準報酬月額と年金月額の合計が基準額を超えると発生します。両者を比較することで、申請の損益が見えてきます。

例えば、定年後の再雇用において賃金額が35万円から20万円となった場合は、賃金割合が75%未満に低下しているため高年齢雇用継続給付の対象となります。この場合、低下率が64%よりも少ないため支給率は10%となり、2万円が支給されます(20万円×10%=2万円)。

同じ方が月額10万円の年金を受け取っている場合、年金の支給停止額は標準報酬月額(20万円)の4%となり、年金のうち8,000円が停止対象になります。よって年金は92,000円支給されることになります。

参考:令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します(厚生労働省)

   失業給付・高年齢雇用継続給付の手続きをされた方へ(日本年金機構)

注意点を踏まえた意思決定

高年齢雇用継続給付金は、一度申請すると制度から抜けても年金の支給停止が続く場合があるため、慎重な意思決定が求められます。また、各種給付が受けられなくなるため、場合によっては給付を受けない方が、メリットが大きい場合もあります。必要に応じて、会社の人事労務部やハローワークに相談しましょう。

まとめ

高齢者雇用継続給付金は、賃金低下を補う制度として有効ですが、在職老齢年金との関係で一部支給停止のリスクがあるなど、デメリットも多く存在します。20254月以降は給付率が10%に引き下げられるため、制度の見直しも必要です。

申請前には、ご自身の賃金と標準報酬月額、年金月額を把握し、給付額と停止額の損益を試算しましょう。納得のいく選択をするために、事前の情報収集と相談が必要です。

奥山晶子

リバースモーゲージ商品を見る
ファイナンシャルプランナー2級の終活関連に強いライター。冠婚葬祭互助会勤務の後、出版業界へ。2008年より葬儀・墓・介護など終活関連のライター業務を始める。終活業界や終活経験者へのインタビュー経験多数。近著に『ゆる終活のための親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある。
金融機関を探す