
iDeCoの受取方法は「一時金」「年金」「併用」の3種類があり、特に一時金で受け取る場合は退職所得控除の活用が重要です。退職金を得て、かつiDeCoを一括で受け取る場合、受取時期によって税額が大きく変わることをご存じでしょうか。税金を最小化するために、勤続年数や拠出期間に応じた計算式を理解し、10年ルール・19年ルールを踏まえた最適な戦略を立てましょう。具体的な手順について解説します。
iDeCoを一時金で受け取る場合、退職所得控除が適用されるため、税負担を大きく抑えることができます。制度の仕組みを理解しておくと、受取時期の調整や併用時の判断がしやすくなります。
退職所得控除とは、退職金などの「退職所得」に対して適用される大きな控除枠のことです。退職所得には、iDeCoで運用した資産を年金としてではなく一括して受け取る「一時金」も含まれます。
これらの退職所得は給与や公的年金とは異なり、分離課税として扱われるため、他の所得と合算されません。退職金はあくまで働けなくなる老後の生活資金という意味合いがあるため、他の所得よりも税額が抑えられるような制度になっているのです。
退職所得の控除額は加入期間に応じて増える仕組みで、長く加入しているほど非課税枠が広がります。課税対象額は「(受取額 − 退職所得控除)× 1/2」で計算され、実質的に税負担が半分に軽減されます。iDeCoを一時金で受け取る際は、この控除枠を最大限活用することが節税の鍵になります。
退職所得控除は、加入期間20年以下と20年超で計算式が変わります。20年以下の場合は「1年につき40万円」、20年超の部分は「1年につき70万円」が加算されます。たとえば加入15年なら「40万円×15年=600万円」、加入25年なら「40万円×20年+70万円×5年=1,150万円」となります。
控除額が大きいため、iDeCo一時金を非課税で受け取れるケースもあります。加入期間が長いほど控除枠が急増するため、受取時期の調整が節税効果に直結します。
【加入期間別・退職所得控除額 早見表】
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加入期間(拠出期間) |
控除額(非課税枠) |
計算式の内訳 |
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2年 |
80万円 |
※最低保障額(40万×2年) |
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5年 |
200万円 |
40万円 × 5年 |
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10年 |
400万円 |
40万円 × 10年 |
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15年 |
600万円 |
40万円 × 15年 |
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20年 |
800万円 |
40万円 × 20年 |
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25年 |
1,150万円 |
800万 + (70万 × 5年) |
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30年 |
1,500万円 |
800万 + (70万 × 10年) |
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35年 |
1,850万円 |
800万 + (70万 × 15年) |
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40年 |
2,200万円 |
800万 + (70万 × 20年) |
参考:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)(国税庁)
退職金とiDeCo一時金を同じ年に受け取ると、それぞれの控除枠を別々に使うことはできず、一つの控除枠を分け合う(合算される)ことになります。また、時期をずらして受け取る場合も、一定期間内だと重複期間が調整され、控除額が減額されるため、受取時期の戦略が重要になります。
退職金とiDeCo一時金を同一年に受け取ると、退職所得控除は合算して計算されます。二つの控除枠を別々に使うことはできず、最も長い期間(勤続年数または拠出期間)を基準とした一つの控除枠を分け合う仕組みです。
結果として、それぞれ別々に受け取れば非課税で済んだはずの金額が、合算によって控除枠をオーバーし、税金が発生してしまう可能性があります。
【計算例】
A:会社の退職金(勤続35年・受取額 1,500万円)
B:iDeCo一時金(拠出期間20年・受取額 500万円)
※iDeCoの20年間は、会社の勤務期間と完全に重複しているものとします。
同じ年にABを両方受け取ると、
受取総額: 1,500万円 + 500万円 = 2,000万円
退職所得控除額(35年分): 800万円 + 70万円 × (35年 – 20年) = 1,850万円
課税対象額: (2,000万円 – 1,850万円)×1/2 = 75万円
この75万円に対して、所得税・住民税がかかります。
それぞれ、別の時期に受け取る場合(※時期のずらし方については次の項目を参照)
Aの受取額:1,500万円
退職所得控除額(35年分): 1,850万円
受取額が控除額を超えないため、課税対象額は0円となります。
Bの受取額:500万円
退職所得控除額(20年分):40万円×20年 = 800万円
受取額が控除額を超えないため、課税対象額は0円となります。
退職金とiDeCo一時金の控除枠を最大限活用するためには、受取時期をずらす「5年ルール」(2026年からは「10年ルール」)「19年ルール」が重要です。
2025年までは、iDeCo一時金を先に受け取る場合、5年(前年以前4年以内)空ければ退職所得控除を再計算(再利用)できました。しかし、2026年からの新ルールでは、iDeCo一時金を先に受け取る場合、10年(前年以前)空けなければ、退職所得控除を再計算(再利用)できないことになりました。
つまり、iDeCo一時金をもらってから 10年未満で退職金をもらうと、退職金にかかる税金の計算で、iDeCoと被っていた期間の控除枠が削られてしまいます。
【具体例】
A:会社の退職金(勤続35年・受取額 1,500万円)
B:iDeCo一時金(拠出期間20年・受取額 500万円)
※iDeCoの20年間は、会社の勤務期間と完全に重複しているものとします。
パターン①:9年しか空けなかった場合
60歳でiDeCo一時金をもらい、69歳で退職金をもらうケースです。
60歳(iDeCo一時金受取): 非課税で受け取れます。
69歳(退職金受取): 10年経っていないため、「重複期間(20年分)」の控除枠が削られます。
本来の控除枠(35年分):1,850万円
削られる額(20年分): -800万円
実際に使える控除枠: 1,050万円
パターン②:しっかり10年空けた場合
60歳でiDeCo一時金をもらい、70歳で退職金をもらうケースです。
60歳(iDeCo一時金受取): 非課税で受け取れます。
70歳(退職金受取): 10年経過したため、重複期間を気にする必要がありません。
本来の控除枠(35年分):1,850万円
削られる額: 0円(ペナルティなし)
実際に使える控除枠: 1,850万円
一方、退職金を先に受け取る場合は、受取年から数えて20年目以降(前年以前)の間隔を空けないと、iDeCo側の控除枠が削られます。これは改正による変更ではなく、以前からある制度です。
このため、間隔を空けやすい「iDeCo一時金を先に受け取る」順序を検討するのが一般的ですが、再雇用の有無や退職金の金額によって最適解は異なります。どんな人にとって何が最適解なのか、詳しくは、次章で解説します。
参考:前の退職手当等が同一年に複数ある場合の退職所得控除額の計算の特例について(国税庁)
働き方や退職金の有無によって、最適なiDeCo受取戦略は異なります。代表的なケースごとに、税負担を最小化する受取順序とスケジュールを整理します。
退職金が多い場合、退職金だけで控除枠を使い切ってしまうため、iDeCo一時金を同時に受け取ると税金が高くなってしまいます。
最適ステップ
1.60歳: iDeCoを「一時金(一括)」ですぐに受け取る。
2.60〜70歳: 再雇用などで働き続け、退職時期を遅らせる。
3.70歳以降: 満を持して「退職金」を受け取る。
10年の空白を作ることで、iDeCoと退職金それぞれの控除枠をダブルでフル活用できます。これが最も節税効果の高い王道パターンです。
60代前半で早めにリタイアしたい人は、60歳や65歳で退職金を受け取るため、iDeCo一時金の受け取りから10年の間隔を空けるのが物理的に難しくなります。
最適ステップ
1.退職時: 退職金を「一時金」で受け取る。
2.iDeCo受取: iDeCoを「年金形式(分割)」で受け取る。
同時に「一時金」として受け取ると枠を奪い合いますが、iDeCoを「年金」にすれば計算ルールが「公的年金等控除」に変わります。
「勤続年数 × 40万〜70万円」の枠を計算した結果、退職金とiDeCo一時金を足しても非課税の枠を超えないなら、時期を気にせず、両方とも必要なタイミングで受け取ってかまいません。
受取直前の手続き漏れや確認不足は、税負担や受取遅延につながります。60歳前に必ず確認すべきポイントを整理します。
iDeCoの受け取りは、公的年金のように自動的に始まるわけではありません。自分で給付の手続きを行う必要があります。
iDeCoは拠出期間が10年に満たない場合、60歳から受け取ることができません(最短で61歳〜最長65歳からの受取開始となります)。毎年届く「確定拠出年金お取引状況のお知らせ」や、運営管理機関(証券会社など)のマイページで「加入者期間」をチェックしてください。
参考:iDeCo(イデコ)の加入資格・掛金・受取方法等(iDeCo公式サイト)
60歳(受取可能年齢)に達する数ヶ月前になると、iDeCoを運用している金融機関から、「裁定請求(給付金受け取りの手続き)に関するご案内」という書類一式が郵送で届くのが一般的です。
住所変更をしていない場合や、拠出期間が10年に満たない場合は書類が届かないため、注意が必要です。
一時金(一括)で受け取るのか、年金(分割)なのか、あるいは「併用」するのかを決定し、金融機関へ伝えます。一度受取を開始すると、後から受取方法を変更できないケースがあるため、事前の戦略に基づいた慎重な選択が求められます。
近年の税制改正により、iDeCoの受取開始年齢は75歳まで引き上げられました。これにより、運用期間を延ばして資産を増やす選択肢が広がっています。一方で、受取時期を遅らせるほど税制上のメリットや控除枠の活用タイミングが変わるため、総合的な判断が必要です。
退職金との併用を考える場合は、受取年の調整がより重要になります。制度変更を踏まえ、最新情報を確認しながら出口戦略を見直すことが大切です。
iDeCoの一時金は、退職所得控除の活用と退職金との併用ルールを理解することで、税負担を大きく減らせます。特に「10年ルール」「19年ルール」を踏まえた受取時期の調整は節税効果が大きく、注意すべきポイントです。
受け取り開始時期である60歳前から計画的に準備し、拠出期間・受取方法・必要書類を確認することで、老後資金を最大限に効率よく受け取りましょう。
